91.お姫様抱っこ
フェスティバルフィナーレの花火が終わり、眼下の町では人々の大移動が始まっていた。
人の流れが落ち着くまでここで飲みながら待つのも有りだと思うけど、早く戻らないとツァミ達が心配するかもしれない。
広場の方に向かうのは大変だと思うけど、とりあえず動かねえとな。
隣に並んで腰掛けているミザネアに声をかける。
「さ、ミザネア。とりあえず広場に向かおうか」
「ひゃい?」
座ったまま俺の顔を見上げたミザネアの顔は真っ赤だった。その半開きの目が彼女の泥酔ぶりを物語っていた。
しまった……。持ってきた酒がまあまあ強めの酒だった事を忘れてた。
ミザネアは酒好きだが、それほど強いわけじゃない。普段は軽めの果実酒を好んで飲んでいる。
量は大して飲んでないはずだけど、慣れない強い酒だから一気に酔ってしまったようだ。
立ち上がってミザネアに手を伸ばす。
「立てるか? ミザネア?」
「大丈夫、大丈夫〜〜」
と、口では言っているが俺の手に借りて立ち上がったミザネアの足元はおぼつかない。
ミザネアの土魔法がないと、こっから下りれないんだけど? 大丈夫か?
「ミザネア。土魔法、いける?」
「うん。ちょっと待っれねぇ」
明らかに呂律がおかしい!
ミザネアは詠唱を始めるが、案の定土魔法は発動しない。
「あれぇ? おかしいら?」
首を傾げるミザネアだが、正しく詠唱出来てないんだから魔法が発動しなくて当然だ。だが酔ったミザネアはそんな事には気付かない。
さて……困ったぞ。どうやってここから下りるか……?
考えを巡らせても俺には一つしか方法が思い浮かばなかった。
ま、だいぶ酔ってるみたいだし、明日には忘れているだろ。
「ミザネア。ちょっと失礼するよ」
そう言って、ミザネアの体を持ち上げる。お姫様抱っこだ。
「ちょっ!? えぇ?! ラドさんっ!?」
「飛び降りるからな。舌噛むなよ」
「う、うん」
目を大きく見開いたミザネアがむっと口を閉じる。俺は強化魔法を軽めにかけて、地面を見下ろす。
このぐらいの高さなら問題ない。ミザネアを抱えたまま外壁から飛び降りる。
「ひゃあっ!?」
ミザネアが驚いた声を上げる。
一瞬で地面に下りて、ミザネアの顔を見る。
「さ、ミザネア。下へ着いたけど?」
目を瞑ったままのミザネアは、俺の首に腕を絡ませたまま離れようとしない。
「あの……ミザネア。自分の足で歩いてもらわないと困るんだけど?」
「えぇ~? このまま運んでくれないの?」
「運ばない。大人なんだから自分で歩いて」
「酔わせたのはラドさんなのに?」
「勝手に俺の酒飲んだのは自分でしょ?」
「ぶぅ……」
頬を膨らませたミザネアは渋々、俺の体から離れた。
さて……とりあえず皆で花火を鑑賞する予定だった広場近くの建物に向かうか。
俺とミザネアは花火終わりで、人が溢れかえる町の中央に向かって歩き出した。
◇◇◇
……やっと着いた……。
人波を掻き分けて、やっとたどり着いたアステミア商会所有の建物。どうやら普段は倉庫や事務所として使われているみたいだった。
中に入り、ティレイア達がいるかと思ったが……
「ティレイアさん達はもう出て行きましたよ。ツァミさん達の宿に行くって言ってました」
と、商会の人から聞かされる。
「皆、もう帰っちゃったみたいだね」
「みたいだな。俺達も帰るか」
建物を出た俺とミザネアは宿に帰る事にした。
◇◇
通りを曲がって宿が見えた。あと少しだ。
ミザネアの酔いは少し落ち着いているみたいだけど、足元はまだおぼつかない。時々転ばないように俺の腕にしがみついてくる。
「あと少しだぞ。頑張れ」
「えぇ~……ラドさん、おんぶしてっ!」
「断る」
「ケチっ!」
渋々俺の袖を掴みながら歩くミザネア。
すると少し離れた所から聞き慣れた声。
「あ、ラドっちとミザネアだ!」
「おじたん! ミザちゃん!」
ちょうどティレイアとツァミとハルバリの三人が通りの反対から宿へ向かって来ていた。
ティレイアとツァミが駆け寄って来る。
「もぉ〜! 何処行ってたのよ! 気が付いたら居なくなってるから、どうしたのかと思ったわよ」
「すまねえ。はぐれたら人が多過ぎて戻れなくなってね」
「おじたん……花火、見れた?」
「ああ。別の場所から見たよ。ツァミは?」
「屋上から見た。キレイだった」
「そうか、それは良かった」
ツァミ達は無事に予定通りの場所で見れたみたいだ。
ミザネアと話していたティレイアが、低い声で俺に話し掛けてくる。
「ラドっち〜? ミザネアがだいぶ酔ってるみたいなんだけど……?」
「ああ、それは……」
「また何か変な事しようとした?」
「してねーわっ! てか、またっていつの事だよ!」
ティレイア達にミザネアと二人で外壁の上から花火を見た事と、そこで酒を飲んだ事を話すと、とりあえずは納得したようだ。
俺達が話している横をハルバリが過ぎて行く。
「ウチはもう寝るで。お先に」
ハルバリはそう言うと、スタスタと宿に向かって歩き出した。
「ハルちゃん、また明日ー!」
ティレイアの声に片手を挙げてハルバリが応える。ティレイアがミザネアに目を向ける。
「じゃあ、ミザネア。この後もうちょっと飲む?」
「うーん、ちょっとだけなら……」
ミザネアが、ティレイアにそう答えながらこちらに目を向ける。
「じゃあ、俺もここで帰るよ。ミザネアは任せたよ、ティレイア」
「え? ラドさんは来ないの?」
「おじさんは一人でゆっくりしたいから、もういいよ」
「ラドっちはおじさんだから疲れてるんだって! じゃ、行こっか。ツァミちゃんも来るでしょ?」
「こくり」
「よし! じゃあ三人であと少しで終わるフェスティバルを堪能しよう!」
何かティレイアだけが盛り上がっているように思うけど、俺は三人に背を向けて、宿へと向かって歩き出した。
昼間に酒とツマミは買い込んでいるからね。一人でのんびり飲めるのが楽しみで、宿へ向かう俺の足は自然と速くなっていった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ラドウィンは一人晩酌が好きなタイプのおじさんです。




