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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第九章 キケン?な女

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95.生い立ちと自由

 殺し屋しか生きる術がなかった? どういうこと?

 俺には全く理解出来ない闇の社会の話。三十年も冒険者をやっているが、その手の話は本当に噂程度にしか聞いたことがない。


「ワタシの一番古い記憶は……掃き溜めのような暗い牢で、汚物と死肉の匂いしかしなかった」

「それは……」

「ワタシは親の顔も名前も知らない。自分が誰だか知らない。でもあの日、頭領がその牢から出してくれた」


 その答えで俺は理解した。レヴィアラは奴隷だったのか。奴隷商に飼われていて、それでその頭領と呼ぶ人物がレヴィアラを買い取ったということだろう。


 レヴィアラは抑揚のない声で続ける。


「ワタシは頭領の所で殺しの(すべ)を叩き込まれ、殺し屋になった。他にもワタシと同じような子供がいたけど、皆死んだわ」


 無表情で抑揚のない声で続けるレヴィアラの語りには、何の感情の揺らぎもなかった。

 その頭領と呼ぶ男の元で殺し屋になるべく育てられたのか。そんな現実があるという事に、ただただ驚く。


「殺し屋になったワタシは頭領が指示した人間を全て殺してきた。頭領の命令だけがワタシの生きる指標だった」


 無感情に淡々と話しているが、その内容はとても重い。たぶん俺の半分ほどの年齢だと思うが、その壮絶な生い立ちは俺の想像を超えていた。


「……でも」


 初めてレヴィアラの声のトーンが沈む。

 レヴィアラの眼に、淋しさと諦めが混ざったような色が落ちる。


「頭領は死んでしまった」


 初めて淋しそうな表情を見せるレヴィアラ。唯一の生きる指標を失った事を思い出しているのか。


 しかし俺の考えはちょっと違っていた。

 強制的に、自分で選ぶ事も出来ずに奴隷から殺し屋になった彼女は、頭領がいなくなった事で解放されたはずだ。生まれて初めて自由を手に入れたんじゃないかと俺は思った。


「……何も無くなったんだよね」

「無くなった?」


 自嘲するようにレヴィアラが話す。意味が分からずレヴィアラに問いかける。


「頭領がいなくなって、君は解放されたんじゃないのか?」

「……解放はされた。けど……ワタシは誰かを殺す事しか出来ない。だから何をして生きればいいのか判らなくなった」


 彼女の瞳に再び光のない虚無が膨らむ。

 レヴィアラにとって頭領の命令と、殺し屋の仕事が全てだったわけだ。その両方が同時に失われて彼女は生きる意味を見出せなくなったということか……。


 可哀想な()だ。

 俺が今の話を聞いて感じた印象だ。

 レヴィアラの言葉は更に続く。


「結局、頭領が死んだ後もワタシは殺し屋を続けた。依頼人は何人か知っていたから、ワタシに直接依頼してくれたからね。サリーデの依頼もそいつからの依頼」

「依頼人は全部殺したって……」

「うん。だからそいつも殺してきた。大丈夫。依頼人は全部ゴミみたいな奴ばかりだから……」


 確かに人殺しを人に依頼する奴なんてロクな奴はいないだろうけど……。


「殺される方も大概ゴミみたいな男ばかりだったし」


 何とも極端な考えだ。育った環境が偏っていれば、人の考えはこうも偏るのかと思ってしまった。


 レヴィアラが微笑みながら俺を見つめる。


「でもラドウィンは違った。男どもはワタシを利用するか、抱く事しか考えてないと思ってたけど、ラドウィンはどっちでもない。そんな男は頭領以外、会ったことない」


 頭領が一番レヴィアラを利用していたのでは? と思ったがその言葉は一旦飲み込んだ。いずれ自分で気がつく日が来るだろうから。


 レヴィアラが俺の顔を不思議そうに眺めていた。そして俺に尋ねてくる。


「ラドウィンは何で冒険者になったの?」

「俺? 俺は……色んな物を見たかったからかな?」

「色んな物?」

「ああ。普通の仕事じゃなくて、色んな場所で色んな物を見たかったんだよ。魔獣とかもね」

「へぇ。いっぱい見れた?」

「ああ。いっぱい見てきたし、色んな場所にも行けた。最近はちょっとのんびりしたいな……と思ってるけどね」

「ふぅん。そうなんだ……」


 初めて彼女の年相応の笑顔を見たような気がする。笑顔の彼女がまた尋ねてくる。


「ワタシも色んな場所に行けるかな?」

「行けるさ。若いんだし、時間はたっぷりあるし、今は自由になったんだ。その気になれば何処へだって行ける」

「そうかな?」

「そうだぞ」

「ラドウィンは一緒に来てくれる?」

「いや……俺はちょっと、もういいかな……って」

「あははは……ウソウソ。真面目に答えなくていーよ」


 レヴィアラが初めて破顔する。話している内に何だか表情が出てきているような気がする。


「まあ……もう冒険者になったんだろ? じゃあ自分はどうしたいのか、ゆっくり考えればいいよ。冒険者は自由である事も一つの特権なんだから」

「……そうだね」


 やはりまだ彼女には自由になった事に対しては不安や虚無感の方が大きいんだろう。答えた時の、影を落とした表情がそれを物語っていた。


 !?


 俺とレヴィアラが弾かれたように同じ方向に視線を向けた。


「聞こえたか?」

「うん。魔獣?」

「恐らく……」


 迷宮の奥から聞こえた物音。そしてその後に続く何かが床を這いずるような音。

 たぶん魔獣が床を移動する音だろう。

 それほど速くはないが、こちらに近付いて来ている。しかも上へ上がる階段の方から。


 俺とレヴィアラは魔晶石用の革袋を仕舞い、武器に手をかける。

 逃げるのは難しそうだ。なら撃退するしかない。


 レヴィアラが俺に聞いてくる。


「もちろんやるよね?」

「それしかなさそうだな」


 俺とレヴィアラは音のする方へ武器を構えた。 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


レヴィアラの設定は結構細かく考えたのですが、長々と説明するとテンポが悪くなるので省きました。

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