82.男が一人いるだけでかなり気が楽なんです
大満足の昼メシを終えて、町の中心地へ戻る俺とハルバリ。
宿へ帰ると言うハルバリと別れて、俺はティレイアのメイドカフェに寄ることにする。
さすがにもう忙しさのピークは過ぎているから、ミザネアとツァミの手伝いは終わってると思うけど……。
カフェに到着すると、予想通りミザネアとツァミの姿はなかった。店内の席はかなり埋まってはいるが、店の外に行列が出来るというほどじゃない。
カフェに知っている顔がいたので、ミザネア達のことを聞くと、
「あ、ティレイアさんとお昼ご飯に行ってますよ」
との回答。さて……どうするか?
このままカフェで待っていてもミザネア達が戻って来るか分からないので、カフェの人にもしミザネア達が帰って来たら、俺は宿に戻ったと伝えて欲しいとお願いして、宿へ戻ることにした。
町の各地ではフェスティバルの盛り上がりを見せていた。通りを挟む色とりどりの露店からは活気の良い声が聞こえ、その通りを行き交う様々な人種の旅行者達からは笑顔が溢れている。
うーん……、やはり凄いね。サリーデのフェスティバル。どの店も大盛況だし、盛り上がり方が半端ない。メシを食う所を探すのも大変だ。
けど、さっきハルバリと行った沿岸部は凄い落ち着いていたしね。またゆっくり食べたくなったらもう一回行ってみようかな。
そうやって町の喧騒を見ながら歩き、宿へとたどり着く。
とりあえず晩メシはまた腹が減ってから考えるとして、一旦部屋でゆっくりするか。
そうして宿へ入ろうとすると、通りの向かい側から俺を呼ぶ声。
「ラドさ――ん!」
ミザネアとツァミが向こうから手を振っていた。そして俺の方に駆け寄って来る。
「ラドさん! もうお昼ご飯は食べたの?」
「ああ。もう済ませたよ。二人はティレイアと行ってきたんだろ?」
「うん。もしかしてカフェに寄ってきたの?」
「ああ。行ったら二人共ティレイアと昼メシに行ったって聞いたからね」
「そうなの。ティレイアがお店を手伝ってくれたお礼にって、お昼に連れて行ってくれたの」
「こくり。美味しかった」
「そっか。それは良かった」
「ラドさん。晩ご飯は決めてる?」
「いや、何も決めてないけど?」
「じゃあじゃあ、私達ティレイアと夜もご飯の約束してるんだけど、一緒に行かない?」
やっぱりそういう流れになるよな。でも今日の夜はちょっと部屋でゆっくりしたい気分……。初日から飛ばしまくる若い二人に付き合って、おじさんは少しお疲れ気味なのです。
「んん……今日はちょっとゆっくり……」
「地酒とか珍しいお酒とかいっぱいあるらしいよ」
「……なに? 珍しいお酒?」
「ええ。大陸奥地の町から取り寄せたお酒とかも沢山置いてあるんだって! ちょっと気にならない?」
「それはちょっと……気になるな」
「でしょ?」
く……ミザネアは俺が酒に目がない事を熟知しているな。
す、少しだけ行ってみるか。けど……。
「でもその店も混んでいたら俺が増えるとマズくないか?」
「大丈夫。ティレイアの知り合いのお店で、もう個室で予約してあるから」
なるほど。そういうことなら、
「よし、行こう」
やはり俺の意思は弱い。
だってしょうがない。次にサリーデに来るなんていつになるのか分からんのだし。
個室でゆっくり飲めるとか珍しいお酒があるとか、そんな誘惑に勝てるわけないと、自分に言い聞かせる俺。
はたと思い出したようにミザネアが尋ねてくる。
「ラドさん。ハルバリって何処に行ったか知らない? ハルバリも誘おうと思ってるんだけど……」
「ハルバリだったら多分、宿にいるんじゃないかな? さっき一緒に昼食べた後、先に帰るって言ってたし……」
「え? 一緒にお昼?」
「ああ」
「二人だけで?」
「ああ」
「ふ〜〜ん……」
何故そんなにあからさまに拗ねる? 俺とミザネアだって何回か二人だけでメシに行ってるだろうに。
ミザネアはちょっと訝しげな目を俺に向けながら、
「じゃあ、後でハルバリも誘ってみるね」
「ああ。分かった」
ミザネア達と別れて、俺は宿の部屋へと戻っていった。
◇◇◇
町の喧騒を遠くに聞きながら、充分な昼寝を終えた俺はベッドからむくりと起き上がった。窓から差し込む光はすっかり傾き、オレンジ色になっていた。
何もない午後の昼寝。控えめに言って最高に気持ち良くて、最高にだらしない時間。
まあ、こうやってゆっくり昼寝をするのは久々だな。のっそりとベッドから起きた俺は身支度を整えて、ミザネア達と約束した場所へ向かった。
ミザネアとツァミ、そしてハルバリと合流してティレイアと約束した店へと向かう。並んで歩くハルバリが俺の顔を見上げる。
「なんや、おっちゃん。寝起きか?」
「あれ? 分かる?」
「分かるわ。すっきりした顔しとるわ」
「そうか。なあ、ハルバリ」
「なんや?」
「そろそろその“おっちゃん“っていう呼び方止めない?」
怪訝そうな顔をするハルバリ。
まあ、おっちゃんな事は否定しないんだけど、色々クエストとかもした仲だし、そろそろ変えて欲しいかなっていうのがこのおじさんの希望です。
「……まあ、なんか考えとくわ」
「うん。よろしく」
同じパーティーのディケイドのことも、“デカヒゲ“って呼んでるくらいだしね。あんまり期待はしてないけど、楽しみに待つことにしよう。
歩くことに数十分。前方に手を振る人物が見える。その側にはスラリとした二人の姿も見える。
「ここだよ~! ミザネア」
「あ、ティレイア」
手を振るティレイアの隣にいたのはサフィアとナディライだった。夕暮れに照らされるハーフエルフの三姉弟。
なんとも絵になる三人である。
柔和な表情を向けるサフィアが合流した俺達に話しかけてくる。
「ティレちゃんから皆と食事に行くって聞いたので、ついて来ちゃいました。よろしかったかしら、ね」
「ええ。もちろんです」
ミザネアがそう答えると、ナディライも口を開く。
「僕もお邪魔いたします」
「こくり。だいじょぶ」
ナディライがツァミに微笑みかけると、俺の側へと来る。
「すみません。ラドウィンさん。お邪魔しますね」
「全然。邪魔なんかじゃないよ。むしろ助かったよ」
「助かった?」
不思議そうな目を向けるナディライが、俺の視線が見目麗しい女性陣に向けられていると気付くと、
「あぁ、なるほど。この中で男一人は確かにちょっと……ですね」
「だろ? だから本当に助かったよ」
そうなのだ。ミザネアとツァミとハルバリの三人までならまだなんとか慣れてきたけど、そこにサフィアとティレイアのハーフエルフ姉妹はさすがに緊張する。
爽やかに微笑むナディライが、
「僕はラドウィンさんと飲めるのが楽しみにしてましたから」
「俺と?」
「ええ。冒険者のお話、聞かせてください」
「大した話ないよ?」
「そんな事ないですよ。すごく興味深いです」
そこでティレイアが引率のコーディネーターのように声を上げる。
「さあ、皆お店に行くよ――! アタシに付いて来てくださいよっ!」
ティレイアの先導で、俺達は店へと移動していった。
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どうでもいいことですが、作者の職場はほとんど男性です。




