81.通な乙女の興味とプライド
ティレイアのメイドカフェを出た俺は、隣を歩く人物に声をかける。
「どうする? 適当に一緒に町を回ってから戻るかい?」
ジロリと見上げてくるハルバリ。まだちょっとご機嫌が悪いみたいです。けど、俺から視線を外すと、
「……おっさんに任せるわ」
「オッケー。じゃあ、適当に見て回ろうか」
俺とハルバリは町の大通りに向かって歩き出した。
ミザネアとツァミはというと、まだ二人でメイドカフェを手伝っている。どうやら二人とも色んなお客さんに声をかけられたりするのが楽しいみたいで、もうしばらくお店を手伝うと言うので、俺とハルバリだけで店を出てきたわけです。
ちなみにサフィアは別の店舗を回るとの事で、カフェの前で別れました。
計らずもハルバリと二人きりになったわけだ。
この後どうするのかハルバリに聞いてみたら、宿に帰ると言うので、一緒に宿まで帰ることになった。ちなみにハルバリも、ミザネア達と同じ宿を使っている。なので俺とは帰る方向が全く同じなのだ。
二人でぶらぶらとフェスティバルで賑わう町を見て回る。
ミザネアとツァミと一緒に回った時は、二人ともあちこちの露店や大道芸を見て回るからなかなか進まなかったけど、ハルバリはそういった物には少し目を向ける程度で、全く立ち止まらずに歩いて行く。
「別に寄り道してもいいぞ?」
「大丈夫や。特に興味ないしな」
と、こんな感じ。
これだとすぐに宿に着いちゃうな。まだ昼までは時間があるけど、昼メシはどうしようかな。宿から近い何処かで済ませるか。
ふとハルバリは昼メシはどうするのか気になったので聞いてみる。
「ハルバリ。宿に戻ってから昼メシはどうすんの?」
「ん? 別に決めとらん」
「そう」
ノープランか。誘ったら来るかな? 別に俺一人でもいいんだけど、せっかくだし聞いてみるか。
「良かったら、俺と昼メシに行かないか?」
「は? ウチと?」
「ああ。嫌だったら別にいいけど……」
あの……その怪訝そうな顔で見上げるの、止めてくれない? やっぱり嫌だったか……じゃあ、昼はやっぱり一人で……
「別にええけど、どっか店知ってるんか?」
「いや、知らないから適当に入ろうと思ってたんだけど……」
「アホか? 祭り中やぞ? 昼時なんてどこも一杯や」
「あ…確かに……」
「ウチが知ってる店でええか?」
「ハルバリ、お店知ってんの?」
「そこやったら多分そんなに混んでへんわ」
「いいよいいよ。そこにしよう」
ハルバリがサリーデで店を知ってるなんて意外だと思ったけど、そういえばハルバリとディケイドは遠征に行きまくってるクリスタルランク冒険者だもんな。
俺なんかより色んな町の情報を持ってて当然か。
結局俺達はすぐ宿に到着し、俺は特に昼まですることもないので、部屋でのんびりする事にした。
◇◇
フェスティバルで賑わう町の中心地から離れた通りを歩く。
昼過ぎ頃、俺とハルバリは昼メシを食いに行く為、そんな場所を歩いていた。
もうこの辺りまで来ると、フェスティバルの賑わいはほとんど届かない。普段通りの人達が普段通りの生活をしているって感じだ。
海の匂いが強くなってきてるから、海沿いに向かっているのか?
俺は道案内してくれるハルバリについて行きながら、辺りを見回す。地元民しか知らないような道だな。
路地を抜けると、一層海の香りが強くなる。眼前に海が広がっている。
「おぉー、海だ」
「海見んの、初めてか? おっちゃん」
「いや、十数年ぶりだね」
「そうか」
ハルバリが素っ気なく応え、またスタスタと歩き出す。また別の路地に入った所で小さな食堂の扉の前で振り返る。
「ここや」
海岸近くの路地裏の小さな食堂……。あまりに渋いチョイス。おじさんはちょっとビックリです。
中に入るとカウンターと、小さなテーブル席が四つほど。客は数人程度しかいないので俺達はテーブル席に座ると、すぐに無表情な女性店員が水を置きに来る。
「注文、お決まりになったら……」
「もう決まっとる。特上海鮮丼大盛り、一つ」
店員が話し終わる前にハルバリが注文をする。すぐに俺も反応する。
「同じ物をもう一つ」
「特上海鮮が二つ……少々お待ち下さい」
一切表情を崩さない女性店員が下がって行った。改めて店内を見回すと、壁に貼られたメニューは海の物が多い。海が近いんだから当然なんだろうけど……。
しかし、こんな地元の人間しか知らないような食堂をハルバリが知っているのにビックリした。
しかもメニューを見もせずに注文するやつ決まってたし。
水を口につけるハルバリに聞いてみる。
「この食堂はハルバリの行きつけ?」
「まあ、前はしょっちゅう来とった。最近はさすがに来とらんけど」
「あ、拠点変えたから?」
「せやな。前に半年ぐらいこのサリーデを拠点にしてたからな。そん時にしょっちゅう来てた店や」
色んな土地に遠征をするのも大変だけど、こうやってそれぞれの町で自分だけの何かがあるってのは、何か羨ましい気がするね。
そうこうしているうちに注文した丼がやってくる。
「おお。いいね」
「サリーデ名物の海の特産品や」
丼の上に山のように盛り付けられた数種類の魚介の刺身に、香ばしいタレの香り。いかにも地元の料理って感じで洒落た感じは全くない。だがかなり美味そうだ。
丼が置かれた瞬間にハルバリはすぐに食べ始める。
じゃ、俺も早速いただきますか。
◇◇
大盛りの海鮮丼を食べ終えて、大満足のおじさん。いや、久々にガッツリ食べたって感じ。サリーデに来てからはミザネア達とちょっとオシャレな食事が多かったからね。食事会も豪勢だったけど、こんなにガッツリは食えんかったからね。
下町の食堂って感じの店でこういう食事はやっぱりいいもんだ。
食後のお茶を飲むハルバリに改めて礼を言う。
「ハルバリ、今日は色々ありがとう」
「ん? なにがや?」
「こんな美味い店を教えてくれて」
「別に……大したことあらへん」
そう言って、少し照れたように視線を逸らすハルバリ。
「そういや、ディケイドは全然フェスティバルには来れないのか?」
「あのデカヒゲはこっちでも仕事しとるらしいわ。だから祭りは来んらしい」
「そうか、それは残念」
ハルバリとディケイドはパーティーメンバーだけど、関係性はかなりドライだ。仕事以外は全然干渉しないって感じだよな。
すると何かに気付いて、ピクリと体を動かしたハルバリが俺に鋭い視線を向ける。
え? 俺、何か変な事言ったか?
静かに低く、ハルバリが言葉を発する。
「ウチがあの格好したのは、絶っっっ対にあのデカヒゲには言うなよ?」
「あ、ああ…分かった」
メイド服の事ね。
別に俺はスゴく良いと思ったんだけどね。だけど本人はディケイドには知られたくないみたいだから言われた通り、黙っておくことにします。
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作者のやる気が爆上がりします。




