66.護衛の依頼
新しい章になります。
少し長めの章ですが、ぜひお付き合いください。
憲兵隊ダイラーの一件もひと段落して、俺は魔晶石拾いのクエストを再開しだした。
相変わらずダイラーは昏睡状態のままらしいが、リューラもしっかりと職場復帰をしたらしいので良かったと思う。
……しばらくややこしい頼み事は断るようにしよう。石拾いを再開した俺はしみじみそう思う。やっぱり俺には一人でのんびりやるのが性に合っていると実感する。
「さて……今日はこんなもんかな?」
遺跡内の迷宮で石拾いを終えた俺は町へ戻ることにした。まだまだ外は明るい。
町に着く頃にはちょうど日没ぐらいだろう。グリハンの一件があって以来、念の為明るい内に町に戻るようにしている。
何とも健全な生活だ。
町へ戻る頃には空は夕陽で真っ赤に染まっていた。
◇◇
少し混み合うギルドで魔晶石の換金を終えて、ギルド内のレストランへ移動する。夕食はだいたいこのギルドのレストランか、行きつけの酒場で済ませている。今日はレストランで夕食をとる事にした。
ギルドのレストランはクエスト帰りの冒険者でなかなか混んでいるが、座れないというほどじゃない。
いつもの端っこの席に座り、女給を呼ぼうとする。見回した先に大きな男の姿。
その男がこちらに向かってくる。
「久しぶりだな、ラドウィン」
「ああ、ディケイド。帰って来てたんだな」
この大きな男の名はディケイド。数少ない冒険者の最高ランク、クリスタルランクの冒険者だ。ディケイドとは前にリパードベア討伐のクエストを一緒にやった時以来の再会だ。
クリスタルランクの彼は相方のハルバリと共に、高難度のクエストを受ける為に大陸中を走り回っている。一応拠点はこのイオアトスらしいが、クエストの遠征で一ヶ月近く町を離れる事も珍しくない。
なのでこうやってギルドでバッタリ会うという事もほとんどない。
軽装のディケイドが俺の向かい側に座る。
「クエスト帰りか?」
「ああ。いつもの石拾いだよ」
苦笑いのような愛想笑いを浮かべるディケイド。一つしかランクは変わらないのに、ディケイドは高難度のクエストの為に色んな町へ走り回り、俺はいつもの迷宮でのんびり魔晶石集め。同じ冒険者と言ってもやっている事は全然違う。前にボルゾアにも言われたが、こんな俺は冒険者と名乗っていいのか? とか時々考えてしまうが出来るだけ考えないようにしよう。
お互いに頼んだ麦酒をぐいっと一飲みして、ディケイドが身を乗り出す。
「ちょっと頼みたい仕事があるんだが?」
「仕事? 直接の依頼かい?」
「ああ。知り合いの商人からの依頼なんだがな……」
直接の依頼というのは冒険者ギルドを通さない仕事のことだ。ギルドを通さない分報酬は高いが、依頼人の身元がハッキリしていないと騙されて報酬が貰えないなんて事もあり得る。まあ金に困っている冒険者はそのリスクも承知で引き受ける奴らも多いが。
「その商人は大丈夫なのか?」
「ああ。それは俺が保証する。俺もその依頼を受けるつもりだからな。それをラドウィンにも手伝ってもらいたい」
それならば依頼人は大丈夫そうだ。問題は仕事の中身だ。
「で、内容は?」
「護衛だ。サリーデまでの道中の護衛を頼みたい」
「サリーデ……。あの海の近くにある?」
「そう。沿岸都市サリーデだ。近々フェスティバルがあるのを知っているか?」
「あー。あの有名なヤツね」
沿岸都市サリーデで行われるフェスティバルはとても有名だ。大陸中から商人やら芸人などが集まり盛大に盛り上がる祭りで、毎年三日間行われる。
「そのフェスティバルに参加する商人でな。頼んでいた護衛が来れなくなったから急遽、俺に声がかかったんだ」
「なるほど……でもフェスティバルって時期的にもうそろそろじゃないのか?」
「ああ。来週には始まる。で、サリーデまでの行程は約十日間」
「ギリギリじゃねえか!」
「そう。明日には出発して前夜祭の前の日に到着する予定になっている」
「明日かよ……」
「急なのは百も承知だ。俺も聞いたのは今朝だからな」
「で、朝からギルドで声をかけまくってるってことか?」
「昼からだな」
「そりゃご苦労様。で、何人集まった?」
その俺の問いかけにディケイドが視線を落とす。
「俺と……ハルバリの二人だけだ」
「誰も集まってねえっ!」
「そうなんだ! だから頼む、ラドウィン! 俺とハルバリだけじゃさすがに十日間の道程はムリなんだ」
テーブルに手をついて頭を下げるディケイド。知り合ってそれほど付き合いが長いわけじゃないが、こんな弱気なディケイドを見るのは初めてだ。
まあ……俺は引き受けてもいいが……内容が分かれば次は……
「分かった。報酬は? それを聞いてから判断する」
この仕事は冒険者ギルドを通していない。だから当然クエストポイントは入らない。往復の道程も考えると一ヶ月近くもイオアトスを離れる事になる。
ならそれに釣り合う報酬でないと。
ディケイドが顔を上げ、不敵な笑みを浮かべながら指を二本立てる。
「報酬は、一人二百万だ」
「二百万っ!? マジで?」
「ああ。しかもフェスティバル中はそのままサリーデに滞在して、宿も用意してくれる。イオアトスまでの帰りの馬車代も依頼人持ちだ」
「マジか……凄い依頼人だな」
「ああ。かなり条件はいいと思うぜ」
ニヤリと笑うディケイドの背後から聞き慣れた女の声が聞こえてくる。
「一人二百万ですって? ちょっと私も詳しく聞きたいなー」
ディケイドの大きな背中の向こうからミザネアがひょっこりと顔を覗かせる。その顔はなんとも言い難い……ヤラシイ笑顔を浮かべていた。
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