60.即席連携
ネルアリアの手に魔力が集約していく。
ヤバい……コイツ、マジで何か撃つつもりだ。
ダイラーに捕らえられたリューラは手足をバタつかせて、必死に声にならない声を上げている。
ネルアリアの指先に光弾が生まれる。そして俺の方に向ける。
「妾達の為に死ね! ラドウィン!」
光弾が放たれた。それほど速くない魔法の光弾が一直線に向かって来る。
マジで撃ってきた。
でもヤバい……遅いぞ、この魔法。楽勝で躱せるけど……。
リューラの為に喰らった方がいいんだろうか?
そんな葛藤は一瞬だった。
「ミザネア!」
「はいっ!」
ネルアリアが叫びながら土壁の後ろに飛び降りた。土壁の後ろに隠れていたミザネアの魔法が発動する。
その魔法はまたも土壁。人一人隠れられるぐらいの土壁が、俺の目の前に一瞬で出来上がった。
「出るな! ラドウィン!」
ネルアリアの声に思わず足を止める。
土壁の向こうから強烈な光が溢れてきた。
「ぐおっ! くそっ!」
ダイラーの声が聞こえた。
なるほど! 目眩ましか! ダイラーが怯んだ今を狙えってことだな!
壁の向こうの光が収まったのを見て、壁を乗り越える。
強烈な光で眼をやられたダイラーが顔を押さえ、リューラはダイラーの手元を離れ、ネルアリアの足元に寝転がっていた。
俺は地面を蹴って、ダイラーに向かって跳んだ。
全力の袈裟斬りがダイラーの体を捉える。胸を大きく斬られたダイラーが血を吐き出しながら膝をつき、そのまま大の字に倒れていった。
ダイラーの顔に剣を突きつけると、まだ焦点の合っていない紅い眼を天井に向けていた。
「ふむ……なかなか良い連携じゃったな」
ネルアリアが悠然と俺の隣に並び、倒れたダイラーを見下ろす。
いや、良い連携というか……ミザネアの土壁で隠してくれなきゃ俺もあの強烈な目眩まし喰らってたんだけども?
振り返ると、ミザネアは倒れたリューラの介抱をしていた。
ネルアリアがダイラーに向かって手をかざした。その手から光の刃が伸びていく。
やっぱり……ネルアリアは光属性魔法の使い手だ。光属性の使い手はかなり少ないって聞いたことがある。
ネルアリアの手から伸びた光の刃の切っ先がダイラーの首元で止まる。
「ダイラー、答えよ。お主は何を探しておった?」
「…………」
呼吸も荒く、眼もまだ虚ろなダイラーは何も答えない。ネルアリアが光の刃をダイラーの胸辺りに当てる。途端にダイラーの体が激しく震える。
「目覚めたか? この刃にはスタンの効果がある。早く答えねばお主の体に突き立てるぞ?」
「……がはっ……す、好きにしろ」
はぁ、と大きく溜め息をつくネルアリア。そのまま光の刃でダイラーの服の胸の辺りをめくる。
ダイラーの胸には俺に斬られた大きな傷がばっくりと開いているが、左胸の辺りに明らかに血ではない、赤い刻印のような物が刻まれていた。
「やはり……か」
「何の刻印なんだ?」
「……後で話す」
ネルアリアが言葉少なにそう答えると、背後から喉を押さえたリューラがやって来た。まだ首に痛みがあるようで、苦悶の表情を浮かべながら、ダイラーの側で膝をつく。
「た、隊長……。どうしてですか? なんで……仲間を……斬ったんですか」
リューラが震えているのは、痛みだけじゃないだろう。信頼していた隊長が目の前で仲間を斬った、という事実が彼女の体を震わせているんだと思う。
「答えてくださいっ! ダイラー隊長!!」
「リューラ!」
ダイラーの胸ぐらを掴むリューラを思わず止めた。それでもダイラーは宙を見つめたまま何も答えない。
横たわるダイラーの隣に座り込んだリューラが嗚咽の声を上げる。それほどまでに彼女はダイラーの事を信頼していたのだろう。
リューラに遅れて、無傷だった数人の憲兵がやってくる。
ネルアリアがその憲兵たちに伝える。
「ダイラーを連行するのじゃ。憲兵隊舎で妾が尋問する」
無表情に言い放つネルアリアに、戸惑いながらも従う憲兵達。ぐいっと顔を拭ったリューラも立ち上がってそれを手伝おうとする。
だが俺はリューラの肩に手をかけてそれを止める。
「な、なんですか? ラドウィンさん」
「君は先に回復だ。ダイラーは他の人達に任せればいい」
リューラの顔が一瞬泣きそうになるが、ぐっと目元に力が灯ると、
「大丈夫です。これでも小隊長ですから。隊長……容疑者を連行します」
「そう……無理はするなよ」
「……はい」
力強く頷いたリューラが他の憲兵と共にダイラーを連れて行く。両脇を憲兵に支えられ、力無い足取りでダイラーが連れられて行く。
「ぐはぁっ! ゴボッ!!」
「どうした!?」
「た、隊長が……」
その声の方に俺達は目を向ける。
さっきまで自力で歩いていたダイラーがぐったりして両脇の憲兵にぶら下がるように力が抜けていた。
ダイラーの顔を覗き込んだネルアリアが冷たい笑みを浮かべる。
「心配ない。魔石を食った反動じゃ。……何が奇跡の力じゃ。欠陥品ではないか……」
ネルアリアが吐き捨てるように言うと、すたすたと出口へと向かって行った。
「大丈夫? ラドさん」
「あぁ、ミザネア。君こそ大丈夫かい?」
「私は大丈夫」
「あの壁で目眩ましを防ぐっていうのは君のアイデアかい?」
「まあ……そう」
ミザネアは非常に機転の利く魔術師だ。状況判断と行動力に優れていて、頭の回転が早い。
「一瞬でも怯ませることが出来れば、ラドさんなら仕留められる、と思ってね」
「なるほど……それでネルアリアとタイミングを合わせたんだね」
「ええ。上手くいって良かった」
ミザネアが屈託なく笑う。
すると出口からネルアリアが俺達を呼ぶ声が聞こえる。
「何をしとる? ミザネア、ラドウィン! お主らも今から憲兵隊舎へ行くんじゃぞ!」
「ええ!? 俺も?」
「そうじゃ! さっさと来んか!」
「ええ〜……」
俺はもうお役御免だと思うんだが……。
ミザネアが俺の腕にしがみついた。
「ネルアリアさんが呼んでるから、早く行きましょ!」
ミザネアに引っ張られて、俺は仕方なく倉庫の出口へと歩き出した。
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