84.店荒らしを追え
真っ暗になった店内には月明かりしか差し込んでこない。
遠くにうっすらと聞こえていた人々の話し声が聞こえなくなって、もう結構時間が経っている。
今は真夜中。フェスティバルの二日目が終わり、残すは明日の最終日のみ。
夜遅くまで聞こえていた町の賑わいもすっかりと収まり、町は静まり返っていた。
月の光も届かないカフェの奥で、俺は身を隠し、じっと店内を見つめていた。
店荒らしがあったカフェはサフィアの商会の人達の頑張りもあり、午後から営業を再開することが出来た。
何事もなかったように営業を再開したが、再開するまでのサフィアの手際の良さと準備の早さは本当に凄かった。まさかあそこまで荒らされた店を数時間で営業出来る状態にまで持っていくとは恐れ入る。
店内は何もなかったように営業を再開したが、店荒らしがあったという噂も相まってか、昼からは初日をはるかに凌ぐお客さんが押し寄せた。
そして日暮れと共に営業を終え、後は最終日の明日を迎えるのみとなったわけだが……。
俺はその営業終わりからこの店の奥で身を潜めていた。
もちろん、再びやって来ると思われる店荒らしを捕まえる為だ。
◇◇
時は少し遡って……
カフェの片付けをしようとして、俺とハルバリはサフィアから声を掛けられた。
「ラドウィンさん、ハルちゃん。お願いがあるのだけれど、いいかしら?」
「ええ。何ですか?」
「あなた達お二人に、今晩この店の護衛をお願いしたいの」
どうやらサフィアも俺と同じ予想をしているようだ。
昨晩、店を荒らした犯人はもう一回やって来る。俺はそう予想していた。
「サフィアさんももう一回、盗賊が来るとお考えですか?」
「確信はないのですけど、ね」
「何でもう一回来るんや?」
ハルバリが素直に疑問を口にする。
俺の根拠の理由は午後からの営業再開だ。
ハルバリに小声で説明する。
「店を荒らした奴らは、この店の営業を妨害する事が目的だ。けど今日の昼にこのカフェは営業を再開する事が出来る。だから、ほとんど目的は達成されてないんだよ」
「なるほど……でもまたすぐって、そんなあからさまな事してくるか?」
そのハルバリの疑問にも俺が答える。
「それはこのカフェが明日までしか営業しないからだよ。この店がこの町でずっと営業し続けるんだったら、しばらく間を空けるかもしれないけど、明日のフェスティバル最終日でこのカフェの営業は終わりだ。だったら奴らには営業を妨害するチャンスは今晩しかないってわけだ」
納得したように何度も小さく頷くハルバリ。
柔らかく微笑んだサフィアが言葉を繋げる。
「さすがラドウィンさんです、わ。私もそう考えていますの」
「いえいえ……それにボルドン商会の奴がさっき店の前で様子を窺っていました。恐らくちゃんと妨害出来たかどうかの確認でしょう。昼から再開するという事は伝わったはずなので、俺は今晩また動いてくる確率は高いと思います」
「まあ! ……そうですか」
そうまでして妨害をしてくる理由までは分からない。けど、嫌がらせが目的ならもう一度今晩狙ってくるはずだ。ああいう人種は俺の経験上、かなりしぶといと思っている。
ハルバリが力強くサフィアに声をかける。
「ウチは受けるで、その依頼」
「ありがとう、ハルちゃん」
んー……ハルバリが受けるんだったら、俺も受けなきゃ駄目だよな。
ミザネアとツァミは魔術師だし、ティレイアもそうだ。町中で攻撃魔法は使えない。妨害してくる奴らを捕らえるなら閉所での近接戦闘になる確率が高い。
だからサフィアは俺とハルバリに願い出たんだろう。
俺とハルバリなら相手が相当な手練でもない限り、取り押さえる事が出来るはずだ。
「もちろん、お二人にはきちんと報酬はお支払いする、わ」
さすが敏腕商人。すぐに外堀を埋めてくる。そう言われたらなかなか断れない。
「分かりました。明日の最終日、この店がちゃんと営業出来るよう守らせてもらいます」
「ありがとうございます。ラドウィンさん」
サフィアは深々と頭を下げた。
こうして俺とハルバリは営業を終えた店内で、店荒らしを待ち伏せる事となったのだ。
◇◇
今、俺が潜んでいる場所からは店の正面入口が見える。ハルバリは、俺の位置からは見えないが、裏口が見える場所で同じように潜んでいる。
カフェの出入口はこの二つしかない。
侵入してくるならどちらかの出入口を使うはずだ。
店の外は静寂に包まれている……。
不意に店に近付く足音に気付いた。正面入口の向こうに人影は見えない。
裏口の方か。
少し場所を移動する。
裏口は見えないが、裏口の近くへ移動した。
すると裏口の扉がガチャガチャと音を立てる。昨日の店荒らしも裏口から侵入した形跡があった。錠前はもちろん新品の物に替えてあるが、昨日と同じ手口で侵入しようとしているらしい。
「来よったで」
ハルバリの声が聞こえた。その声は何となく嬉しそうだ。
ばんっ!
裏口をこじ開けて誰かが店内に入ってくる。
「へっ……こんな錠だけで何とかなると思ったのかね?」
「油断するな! 誰か店ん中で見張りを置いてるかもしれねえ」
「へいへい」
侵入してきたのはどうやら二人組の男。
小声で話す声、足音。間違いない。
息を潜めて侵入してきた二人が店の中へと進んで行くのを待つ。男達は小さなランタンに光を入れた。
物陰から覗くとやはり朝、野次馬に混じって店を見ていたあのボルドン商会の男だった。
男達が厨房を抜けてホールに入った瞬間、その声は突然響いた。
「止まれ! お前ら!」
「ちっ」
ハルバリの制止の声に男達が反応する。
俺とハルバリは大型のランタンに光を点ける。二人の男の顔がハッキリと見えた。
二人とも苦々しく俺達を睨むが、こちらは既に戦闘態勢だ。
素早く二人を挟み込む位置に移動する。
が、しかし。男達の判断は早かった。
「ずらかるぞっ!」
男の一人が裏口を押さえるハルバリの足元に向かって何かを投げると同時に、二人は一斉に走り出した。
ハルバリの足元で弾けた何かが激しく煙を上げる。
煙幕か!
ハルバリのランタンの光が煙幕で包まれ、遮られる。男達はハルバリの脇を抜けて裏口へ一目散に走っていく。
「逃がすかぁ!」
ハルバリが男の一人に向かって蹴りを放つが、小柄なハルバリを飛び越えて二人の男は裏口へと飛び込んで行った。
「待てやぁ!」
蹴りを空振りしたハルバリが、振り返って男達を追いかける。俺もそれに続いて裏口から飛び出して行った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思った方はぜひブックマークをお願いします。☆評価もしてくれると作者は飛び上がって喜びます。




