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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第七章 盗賊団を追い詰めろ

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57.ネルアリアの罠

 頭目の男の声を皮切りに、窃盗団と憲兵隊の戦闘が始まる。

 しかし武装した憲兵隊に、倉庫で寛いでいた所を突入された盗賊団。しかも盗賊団は恐らく金で集められた、いわば烏合の衆。憲兵隊との戦闘力の差は歴然だった。

 襲いかかる男どもを危なげなく制していく憲兵隊。


 顔に傷のある頭目の男はその乱戦を尻目に、倉庫の奥へと駆けていく。

 どうやら周りの男達を時間稼ぎに使って、自分だけ逃げるつもりのようだ。


「ラドウィン! 奴を捕まえるのじゃ!」

「……はいよっ!」


 俺かよ! しかし悲しいかな、何故かネルアリアの声に従順に反応してしまった俺は、盗賊団と憲兵隊の乱戦の間をすり抜けて、頭目の男に迫る。

 走る男の後ろから足払いをすると、男が派手にすっ転んだ。


「ほら、諦めてもう捕まれよ」

「だまれ!」


 頭目の男は、立ち上がると同時に腰から抜いた曲刀で斬りかかってくる。その一撃を躱した俺は男の足を水平斬り。

 ……動きを止めるにはちょっと浅いか。男は更に曲刀を振り回す。


「ラドウィン! 横に避けよ!」


 男の攻撃を、咄嗟に横へ避ける。すると俺の背後から飛んできた数本の光の矢が男の足に突き刺さり、頭目の男はその場に膝をついた。


「ふむ……足止めご苦労。ラドウィン」

「そりゃどうも」


 魔法の矢を放ったのはネルアリア。彼女はミザネアとダイラー隊長を引き連れて、悠々と俺の後ろに追いついてくる。

 盗賊団と憲兵隊の戦闘はほぼ決着がついているようだった。

 盗賊団の男達は地面に這いつくばされ、憲兵隊に次々と捕縛されていた。


 膝をついた頭目の男が俺達を睨みつける。


「テメェ! 俺達を売りやがったな!」

「売った?」


 頭目の男の言葉が理解出来ない。

 どういうこと?

 俺は頭目の男の視線の先に目をやった。その視線の先には、目を見開き脂汗を流すダイラー隊長がいた。


 ネルアリアが目を細め、頭目の男からダイラー隊長に視線を移す。


「と、言っておるが……」

「ははは……何を言っておるんでしょうな? 混乱しているのでしょうか?」


 冷静にダイラー隊長が応えるが、脂汗が額を伝う。

 頭目の男が更に続ける。


「ふざけんじゃねえ! お前が今朝、この場所に……」

「ミザネアっ!」

「はい!」


 それは一瞬の出来事だった。

 ダイラー隊長が凄まじい速度で腰のサーベルを抜き、頭目の男に斬りかかろうとした。しかしダイラー隊長の足元から飛び出した十数本の土の杭がそれを防いだ。土の杭はそのままダイラー隊長を包み込み、半球状の土の牢が出来上がった。

 ダイラー隊長がその牢の中で歯噛みし、苦悶の表情を浮かべる。

 

 ネルアリアが静かに問いかける。


「ダイラーよ。今のは自供と受け取ってよいかの?」

「ぐ…………」


 土の牢の中からネルアリアと頭目の男を交互に睨みつけるダイラー隊長。

 後ろで盗賊団を捕縛していた憲兵達が何事かと、手を止める。その中からリューラが真っ先にこちらに向かって走ってくる。


「こ、これはどういうことっすか?」


 飛んできたリューラは混乱したように、ネルアリアと、土牢の中にいるダイラー隊長の間で視線を往復させる。

 隊長が突然捕らえられたんだ。混乱して当然だ。だが、取り乱したリューラと違い、ネルアリアは静かに牢の中のダイラー隊長に問いかける。


「お主がこの盗賊団と繋がっておったんじゃな? ダイラーよ」


 リューラが言葉にならない驚きの声を上げる。その目は飛び出しそうなくらい見開かれていた。

 ダイラー隊長は苦悶の表情を緩め、薄く笑みを浮かべる。


「よしてくださいよ、ネルアリアさん。そんな盗賊の戯言を真に受けるなんて、貴女らしくない」

「確かに戯言じゃな。じゃがお前は妾が仕掛けた罠に(はま)った。じゃから今、この盗賊どもは此処にいる。違うか?」


 ダイラー隊長の顔に再び苦悶の色が戻る。


「罠!? 罠ってどういうことですか?」


 ネルアリアの言葉に反応したのはリューラだ。リューラはネルアリアに最接近して問いかける。鼻先にいるリューラから視線を外し、ネルアリアがダイラー隊長を捕らえた土の牢の周りを歩きながら話し出す。


