76.周りから見たラドウィン
今回は三人称視点でお送りします。
主人公のおじさんは周りからこんな感じで見られています。
ディケイドは近付いてきたサフィアから報酬を受け取ると、
「無事に到着出来て良かったです」
「ええ、ありがとう、ね。ディケイド。急な依頼だったのに受けてもらって……」
「いえ」
「でも大したもの、ね。素晴らしい護衛の人達だったわ」
「そうですね。寄せ集めでしたけど、いい魔術師が二人も見つかって良かったです」
「そうね。あの二人は素晴らしい魔術師ね。ティレちゃんとも仲良くなれたみたいだし……。それと彼、ね」
「ラドウィンですか?」
「ええ」
ディケイドとサフィアが同時にラドウィンの方に目を向ける。ラドウィンは少し離れた所でナディライ達とお互いを労うように談笑していた。
イオアトスからこのサリーデまでの道程……予定通りに行けたのはティレイア達魔術師の力が大きかったのは事実だ。
彼女達が魔法で魔獣の接近を許さずに撃退したから、馬車は襲撃を受けても止まらずに進む事が出来たからだ。
だが単純に彼女達の魔法の火力が高かったというわけではない、というのを経験豊富なディケイドとサフィアは気付いていた。
サフィアが視線をラドウィンに向けたまま続ける。
「彼の的確な指示と状況判断力……。実に素晴らしかったわ、ね」
「確かにそうですね」
旅の当初はディケイドが護衛達のリーダーとして、魔獣の襲撃の際は全員に指示を出していた。
しかし途中からはラドウィンがその役割を担っていた。襲撃を受けた時のラドウィンの判断速度がディケイドのそれを上回っていたのだ。
ディケイドが状況を把握する前に、ラドウィンは魔術師達とナディライに指示をして、彼らはそれに従っていた。
魔獣の数、特性などを瞬時に把握し、どの魔法をどのタイミングで放つのか? バックアップのナディライはどこを注視すればいいのか?
そういった全体の状況を俯瞰で見る能力、観察力がディケイドを大きく上回っていたのだ。
ハルバリがディケイドとサフィアの元に近付く。
「あのおっちゃんもだてに三十年、冒険者やっとらんっちゅうことやな」
「ただの経験だけで身に付くもんじゃねえよ。アレはラドウィンの才能の一つだな」
「ふーん……剣士やのになんでそんな事出来るんやろな?」
「さあな。けどラドウィンがパーティーにいればメンバーはだいぶ戦いやすいだろうよ。実際にパーティーを組んだ事のあるミザネアもそう言っていたしな」
「へぇ……でも今は一人で石拾いばっかりやってるんやろ?」
「みたいだな。本人にそういう自覚はねえみたいだな」
「せっかく素晴らしい能力ですのに、もったいないわ、ね」
ラドウィンがミザネアとツァミに連れられて、宿屋に向かって歩き出した。ラドウィン達と話し終えたティレイアとナディライがディケイド達の所に向かって来る。
ティレイアがディケイドに向かって陽気に手を振る。
「お、ディケ! お疲れ! お姉ちゃん口説いてんの? 止めときな、アンタみたいなむさ苦しい髭ヅラはお姉ちゃんの好みじゃないから」
「うっさいわ! てか、口説いてねえわ」
「あっそ。ハルちゃんもお疲れ! ありがとね」
「ウチはあんま仕事しとらんけどな」
「まー、しゃーないよ。アタシというスゴい魔術師がいたからねっ!」
「自分で言うか……」
ドヤ顔を見せるティレイアだったが、すぐに苦笑いを浮かべる。
「まぁ……でも、ほとんどラドっちの指示通りに魔法撃ってただけ、だけどね」
サフィアとディケイドがフッと笑みを浮かべてお互いの顔を見合わせる。さっきまで話していた内容だったからだ。
どうやらティレイアも、ラドウィンがこの旅で見せたその判断力の高さに気付いていたようだ。
ティレイアがケタケタと笑いながら続ける。
「なんかラドっちって、お空から見てんの? っていうぐらい全方向見えてんだよね。アレってどういうことなのかなぁ?」
「確かに……。魔獣の接近に気付くのもかなり早いですしね」
ティレイアの疑問にナディライが相槌を打ち、ティレイアが更に続ける。
「やっぱナディも気付いてたんだ。で、ビックリするぐらい的確なんだよね。ミザネアとツァミちゃんもすぐそれに反応出来るし……。大したもんだよね」
楽しそうに話すティレイアに向けて、サフィアが少し意地悪そうな笑みを浮かべる。
「また冒険者やりたくなっちゃった? ティレちゃん?」
サフィアのその問いに慌てて否定するティレイア。
「そんな事ないよ! 全然やりたくないよ! アタシは……」
言い淀んだティレイアが頬を少し赤く染める。
「お姉ちゃんを絶対に守るって決めたんだから……」
「まあ! 頼もしいわね。意地悪言ってゴメンね。こらからもよろしく、ね。ティレちゃん。頼りにしてるわよ」
「……お姉ちゃんのイジワル……」
笑顔でティレイアの頭を撫でるサフィアと、拗ねたように頬を膨らますティレイア。それを見て一同から笑顔が溢れる。
ティレイアが照れ隠しなのか、ディケイドを睨みつけると、
「だぁー! 笑うなっ! アンタ絶対ウチのカフェに来なさいよ! 思いっ切りぼったくってやるから!」
「おい! ぼったくられると分かって行くワケねえだろ! てかちょっとこっちで用事があってな、悪いがフェスティバルを楽しむ時間は無さそうだ」
「何それ!? またギルドからご指名?」
「まあ、そんなもんだな」
「ハルちゃんも一緒?」
ティレイアがハルバリに目を向けると、
「ウチは今回はノータッチや。デカヒゲだけの仕事や」
「あ、そうなんだ。じゃあ、ディケだけ勝手に仕事してたらいいわよ。ハルちゃんはウチの店に遊びに来てね〜」
ハルバリは、はにかんだように視線を逸らすと、
「まあ……気が向いたら、な」
ハルバリのその反応を見て、ティレイアとサフィアの姉妹が顔を見合わせて微笑んだ。
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