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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第八章 護衛とフェスティバル

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78.一触即発

 サフィアの簡単な挨拶の後、食事会が始まった。改めて見てもなかなか高級なレストラン。こんな店を貸し切ってささやかな宴と言ってしまうサフィアには本当に驚く。

 けど食事会はそんなに堅苦しいものではなく、ざっくばらんとしたものだった。


 商会の人達の人の良さもあるんだろう、とても過ごしやすくて楽しい食事会だった。

 俺達のテーブルには時々、ティレイアが来てツァミに何か食べさせたり、ミザネアと昼間に買ったアクセサリーなどの情報交換をしていた。

 この三人はこの旅で本当に仲良くなったなと目を細めるおじさん。


 ふと隣から感じる視線。

 ハルバリが俺の顔を見上げていた。そして、フッと笑うと、


「親みたいに顔が緩んでんで、おっちゃん」

「……まあ、もう親みたいなもんだからね」

「ハルバリも混じってきたら?」

「ウチはええわ」


 ハルバリはそう言うと、残った食事に手をつけ出した。


 ハルバリも出会った頃に比べると、だいぶ話しやすくなったけど、それでもまだ距離を感じる。というか誰とも必要以上に馴染もうとしない……って感じかな。

 話せば普通に返してくれるけど長続きしない。

 同じパーティーのディケイドともそれほど会話が多いわけじゃないし、俺達とは尚のことだ。

 この旅の間も少し会話をすると、すぐにその場から立ち去っていく。

 決して愛想が悪いわけじゃないだけど、ちょっと冷たく感じるんだよな。


 ボーっとそんな事を考えてハルバリを見ていたら、眉間にシワを寄せたハルバリが俺に鋭い目を向ける。


「なんや?」

「いや……別に」

「……おっちゃん、酒、空いてんで」

「あ、ホントだ」


 すかさずハルバリが給仕を呼んで新しい麦酒が俺の前に置かれる。


 そして、なんだかんだで気も利くんだよね。可愛らしい見た目してんだから、そんなしょっちゅう眉間にシワを寄せないで欲しいなと、おじさんは思うわけです。


 ◇◇


 楽しい食事会の時間はあっという間に過ぎ、参加していた人達も、サフィアの締めの挨拶の後でポツポツと帰りだした。


 じゃあ、俺達もそろそろ帰るかとミザネアとツァミと一緒に席を立つ。ハルバリも帰るらしく、俺達の後に続く。


 そしてレストランの入口の方へと向かうと、サフィアも帰ろうとしてしていたようで、ナディライらと入口近くで談笑していた。


 俺達が挨拶をしようとすると、数人の男達がサフィアに近付き、その中で恰幅の良い陰湿な目つきをした一人がサフィアに声をかける。


「やあ、サフィアさん。貸し切っていたのはサフィアさんだったのですね」

「あら……ピプロットさん。お久しぶり、ね」

「相変わらずお美しいですな」

「うふふ……ありがとうございます」


 会話だけ聞くと普通の挨拶だが、実際の絵面はかなりギスっている。

 ピプロットと呼ばれた男の周りには目つきの悪い男達が周囲に睨みを効かせている。

 対するサフィアの側にいるナディライ達もその男達に負けずと鋭い視線を向けている。

 その中で柔和な笑顔を見せるサフィアと、陰湿な笑みを浮かべるピプロット。

 実にアンバランスな構図だ。


 何か、ただならぬ因縁みたいなのを感じるな。

 ピプロットの存在に気付いたサフィアの商会の人にも緊張の色が見える。


 口角を歪に上げたまま、ピプロットが話し出す。


「フェスティバル前の決起集会、のようなものですかな?」

「そうですわ、ね。そのようなものですわ」


 ピプロットのねっとりとした視線がレストランのホールの方に向けられる。


「景気の良い事で……実に羨ましいですな」

「ええ、おかげさまで……」


 凄く居心地が悪くなってきた。早く帰りたいのだが……。

 不意に背中から小声が聞こえる。


「うわ……ピプロットじゃん、最悪。なんでアイツ、ここにいんのよ」

「ティレイア、知ってんの?」

「別に知りたくないけど…知ってるわね」


 ティレイアが顔を歪ませて答える。どうやら予想通り、ピプロットは嫌われ者のようだ。


「やらしい顔したおっさんやな」

「でしょ? マジでアイツ最悪だからね。裏で他の商会の妨害したり、平気で奴隷取引したり、マジでいい噂聞かないからね」

「そんな感じやな。性格の悪さが顔に出とるわ」


 小声だからたぶん聞こえてないと思うけど、ティレイアとハルバリがピプロットに対してかなり失礼な事、言ってんだけど……。


 陰湿な表情を顔に貼り付けたまま、ピプロットが続ける。


「いやぁしかし、サフィアさんの所は美男美女揃いですな。皆、アナタから商談ではなく色仕掛けでも教えてもらえばもっと売り上げが伸びるのでは? あぁ、いっそのこと娼館など経営するのも面白いかもしれませんね? 私がご協力しましょうか?」


