93.危険な邂逅
新しい章になります。
どうぞよろしくお願いします。
イオアトスに帰って来てから一週間が過ぎた。この一週間はクエストは受けていない。クエストどころか、冒険者ギルドにも行っていない。
じゃあ、何をしていたかと言うと主にお土産配りだ。
今回、俺が皆へのお土産に選んだのは極東の珍しいお酒とお菓子だ。お菓子は長期保存が出来るうえに、優しい甘さで美味しかった。女の子や子供にピッタリだと思って選んだ物だ。
男連中に買った極東の酒はイオアトスではなかなか手に入らない物で、切れ味鋭い口当たりがいい感じのお酒だった。
バザフの武器店と、ボルゾアの家。あとリューラの所にもそれぞれのお土産を持って行った。
バザフはまた忙しくしていたので軽く話す程度で、さっさと仕事に戻ってしまった。ナサラと少し話した後、お土産はナサラに手渡しておいた。
ボルゾアの家にも大量のお土産を持って訪問した。奥さんのルルカと子供のテオが、お菓子を美味しそうに食べてくれたのは嬉しかった。
ボルゾアもまだ昼間なのに俺が持って来た酒を美味しそうに飲み、続きは夜に飲みなさいと、ルルカに優しく嗜められていたのは面白かった。
リューラは家が分からないので、とりあえず憲兵隊舎に届けに行った。すると勤務時間中にも関わらず、リューラは隊舎内の一室で会ってくれた。お土産を渡すと、めちゃくちゃ喜んでくれた。
「今度必ず、お返ししますから。ラドウィンさん」
「いや、別に大丈夫だよ」
「いえ、そういうわけにはいきません!」
とまあ、鼻息荒く話していた。
リューラはネルアリアを通じて、俺とミザネアがサリーデに行っていた事を聞いていたそうだ。
ダイラーの一件以降、ネルアリアはちょくちょく憲兵隊舎に来てはダイラーの様子を確認するらしい。だが、ダイラーは未だに目を覚まさないそうだ。
実はサリーデを離れる前にネルアリア用の土産を買うのを忘れた事を思い出したんだけど、ミザネアが買ってたみたいだから止めた。
あのお貴族様には何を買えばいいのか、全然見当も付かなかったというのもあるんだけど。
と、こんな感じで皆の所を回り、一週間が経った。
後はギルド長のセレス女史の分もお土産を買っているのだが、さすがに仕事中には渡せないと思うので、とりあえずギルドに行って様子を窺ってみることにした。
◇◇
冒険者ギルドへ到着すると、受付カウンター奥にギルド長のセレス女史の姿。別の受付嬢と何か話をしていた。
話し終えたセレス女史が俺の姿に気付き、こちらに向かって来る。
「ラドウィンさん。お早うございます」
「お早うございます。ギルド長」
「しばらくお見かけしていませんでしたが、どちらかに遠征でも?」
「はい。サリーデでひと仕事やってきました」
「おや! サリーデですか? フェスティバル関係のお仕事ですか?」
「まあ、そんなところです」
うーん……。周りの目もあるし、やっぱりここでは土産は渡しにくいな。
そう思っていると、カウンター越しにセレス女史が近付いて来て、小声で俺に聞いてくる。
「どうかされましたか?」
「あの……お土産を渡したいんだけど、 ここで渡しても大丈夫?」
少し驚いた表情を見せたセレス女史がクスッと笑い、周りにも聞こえる程度の大きさの声で話し始める。
「そういうことでしたら、私の部屋で詳しくお聞きします。どうぞこちらへ」
なるほど……これなら俺がセレス女史に何か陳情を訴えるみたいな感じ自然にギルド長室へと行けるわけですな。
セレス女史の後に続き、いい香りのするギルド長室へと案内された。
ギルド長室で土産を渡したらさっさと帰ろうと思っていたのに、お茶を出されてしまったので仕方なくソファに腰掛ける。
そうするとセレス女史から、
「以前お酒をご一緒に、とお約束したのに、なかなかお姿をお見せにならなかったので……」
そういえばそんな約束してましたね。すっかり忘れてました。
「じゃあ、また時間があればいつか……」
「お忙しいのですか?」
「あははは……まだお土産を渡しに行かないといけない所があるんで……」
と、本当はセレス女史の所で最後なのだが、とりあえずそう言って誤魔化しておいた。
◇◇◇
それから数日後。
そろそろ魔晶石採取のクエストでもやるかと思い、宿でしっかり体をほぐすなどの準備をして、朝から冒険者ギルドへと向かう。
帰って来てからギルドでは一度も食事をしていない。というか、酒のツマミ類をかなり買い込んでいたので、あんまりまともな食事を取っていなかった。
なのでクエスト前はしっかり食事をしようと思い、久々に朝食をギルドで摂ろうと思ったわけだ。
朝と言っても、俺が行くのはいつも朝のピークが少し過ぎた頃。どんどんクエストを受注して出掛けて行く冒険者達を横目に朝食を摂って、受付カウンターが空いた頃を狙ってクエストを受注するのが俺のいつものパターン。
レストランの空席が増えていくのを見ながらゆったりと朝食を摂っていると、不意に俺の正面に誰かが座った。
断りもなく座るなんて失礼な奴だと思って見ると、座っていたのは見知らぬ女性。
その女性はニヤニヤしながら俺の顔を見ている。
……たぶんヤバい奴だ。いや、ひょっとして喧嘩を売られているのか? どっちにしても知らない女だし、俺が何かしたのだろうか?
もう一度女の顔を見るが、やっぱり知らない顔だ。食事の手を止めないまま、女に尋ねてみる。
「俺に何か用かい?」
「ええ」
ニヤニヤしながら女が応えた。
「何の用?」
目を合わせないように、視線は食事に向けたまま俺がもう一度尋ねる。
「クーフェンにいるなんて、やっぱり嘘だったのね。ま、最初からそうだと思ってたけどね?」
思わず顔を上げて女の顔を見る。
あの時は夜だったからハッキリと顔は見えていなかったけど、細身の体、紫紺の髪に、表情が分かりにくい濃灰色の瞳。
間違いない。コイツは……、
「お前……あの時の殺し屋……」
「レヴィアラ。ワタシの名前はレヴィアラよ、ラドウィン。久し振りね」
俺の言葉を遮るように、サリーデにいた女殺し屋は自分の名前を名乗った。




