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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第八章 護衛とフェスティバル

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74.同時発動

 ミザネア達が休む馬車へ近付くと、荷台の中からミザネアが顔を覗かせる。


「ラドさん! 何かあった?」

「山賊が近付いてきてる」

「え? じゃあ私も……」

「いや、ミザネアはこの馬車の近くにいてくれ。山賊は俺達で対処する。サフィアさんは?」

「寝てるわ」

「起きてるわ、よ」

「うわ!」


 荷台から顔だけを出していたミザネアの上からサフィアが突然顔を覗かせる。

 イタズラが成功した子供のように微笑んだサフィアが続ける。


「驚かせてごめんなさい、ね。で、護衛の皆さんは大丈夫かしら?」

「ええ。山賊は恐らく十人前後です。ティレイアとナディライが対処してくれるみたいですが……」

「あら! 二人が頑張ってくれるの、ね」

「ミザネアにこの馬車を守ってもらいますので、サフィアさんは馬車の中にいてください」

「そう、ね。分かりました、わ。よろしくお願いします、ね」


 そう言ってサフィアが頭を引っ込めると、ミザネアが荷台から降りてくる。


「ラドさんはどうするの?」

「俺はあっちでディケイド達のフォローをする。ミザネアはここを頼むよ」

「え〜、ラドさんは私を守ってくれないの〜?」


 首を傾けていたずらっぽく微笑むミザネア。こんな逼迫した状況でおじさんをからかうのは止めて欲しい……。


「ウソウソ。気をつけてね、ラドさん」

「……サフィアさんを頼むよ」


 困った俺の反応に満足したのか、ミザネアは笑みを浮かべてウインクで応えた。若い女性にからかわれたおじさんは苦笑いを返すので精一杯です。

 俺はすぐに振り返ると、ディケイド達の所へと戻っていった。



 御者台の後ろに身を隠したディケイド達が、山の方角を見つめていた。どうやら山賊の方角が分かったようだ。

 ティレイアの後ろでナディライは既に矢を放てる準備を済ませていた。その隣のディケイドの足元にも矢が何本も置かれていた。

 俺が戻ってきた事に気付いたティレイアが俺の方に振り返る。


「あ、来た来た。ラドっちも準備して! もうすぐ見えるよ」


 ラドっち……? 俺のこと?

 困惑してディケイドを見ると、ディケイドが肩を竦めて数本の矢を俺に差し出す。


「ラドウィン。ナディライが矢を放ったらそれに合わせてこの矢を上に向けて目一杯投げてくれ」

「投げる? それだけ?」

「ああ。出来れば山賊の方に向けてな」


 確かに矢での攻撃は有効だと思うけど、ただ投げただけでは落ちてくるだけで威力はない。そもそもそんなに上手く当たるワケもない。ただ矢を無駄遣いするだけだろ?


「投げた後はコイツが何とかする」

「何とか?」


 ディケイドの視線がティレイアに向く。

 ニヤリと笑ったティレイアが座ったまま、形の良い胸を張る。


「そゆこと。だからラドっち達は目一杯、矢を上に投げちゃってね」


 どういうことだろう? 空中に放り投げた矢を操る魔法なんてあったか? そんなの聞いたことないぞ。

 とにかくクリスタルランク冒険者の二人が信用しろと言ってるんだから、ここは指示通りにするか。



 矢を番えるナディライの耳がピクリと反応する。

 正面の方を睨みつけていたハルバリが小さく片手を挙げて、指を差す。

 こちらの様子を窺うようにゆっくりと迫る十数人の人影が山肌を下っていた。その手には弓や槍が握られている。

 やはり飛び道具だな。あの飛び道具で先制して、後はなだれ込むように奇襲という感じかな?

 周りの山肌に他の山賊の影はない。つまりあの一団が奇襲隊であり、本隊ということで間違いないだろう。


 ナディライが山賊達に向かって弓を引いた。同時に俺とディケイドも数本の弓を手に取った。


 ビュンっ!


