56.盗賊団アジト突入
銀髪の魔術師ネルアリアを先頭に、二十人近い集団が黙々と夜の町を歩く。
集団は南西地区を抜けて既に南地区へと入っていった。
さっきネルアリアは寄り道と言ったが、寄り道にしては方向が真逆すぎる。困惑の表情を浮かべる俺やダイラー隊長と憲兵隊。
それらを引き連れたネルアリアは全く気にする様子もなく、ただ夜の町を進んで行く。
しばらくして、またダイラー隊長がネルアリアに声をかける。
「ネルアリアさん。一体、我々は何処へ向かっているのですか?」
「黙ってついて来ればいずれ分かる」
とまあ、こんな感じでネルアリアは答えをはぐらかしていた。
やがて俺達は南地区の中心近くまでやって来た。この辺りは人通りも少なく、南地区でもあまり治安が良い場所じゃない。
隣を歩くダイラー隊長に目を向けると、彼は困惑を通り越して疑念に満ちた目で前を歩くネルアリアを見つめていた。
どうやらダイラー隊長も本当にネルアリアの目的地が分からないようだな。
少し広めの通り。
ネルアリアが立ち止まった。
「さて……ここじゃ」
通りには建物が並んでいるが、人通りは全くなかった。
全員を代表してダイラー隊長がネルアリアに問いかける。
「ネルアリアさん。一体ここに何が……」
言いかけるダイラー隊長を、ネルアリアは手を挙げてその言葉を遮った。
するとネルアリアの背後の路地裏から誰かが姿を現す。ミザネアだった。
ミザネアに目も向けず、ネルアリアが尋ねる。
「どうじゃ? ミザネア。動きはあったか?」
「いえ。誰も出入りしていません」
「そうか。なら良い」
ミザネアが先に行ってると言ってたのはここだったのか。けどここは、盗賊団のアジトじゃないはず……。
ネルアリアが俺達の方に向き直る。
「良いか。あの建物が盗賊団の今のアジトじゃ」
「えっ!?」
通りの反対側を指差したネルアリア。全員が困惑の表情を浮かべる。中でもダイラー隊長はかなり狼狽していた。そしてネルアリアに問いかける。
「今のアジトというのは……?」
「言葉の通りじゃ。あの建物の中に盗賊団の連中がおる。今からあの建物に突入するのじゃ」
憲兵隊に緊張の色が走る。
ミザネアが俺の近くに寄って来る。
「さあ、ラドさん。行きますよ」
「え? てか、本当に?」
「ええ。ラドさんは私とネルアリアさんの近くにいてくださいね」
「あ、ああ」
すたすたと通りを渡って行くネルアリアの後に続いていく。憲兵隊も更に続く。
ダイラー隊長はまだ戸惑いがあるようだが、俺達のすぐ後ろに続く。
通りを渡り、建物の前に立つネルアリア。元は倉庫だったのか、通りに面した木製の扉は馬車が通れるぐらい大きい。だがその扉は何枚もの木の板が打ち付けられ、使えないようになっていた。
その大きな扉の隣には通用口の扉が見える。人の出入りはこの扉でしか出来ないようだ。ネルアリアがその通用口の前に立った。
そして後ろを振り返る。
「では突入するぞ? 良いな?」
こちらの誰も返事をしていないのに、ネルアリアは掛け声と同時に、通用口の扉を勢い良く蹴り飛ばす。
「ど――ん!!」
華奢なネルアリアが蹴ったとは思えない勢いで扉が建物の中へと吹っ飛び、ネルアリアはずかずかと中へと入ってゆく。
「憲兵隊じゃ! 全員お縄につくのじゃ!」
だだっ広い建物の中にはいくつかの丸テーブルが置かれていた。それぞれのテーブルに三、四人ほどの男達がいて、酒を呷ったり、カードゲームをしたりして寛いでいたようだ。その数は全部で二十人ほど。事前の情報通りだ。
その男達の視線が、扉を蹴り破ったネルアリアに向けられる。
「何だ、テメェは!?」
「どこのどいつだ、ごらぁ!」
いきなり臨戦態勢になった男達が怒号を浴びせる。だがネルアリアは一歩も引かないどころか、ゆっくりと男達に向かって歩み出る。
「頭目は何処じゃ? お主らが盗賊じゃというのは分かっておるのでな」
ネルアリアの後ろに続いていた憲兵隊が男達を囲むように広がる。そしてリューラが声を上げた。
「憲兵隊だ! 全員大人しく投降しろ!」
憲兵隊が武器を抜いた。男達も蛮刀や短刀を手に全員が立ち上がった。
俺も腰の剣に手をかける。
「待てぇ!!」
薄暗い倉庫の奥から響く一際大きく、しゃがれた男の声に全員の動きが止まる。奥のソファに座っていた男がゆっくりとこちらに歩いて来る。
大きな体に、顔には無数の傷跡。ひと目見て、カタギじゃない雰囲気を漂わせた男。
男はネルアリアを見下ろすと、憲兵隊を舐め回すように見ながら話し出す。
「俺達が盗賊?」
「ああ、そうじゃ」
「なんか証拠でもあんのか?」
ネルアリアは男が放つ威圧的な言葉に全く退かない。
薄く微笑んだネルアリアが男を見上げる。
「頭の悪い盗っ人の悪あがきじゃな」
「あ? 言葉に気をつけろよ、女ぁ?」
「あの隅に置いてある木箱……。あの中に盗品があるな?」
ネルアリアが倉庫の隅に鋭い視線を向ける。
男は目を細め、口元を歪ませると、
「あの中は落し物だ。たまたま拾った物を押し込んでいるだけだ」
「苦しい言い訳じゃの。ネックレスや指輪ばかりが道に落ちてたのか?」
男は忌々しそうに舌打ちをするが、ネルアリアが更に続ける。
「この指輪。ちと細工をしていての……」
ネルアリアが左手に嵌めた指輪を男に見せる。すると指輪から光が放たれる。
「こうするとな、妾の知り合いの家から盗まれた装飾品と呼応して光るようになっておるんじゃよ」
さっきネルアリアが指した木箱の中から強烈な光が漏れ出ていた。もう言い逃れは出来ないと判断した男が、男達に叫んだ。
「お前ら! コイツら全員やっちまえ!」
その声を皮切りに憲兵隊と男達の戦闘が始まった。
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