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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第八章 護衛とフェスティバル

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73.姉弟のとっておき

 日の出と共に宿場町を出た俺達の馬車はほどなくして山岳地帯へと入って行く。

 一応、道と呼べる物は走っているが、かなり足場は悪い。

 馬や荷台への負担を考えるとあまりスピードは出せないので、これまでに比べるとかなりゆっくりした進み具合だ。


 四台の最後尾の馬車にはナディライが乗っていて、御者台から周辺に目を光らせていた。先頭の馬車には俺の他にミザネアとツァミも乗っている。更にサフィアもいた。

 二台目と三台目には夜の見張りを担当することになっているディケイドとハルバリが体を休めていた。

 で、同じく夜の見張りをすることになっているティレイアが俺達と同じ先頭の馬車に乗り込んでいた。

 つまり初日と全く同じメンツがこの先頭の馬車にいる。


 俺やミザネアはともかく、ティレイアは夜の見張りがあるので休んで欲しい所なのだが……


「アタシはツァミちゃんを眺め、そして愛でることで休息になるから大丈夫よん」


 などと言って乗り込んでくる始末。

 姉のサフィアも、


「ま、やる時はちゃんとやる子ですから好きにさせてあげてください、ね」


 と言っていたので、とりあえず放置する事にした。ただ俺以外、女性というこの馬車の状況からは早く逃れたいと思うが。

 そんな俺の事など何も気にせず、馬車の中はティレイアとツァミを中心に、女性達だけで楽しく盛り上がっていた。

 俺はずっと空気のように存在を消し、ぼんやりと外の景色へと意識を向けていた。



 山岳地帯は道は悪いが、見通しはいい。岩肌が所々露出した山は隠れられる所が少ないので、明るい内は魔獣にしても山賊にしても、しっかりと目を周りに向けていればそうそう奇襲を受けることはない。

 その為に目も耳もいいナディライが全体を見渡せる最後尾にいるのだから。



 そして数回の休憩を挟んで日没が近付き、俺達は馬車を停めて野営の準備を始めていった。


 馬車を一ヶ所に集め、全員で野営と食事の準備をしていく。


 ◇◇◇


 静かな山岳地帯の夜。

 俺達は全員食事も終えて、見張りのディケイド達を残して、他は全員馬車の荷台の中に入っていた。

 

 月明かりだけが俺達の馬車を照らし、時おり小動物や虫の鳴き声が荷台の中に聞こえてくるだけで辺りには沈黙が広がっていた。


 俺は馬車の荷台の中で横になり、眠りについた。同じ荷台にはナディライがいる。

 昼間に護衛をしていたミザネアとツァミは別の荷台で休んでいる。

 そして馬車の周りには夜の見張りを担当しているディケイド達がいるはずだ。

 静かな時間だけが過ぎる荷台の中で、ナディライと少し世間話をした後、俺は眠りについた。


 ◇◇


 妙な違和感と胸騒ぎと共に目を開ける。辺りはまだ暗い。俺が寝てから二、三時間てとこか。

 ふと周りに目を向けると、ナディライが荷台の隙間から外の様子を窺っていた。

 小声でナディライに話し掛ける。


「何かあったのかい?」

「あ、すいません。ラドウィンさん。起こしてしまいましたか」

「いや、何となく違和感みたいなのを感じてね……」


 少し驚いた表情を見せたナディライが続ける。


「ラドウィンさんもですか。僕も遠くから音が聞こえるような気がして……」

「音?」

「はい」


 音とは思わなかった。ナディライ達ハーフエルフは俺達よりも耳がいい。人間よりも遠くの音を聞くことが出来るらしいから、俺には聞こえない何かがナディライには聞こえているのだろう。


 音か……。ちょっと聴覚だけに強化魔法をかけて俺も探ってみるか。

 

 俺は強化魔法を自分の聴力だけにかけた。これで俺の聴力は一時的に跳ね上がる。

 耳に神経を集中すると、より遠くの音が聞こえてくる気がする。


 聞こえてくる音の中にナディライが言う、山岳地帯にはないような音に気付く。その音が人間の足音だと気付いた瞬間にナディライと目が合った。


「足音……ですね」

「そうだな。少なくとも十人以上だ。近付いてきているな」


 俺とナディライは荷台から出て、近くにいたハルバリの所に向かう。


「なんや。お前らも聞こえたんか?」

「ああ」

「山賊やろな。こっちに向かってきとるわ」


 ハルバリもこの異変に既に気付いていたようだ。彼女は既に少し腰を浮かせて山肌の上の方を睨みつけていた。あの山肌の向こうから例の足音は聞こえてきている。


 異変に気付いたディケイドとティレイアも俺達の側へやって来る。


「姿は見えるか? ハルバリ」

「いや、本隊は見えへんな。たぶんウチらの様子を見てる偵察が何処かに居るんやろうけど、見えへんな」

「ふぅん……、その偵察が本隊を呼び寄せたんだね」


 ディケイドの問いにすかさず答えるハルバリに、周囲に鋭く目を向けるティレイア。

 さすがクリスタルランク冒険者。素早く状況を理解して、周りに注意を向ける。

 ハルバリがディケイドに話し掛ける。


「ウチが先に行って、かき回すか?」

「いや、まだ相手の人数も攻撃方法も分からん。まだ動かねえ方がいい」

「ちっ」


 ハルバリは舌打ちするが、ディケイドの言う通りだ。相手の状況も分からないのに突っ込むのは得策じゃない。

 それに俺達がまず考えるべきは……


「ディケイド。ミザネアを起こして防御壁の準備をするか?」

「ふむ……そうだな」


 まずは依頼人の安全だ。俺は山賊が弓や槍などの飛び道具を使う事を予想して、ディケイドに提案する。ディケイドが思案するが、先に答えたのはティレイアだった。


「飛び道具想定ね。だったらアタシに任せてよん。ナディ。矢は一杯持って来た?」

「はい。ありますけど……」

「じゃ、久々に()()やるよ! ハルちゃん、山賊の方角が分かったら教えて」

「おう。ええけど……」

「何をするんだい?」

「ふふーん。ウチらのとっておきだよ」


 そう言ってティレイアがニヤリと笑って答える。何かナディライと連携して山賊を攻撃するみたいだ。

 ディケイドが俺に話しかけてくる。


「ラドウィン。ミザネアはサフィアさんと同じ馬車で休んでいるだろ? 念の為、声だけかけておいてくれ」

「分かった」


 そう答えて、俺はミザネアのいる馬車へと向かった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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していただいたら、作者のやる気が爆上がりしますので、ぜひよろしくお願いします!

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