「妾は今朝ダイラーに、突き止めた盗賊団のアジトを教えたのじゃ」

「はい。その情報を元にダイラー隊長は憲兵を募り、冒険者ギルドで冒険者の協力を仰ごうとしていました」


 ネルアリアの言葉にリューラが応える。牢の中のダイラー隊長は一点を見つめたまま動かない。


「じゃが、妾が掴んだ情報はアジトの場所だけではなかったんじゃ。妾はこの盗賊団が近々、アジトを移すという情報も同時に掴んでおった。その移す先……この場所もな」


 ダイラー隊長の眉がピクリと反応した。だが、その身は一つも動かさない。

 対してリューラは少し首を傾げた。

 ネルアリアが仕掛けた罠のカラクリに気付いた俺がネルアリアに問いかける。


「じゃあ俺達が最初にアジトと知らされた南西地区にあった場所が、今朝までのコイツらのアジトで、その後この場所に移って来たということか?」

「そういうことじゃ、ラドウィン。妾が今朝ダイラーに教えたのは南西地区のアジトの場所だけ。此奴は妾からそれを聞いた後、この頭目の男に南西地区のアジトに憲兵隊が踏み込んでくる、という情報を教えた。そして昼間の内に人と盗品をこの倉庫に移動させたんじゃ」


 頷きながらそれを聞いていたリューラが、ネルアリアに尋ねる。


「最初からこの場所がアジトだったっていう可能性は……?」

「それはないわ」


 リューラのその疑問に答えたのはミザネア。


「私はネルアリアさんから言われて朝の作戦会議の後、ずっとこの場所を見張っていたの。そしたら案の定、この傷の男が全員引き連れてこの倉庫に入って行ったわ」

「恐らく目立たない夜になってからアジトを移そうとしていたんじゃろうが、コイツらが昼間の内に移動せざるを得ない状況を作ったのも妾の罠の一つじゃよ」


 ネルアリアがニヤリと微笑み、ダイラー隊長と頭目の男を見やる。

 

「つまりダイラー隊長がこの傷の男に、南西地区のアジトに憲兵隊が来るぞと教え、それでこの盗賊団は慌てて南地区のこの場所に移動したってことだな」

「そういうことじゃ。この場所も、妾に知られているとも知らずにな」


 ネルアリアがドヤ顔で俺の方を見返した。そのままダイラー隊長と頭目の男の間に立ち止まったネルアリアが土牢の中のダイラー隊長の顔を覗き込む。


「さて……ダイラーよ。お主に聞きたいことがある。この盗賊どもを使って何を探しておったんじゃ?」

「………………」


 無言を貫くダイラー隊長に、小さく溜め息をついたネルアリアが続ける。


「お主にそれを命じたのは誰じゃ? よもや、お主が全ての首謀者ではあるまい」

「………………」


 ネルアリアは体の向きを変え、未だ膝をついたままの、顔に傷跡がある頭目の男を見下ろした。


「お主は何を盗むように命じられた? 知っていることがあれば今のうちに話した方が良いと思うぞ?」


 ネルアリアの周りにいた俺達の視線は、頭目の男の方に向いた。

 その瞬間、土牢に捕らえられていたダイラー隊長が懐から何かを出して、それを口の中に放り込んだのが視界の端に見えた。


 しまった! 自害か!?


「ネルアリア! ダイラーが何か飲んだぞ!」

「なんじゃと!?」

 

 全員の視線が弾かれたようにダイラー隊長に向かう。

 ダイラー隊長は仁王立ちのまま顔を伏せている。ミザネアが慌てて土の牢の魔法を解除しようとするが、


「待て! ミザネアまだ解除するな!」


 ミザネアが動きを止めた。仁王立ちのダイラー隊長にネルアリアが問いかける。


「ダイラー! お主、何を飲んだ?」

「…………くくく」


 ダイラー隊長の静かに抑えた笑い。


「何がおかしい?」

「ネルアリア……お前に私達は止められんよ」

「貴様……」


 顔を上げたダイラー隊長の両眼は真っ赤な妖しい光を放っていた。

 ゾクリと悪寒が走った。心の奥で激しく警鐘が鳴った。

 ダイラー隊長の手が腰のサーベルに伸びた。

 もうその時には俺の体は反応していた。


「伏せろっ!」


 俺はネルアリア、ミザネア、リューラの三人の体を抱きかかえるように床へ飛び込んだ。頭上をダイラー隊長の斬撃が掠めていく。

 床に倒れ込んだ俺はすぐに振り返った。

 土の牢は真一文字に切り裂かれ、両眼を紅く光らせたダイラー隊長がサーベルを振り切った態勢で立っていた。


「あ、が、が……」


 胸を大きく切り裂かれた頭目の男が、声にならない声を上げてその場に崩れ落ちた。

 

 ダイラー隊長が土の牢ごと斬ったと理解した俺は、剣を抜いて三人の女性を背に立ち上がった。 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この後もぜひよろしくお願いします!

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