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8.視線が気になると飲めない

 繰り出される強力な嘴の攻撃。その嘴を剣で弾き返す。硬質な音が響く。

 めちゃくちゃ硬い嘴だな。ヤワな剣だったら一発で曲がってたかもだな。

 強化魔法で強化された俺の剣はこのぐらいはどうってことない。

 更に振り回されるヴァルタロフの攻撃も、強化された瞬発力と筋力で押し返す。


 充分に応戦は出来る。けど、強化魔法の効果は数分間。効果が切れればたぶん一瞬でやられるだろう。

 力任せに俺を狙うヴァルタロフ。俺が背中に卵背負ってんの分かってんのか? そんなにゴリ押しして、俺がコケたら卵割れるぞ?

 そんな事はお構い無しで嘴を振り下ろしてくる。何発か凌いだところでヴァルタロフの動きが明らかに少し鈍った。

 そりゃそんだけ頭振れば魔獣といえど目眩(めまい)ぐらいするよ。

 

 この一瞬の隙を俺は逃さない。

 ヴァルタロフが頭を高く上げたタイミングで、ぐっと踏ん張って力を溜める。ヴァルタロフが俺を狙って嘴を振り下ろす。

 俺はその攻撃を掻い潜り、前へ跳んで奴の足元へ。そして股の下を通ってヴァルタロフの背後に抜ける。

 

 もちろん通る際に奴の脚に一撃入れている。


「グギャァァァーー!」


 脚の根元から血を噴き出して、ヴァルタロフがバランスを崩した。近くの木にもたれる態勢になるヴァルタロフ。


「悪いな」


 数歩助走をつけて跳び上がった俺はヴァルタロフの背後から首元を斬りつける。強化された俺の剣はヴァルタロフの首を一撃で跳ね飛ばした。

 

 首が無くなったヴァルタロフがドサリと崩れ落ちた。

 

 ふぅー……。終わったか。奴の身動きが取れにくい森の中だから良かったが、もしこの崖下が平地だったら確実にやられてただろうな。

 俺はその場で腰を下ろして、地面に座り込んだ。


 ◇◇


 しばらくして崖下へ降りてきたミザネアとボルゾアと合流出来た。討ち取ったヴァルタロフを見て、二人が声を上げる。


「一人で討伐しちゃったの? ラドさん」

「まあ、なんとか……だけどね」

「お前、凄えな。一人でヴァルタロフ倒した奴なんて聞いたことねえぞ?」

「たまたまだよ。奴が飛べない森の中だったからな」


 驚きながらもボルゾアはすぐにヴァルタロフの討伐証明の為、嘴を剥ぎ取っていく。


「この討伐報酬はラドのもんだな」

「こいつって討伐報酬も出るの?」

「当然ですよ、ラドさん。ヴァルタロフはAランク認定の危険魔獣なんですから」

「あ、Aランクだったのか」

「知らずに倒したんですか……」


 魔獣ごとの特徴とか戦い方とかは頭に入っているけど、魔獣のランクは覚えないようにしてた。そのランク付けが先入観になって、油断に繋がる可能性があるからだ。人が決めた評価と、実際に感じる危険度にはやっぱり多少の誤差があるからね。


「ところで卵は無事ですか?」

「うん。たぶん大丈夫だと思うけど……」


 背中のリュックを下ろして中身を確認する………………あ。


「どうでした?」

「…………ごめん。ちょっと割れてる……」


 リュックから取り出したヴァルタロフの卵には大きな亀裂が入っていた。幸い雛が産まれてくる気配はないみたいだけど。

 その俺のリアクションを見たボルゾアが爆笑しながら、


「ハッハッハ……せっかく格好良くヴァルタロフ倒したのに締まらんのぉ、ラド!」

「そうだね……」


 やっちまった……。

 これはミザネアに怒られるか、呆れられるな。彼女の方を見るとにこやかな笑顔を俺に向ける。


「まだあの巣には卵が二つ残ってますから。今なら安全に取って来れますよ」


 あ、そうだね。よし、じゃあ取りに行って来ます。

 俺が立ち上がってもう一回さっきの岩棚に行こうとすると、ミザネアが呼び止める。


「ラドさんは休んでてください。卵はボルゾアに取りに行かせますから」

「え?」

「え? 俺が行くんかぁ?」

「当たり前でしょ! ラドさんは体張って卵取ってくれた上に、ヴァルタロフを一人で倒したのよ! アンタはその間何してたのよ!」

「ん、むぅ……まあ、そうだの……」

「もうヴァルタロフはいないんだから、ゆ〜っくり卵取りに行けるわよ?」


 歯切れが悪いボルゾアをミザネアが更に煽ってる……。


「そもそもボルゾアが素早く動ければラドさんにこのクエストをお願いすることなかったんだから」

「む、むぅ……」


 完全にボルゾアの負けだ。ミザネアの美しい笑顔が悪女のように見える。


「さあ、その自慢の筋肉をフル活用して、ちゃちゃっと卵を取って来てちょうだい!」

「分かった分かった! 今から行くだの! 大人しく待っとれ!」


 完全に負けたボルゾアが崖下に垂らしたままになっているロープの下に向かった。

 そして重たそうな装備品を全て置いて、ロープを登り始めた。

 茶色チリチリ頭の筋肉の塊がゆっくりではあるが、力強くロープを登って行く。

 そのボルゾアの後ろ姿を眺めながらミザネアが呟く。


「豚もおだてりゃ何とやら……ですね」


 ミザネア、それはちょっとヒドくない?