 何とも陰湿なピプロットの視線が、ホールの方からサフィアに向けられる。取巻きの押し殺した嘲笑がかすかに聞こえてくる。


 突然ティレイアが俺達を置いて、サフィア達の方へと歩き出した。そしてサフィアの側まで来ると、ピプロットに向かって話し出す。


「ピプロットさん! 今日は何かお姉様にご用かしら? 申し訳ないけど、宴も終わって今から帰る所なのだけれども?」


 ティレイア! 何か変な言葉遣いになってる!

 だが、高圧的なティレイアにピプロットが一瞬怯む。


「ん、あ、サフィアさんの妹さんか。すまないね。このレストランで食事を、と思って来てみたら今日は貸し切りだと聞いてね。どんなセレブな人物が貸し切ったのかと気になったものでね」

「あら、そう。貸し切っていたのはお姉様……アステミア商会のサフィア=アステミアよ。これで疑問は解けたわね! はい、お出口はあちらよ」


 何とも雑な追っ払いだ。

 ピプロットの取巻きもティレイアの横柄な態度に思わず身を乗り出すが、ピプロットがそれを制した。

 ナディライもティレイアの肩に手を乗せ、荒ぶる姉を制する。

 ピプロットの表情が更に歪んで、視線に粘着質な光が宿る。


「どうやらお邪魔だったようだね。大変失礼した」


 口ではそう言っているが、ピプロットの全身から不快感が伝わってくる。だが、ティレイアも全く引かない。


「そうね。だったらさっさと……」

「ティレイア……止めなさい」


 良く澄んだサフィアの声が文字通りこの場を凍り付かせた。姉に冷ややかな視線を向けられたティレイアが口ごもり一歩下がると、サフィアがピプロットに頭を下げる。


「愚妹が大変失礼致しました。ピプロットさん」

「いえ……」

「この場は(わたくし)に免じて、お引き取り願いますでしょうか?」


 毅然とした態度で頭を下げるサフィアの姿に、ホールにいたアステミア商会全員が席を立ち、ピプロットの一団に目を向ける。

 

 こうなると下がらずを得ないだろうな。あの(ピプロット)、煽りすぎたな。

 

 まだ陰湿な目をティレイアに向けていたピプロットが体の向きを変えた。そして首だけを少しサフィアに向けて言葉を返す。


「分かりました……フェスティバル前です。お互い今日はこれきりという事で」

「そうですわ、ね。失礼しました」


 ピプロットが取巻きの男達を連れて帰って行った。

 一触即発のような空気から解放されて、思わず息を吐き出す。いきなり喧嘩腰でいくからビックリするわ。


 ピプロット達が立ち去り、静寂が戻ると、


「……ティレちゃん?」

「……はい……」

「私が何を言いたいか、分かるわ、ね?」

「だって、あの男がお姉ちゃんに失礼な事を……」

「だって……じゃありません」


 サフィアのとても凛とした声で説教されて、小さくなるティレイア。隣のナディライも呆れたように声をかける。


「気持ちは分かりますけど駄目ですよ、レイア姉さん。あんな安い挑発に乗ったら……。相手は何をしてくるか分からない人なんですから……」

「だってアイツが……」

「……ティレちゃん」

「はい……ごめんなさい……」


 姉弟からガチで説教されてるやん。元クリスタルランク冒険者なのに。

 そんな光景を見ながら、ハルバリが俺の隣でボソリと呟く。


「何かよう分からんけど、商売の世界は大変そうやな」

「同感」


 ハルバリと顔を見合わせて、二人で肩を竦めた。何かちょっとハルバリと距離が近付いたような気がした。


 

 少し離れた所にいた俺達に気付いたサフィアが声をかけてくる。


「皆さん、ごめんなさい、ね。何でもないですから」

「いえいえ……」

「明日からのフェスティバルは是非楽しんでください、ね。ティレちゃんもカフェで頑張るはずですから、是非行ってみてください、ね」


 と、ティレイアのカフェを薦められた。

 サフィアの隣でぎこちない笑顔を見せるティレイアが、何となく痛々しい気がしたのは俺だけだったろうか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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してくれればたぶん作者は跳んで喜びます。

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