 ナディライの放った矢がうっすらと光りながら、糸を引くように夜空に放たれた。

 そしてその矢が山賊の一人に突き刺さる。

 あの矢を光らせたのは目印か。けどちょっと遠すぎるぞ。投げた所でとても届くような距離じゃない。


「今だよ! ディケ! ラドっち!」


 ティレイアの合図に合わせて、俺とディケイドが数本の矢を空へと放り投げる。が、とても遠く離れた山賊には届きそうにない。


 次の瞬間、突風が俺達の頭上を通過した。その突風は俺達の投げた矢を巻き込み、まるで意思を持ったかのように矢が空中を飛翔する。


「なんだあれ?」

「ティレイアの風魔法だよ」

「風魔法?」


 ティレイアの方に目をやると、彼女は虚空を指でなぞるように動かしている。魔法の風を操作しているのか!

 更にもう片方の手を空へかざすと、その手から放たれた雷が空中を飛翔する、俺達が投げた矢に当たる。


「よ――し! じゃあ、飛んでけ――!」


 ティレイアの声と共に矢が一斉に山賊達に降り注ぐ。風魔法で加速し、雷魔法で雷撃を付与された矢が山賊達に突き刺さっていく。


「さあ! どんどんいくよ! どんどん投げちゃって!」


 ティレイアのその声に、俺とディケイドはまた空中に矢を投げる。そしてナディライも空へ向かって矢を連射する。

 最初にナディライが放った光る矢を中心にした一帯にどんどん矢を落としていくティレイア。

 

 風魔法と雷魔法の同時発動! とんでもない技術だ。宙を舞う矢を風で操作するだけでも凄い魔力操作が必要なのに……それに雷撃を付与するって……えげつないな。

 

 何度か矢を落とした所で、ナディライが声を発する。


「レイア姉さん。一度止めます」

「りょーかい」


 雷撃の矢が止まり、辺りが静寂に包まれる。山賊の様子を窺うようにナディライが耳を立て、ハルバリが御者台の上に立ち、目を凝らす。


「足音はありませんね」

「動いてるヤツもおらんな」


 そのままハルバリが山賊達の様子を確認する為、山を駆け上がって行った。

 すぐに戻って来たハルバリが俺達に報告する。


「全滅しとったわ。全部で十三人や」

「いえーい! 撃退完了だね」


 無邪気に喜ぶティレイアと、ホッと胸を撫で下ろすナディライ。全然違う姉弟の反応に思わず笑みが溢れる。

 ディケイドが俺に声をかける。


「じゃあ、矢の回収に行くか」

「ああ、そうだな」

「あ、じゃあ僕も行きますよ」

「ナディライはいいよ。もう休んでな。君は夜の見張り担当じゃないんだし」

「でも、それはラドウィンさんもじゃないですか」


 とまあ、もっともな返し。けどおじさんはね、全然眠くないんだよ。正確に言うと、おじさんはこんな時間に一度起きたらなかなか寝付けないんだよ。けど、おじさんはカッコつけてこんな事を言ってみます。


「大丈夫。雑用は俺が引き受けるから、ナディライは明日に備えて早く休んでて」

「いいんですか?」

「うん。問題ないよ」


 ナディライは感謝の言葉を残して、荷台へと戻って行った。それを見送って山へ向かおうとすると、ティレイアが声をかけてくる。


「優しいね〜、ラドっち」

「……まあね」

「あははは! じゃあ、矢を拾いに行くのはラドっち達に任せて、アタシは可愛いツァミちゃんの寝顔を眺めに行くとしますか」


 すかさずハルバリがティレイアの頭をはたく。


「どアホ! お前も手伝え! お前は見張り担当やろが!」

「わぁー! ディケ! ハルちゃんがアタシをぶったぁ!」

「叩いたんちゃうわ! 突っ込んだだけや! 早よ拾いに行くぞ!」


 こうして俺とディケイドとハルバリ、そして彼女に首根っこを掴まれたティレイアの四人は、山賊を攻撃した矢を回収する為に夜の山を登り始めたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

作者もおじさんなので、目覚ましが鳴るより早く目が覚めることが多々あります。

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