 それにおだててないし。


 その後ボルゾアが残った二つの卵を回収し、俺達はイオアトスへの帰路についた。


 ◇◇


 ギルドへの報告はミザネアが代表して行ってくれた。その間、俺とボルゾアはレストランで飲み物を飲みながら待つことにする。


「ところで、ラド」

「何だい?」

「今日のアレは強化魔法でやったんか?」


 アレとはヴァルタロフの事だ。


「ああ、そうだよ」

「前から強化魔法を使える事は知っとったが、かなり効果が上がっとらんか?」

「前に見たのは十年以上前だろ? そん時よりは上がってると思うけど」

「そうかぁ。そしたらすぐにお前もクリスタルランクに上がれるかもしれんのぉ」

「はっは……クリスタルなんて俺には無理だよ」


 ミスリルまで上がってきたのだって奇跡に近いんだ。人外の強さが必要と言われるクリスタルランクなんてまず無理な話だ。

 ずっと強化魔法の効果が続いていたら確かに強いとは思うけど、所詮数分間。更に俺には強化された体をしっかり活かせるような剣技もない。

 第一このままミスリルでのんびりやる方が性に合っているからね。クリスタルランクなんてもっと若くて才能のある冒険者が目指すものだ。ベンゼル達のようにね。


 ミザネアが俺達の所に戻ってきた。


「もう二人で飲み始めてる?」

「まだ酒は頼んどらんよ」

「そう。じゃあ、今回の報酬を渡すわね」


 そう言いながらミザネアはヴァルタロフの卵採取の報酬を俺とボルゾアに渡す。


「それとこれはラドさんに討伐報酬ね」

「ありがとう。ホントにいいの?」

「一人で倒したんだから当然だの」

「そうですよ、ラドさん」

「じゃあ、遠慮なく」


 思わぬ臨時収入だ。ヴァルタロフは羽やら嘴やら爪やら活用出来る素材が多いので、討伐報酬はかなり高い。

 しばらくのんびりしてからクエストしていくことにしようかな?


 で、ミザネアはご所望の魔導書を手に入れてウキウキである。その魔導書を両手で大事そうに抱えながら俺の顔を覗き込む。


「ラドさん。ありがとうね。また何かあったらご一緒にお願いしますね」

「あー……そうだね。お手柔らかに頼むよ」


 いつの間にか女給を呼び止めたボルゾアが麦酒を注文する。


「ラドも飲むか?」

「あ、そうだね。じゃあ俺も飲もうかな」

「私も果実酒をお願い」

「あ、そうか。ミザネアももうお酒が飲める歳なんだね」

「そうですよ」

「ハッハッハ……酒は飲めるが、相変わらず男っ気はないがのぉ」

「うるさい! ノンデリ脳筋!」


 またボルゾアの皮肉にミザネアが肘打ち付きで返すが、ボルゾアには全く効いていない。

 すぐに注文した酒が運ばれてきて、改めて三人で乾杯する。


「では、今日はお疲れ様! ラドさん、ありがとうございました」

「いやいや……」


 それぞれにぐいっと酒を流し込む。

 あー……クエスト後の一杯は最っ高だね。仲間と飲むっていうのも久々だ。ベンゼル達は全然お酒飲まなかったから、だいたいいつも一人でお疲れ様会やってたからね。

 で、あっという間に麦酒を飲み干したボルゾアが立ち上がる。


「じゃあ、俺は先に帰るでな」

「え? もう帰るの?」

「ああ。家で嫁が待っとるからのぉ」


 ぶっ!? え? えぇっ!?

 ボルゾア、奥さんいるの?

 思わず麦酒吹いちゃったよ。意外そうな顔をするボルゾアと、くすくすと笑うミザネア。


「そうなんですよ。この筋肉の塊には可愛い奥さんがいるんですよ」

「へ、へぇーそうなんだ」


 そりゃ、ボルゾアもいい歳だから奥さんがいてもおかしくないけど、冒険者で既婚者は結構珍しい。


「ちゅうわけで……んじゃな、ラド。また一緒にクエストやろうや」

「あ、ああ」


 ボルゾアは手を上げて颯爽と立ち去って行った。

 えと…………、残された俺とミザネア。

 こんな美女と二人きりにされて、俺はどうしたらいい?

 いや、どうもしない。さすがにこんなおじさんと二人でお酒を飲むのはミザネアも困るだろう。これはさっさと解散して、一人で飲み直すことにしよう。


「じゃ、じゃあ俺達も解散しようか?」

「え? 一緒に飲みましょうよ、ラドさん。まだゆっくりお話もしてないし……」


 いや、いかんいかん。そう言ってくれても、さっきから周りの冒険者の視線が気になるんだよ。周りの男連中が君を見てくるんだよ。おじさん、落ち着いて飲めないよ。


「いや、ちょっと今日は疲れてるからまた今度、ゆっくり……ね?」

「えぇ~……」


 分かりやすく落ち込むミザネア嬢。そんな顔をしてもおじさんの意思は揺らぎません。


 結局この後お願いされまくって、もう一杯だけミザネアと飲んだ俺はミザネアをしっかり宿まで送り届けてから、冒険者の宿へと帰りましたとさ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

この話で第一章終わりです。


おじさんののんびり冒険者生活が始まるのでしょうか?

これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

ブックマークと評価はいつでもお待ちしていますので、是非よろしくお願いします。

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