55.目的地
誤字報告ありがとうございます。
凄く助かりました。
豪華な屋敷、大きな邸宅が並ぶイオアトスの高級住宅街。その中にネルアリアの屋敷はあった。
凄い所に住んでるな。常駐の警備員がいる家も所々見受けられた。
到着するとすぐに、広間と呼べるぐらい大きな応接室に案内された俺とミザネア。
少し遅れて、ダイラー隊長が三人の憲兵を引き連れてその応接室に入って来た。
その憲兵の中にはリューラがいて、俺を見つけると満面の笑みを見せる。
全員が席につき、上座に座るネルアリアが口を開く。
「うむ、揃ったな。ではこれより今晩の盗賊団アジト殲滅作戦について話すぞ」
作戦の概要は既にネルアリアが考案済みのようだった。俺達が囲むテーブルの上に大きなイオアトスの町の地図が広げられ、ネルアリアが羽ペンで印をつけながら話し続ける。
「奴らのアジトは南西地区のここじゃ」
ネルアリアが印のついた場所を羽ペンで示す。この辺りは確か商店などがあまり無い居住区だよな。
治安はそれほど悪くない場所のはずだけど、こんな所に盗賊団がいるのか。
ネルアリアが続ける。
「建物の出入り口は正面と裏の二つだけじゃ。そこから突入して全員を取り押さえる。以上じゃ」
……終わり? 作戦ってそれだけ?
あまりにシンプルな作戦に皆が呆気に取られる中、リューラは嬉々とした様子でネルアリアに尋ねる。
「中にいる奴は皆、悪人なんですね?」
「そうじゃ。だから思いっ切り暴れて良いぞ」
「分っかりました!」
敬礼で応えるリューラの鼻息は荒い。
作戦はともかく、俺には一つだけ気に掛かる事があったので聞いてみる。
「あの、ネルアリア。一つだけ聞いてもいいかい?」
「何じゃ? ラドウィン」
「このアジトってどうやって見つけたんだい? たまたま?」
「ま、もっともな質問じゃな」
ネルアリアがもったいぶるように全員の顔を見ながら答える。
「妾の身内にもこの盗賊団の被害に遭った者がおっての。それで盗まれた物を取り返したいと懇願されたので、妾が独自にこのアジトを捜し当てたというわけじゃ」
「すみません……本来は憲兵隊が見つけたい所でしたが……面目ない」
大柄なダイラー隊長が体を小さくして頭を下げる。他の憲兵も同じように頭を下げた。
「何か魔法でも使ったのかい?」
「悪いが、それは教えられんの」
「分かった。聞かないでおくよ」
アジトを見つけた手段は少し気になるが、捜していた理由が分かったので納得した。
ネルアリアがダイラーに向かって声を掛ける。
「ではダイラー隊長。作戦決行までに少しでも多くの憲兵隊を集めておいてくれるかの?」
「承知しました」
ダイラー隊長はそう応えると、立ち上がった。他の憲兵もそれに続く。
「では夜にまた」
「ふむ。よろしく頼んだぞ」
ダイラー隊長達が広い応接室を後にした。
残されたのはネルアリアとミザネアと俺の三人だけ。ネルアリアが俺の方に顔を向けた。
「して……ラドウィンよ。お主は大丈夫かの?」
「まあ、たぶんね」
「ネルアリアさん。ラドさんは大丈夫です! この人、やる時はやる人ですから」
「ふーむ……」
なんか納得いってませんね。
正直、俺もあまり乗り気じゃないよ。ただセレス女史は成功失敗は問わないって言ったからね。ネルアリアには悪いけど、とりあえず参加だけして、宿代半額だけはきっちりゲットさせてもらうつもりだ。
「しかし……こんな冴えない男がミスリルランクとはの……」
聞こえてるよ?
まあそういうのには慣れてるけどね。
「ネルアリアさん!」
「まあ……このミザネアが推すんじゃから大丈夫じゃとは思うんじゃが……」
さっきからすっごい不安そうだな。まあその気持ちは分かるけども。
居心地もあまり良くないし、俺も夜まで一旦帰るとするか。
「じゃあ、俺も一旦帰るよ」
「あ、ラドさん。じゃあ私も……」
「待て、ミザネア。お主には少し話がある。ちょっと残るのじゃ」
「え?」
「ラドウィン。お主は帰って良いぞ。また夜に頼むぞ?」
「ああ。じゃあ後ほど……」
唇を尖らせたミザネアを置いて、俺はネルアリアの屋敷を後にした。
しかし本当に大きな屋敷しかないな、この辺りは。たぶん貴族とかセレブばかりが住んでいるんだろうな。人通りも他の居住区と比べればかなり少ない。
さて……まだ時刻は昼前だ。
とりあえず俺は腹ごしらえをする為に飲食店が並ぶ大通りを目指して歩き出した。
◇◇◇
その日の夜。
俺は南西地区の集合場所に向かっていた。
集合場所へ着いたが、まだミザネアも憲兵隊もいない。俺が一番乗りだったようだ。
通り沿いにある空き地。ここが集合場所だ。壁際にもたれて、他の人達が来るのを待っていると、不意に空き地の奥から声を掛けられる。
「一番乗りとは、なかなか真面目な男じゃな」
「ビックリした! 居たのかよ」
「ふむ」
昼間に見たのと同じ黒と赤のローブ。そのローブは闇に溶け込むような感じだが、月明かりに照らされる銀髪は鮮やかに輝いていた。
確かに誰もいなかった……よな? 暗いとはいえ、このネルアリアを見落とすとは考えにくい。
その俺の疑問に勘付いたのか、ネルアリアが妖しく微笑む。
「何故見落としたのか? と思っておるな?」
「ああ。何かの魔法かい?」
「そうじゃな。そんなところじゃ」
やはり何か使っていたみたいだ。そういえばギルドで初めて会った時も知らない間に隣の席にいたな。何か身を隠すような魔法でも使っているのか。
「来たようじゃな」
ネルアリアの視線の先に目を向けると、ダイラー隊長を先頭に、二十人ほどの集団がこちらに向かって歩いて来ていた。
ダイラー隊長を含め、誰も憲兵隊の制服は着ていないが、憲兵隊で間違いないだろう。全員、剣やサーベルを腰に下げている。
その集団の中にはリューラの姿もあった。ダイラー隊長がネルアリアの前に歩み出る。
「お待たせしました。ネルアリアさん」
「ふむ……結局憲兵隊は二十人ほどか」
「はい。これが今動かせる限界でして……ですが、皆腕は立つのでご安心ください」
ネルアリアはダイラー隊長の後ろに控える憲兵達一人一人に目を向ける。そして数人の憲兵を指差す。
「お前……と、お前とお前。先に盗賊団のアジトへ行け」
指名された三人が困惑の表情を浮かべてダイラー隊長に目を向ける。
ダイラー隊長は頷き、
「うむ。ネルアリアさんの指示に従え」
「はっ!」
三人の憲兵は敬礼すると、俺達から離れて行った。
ネルアリアが俺達の方に振り返る。
「よし! では妾達も出発するぞ。全員ついて来るのじゃ」
そう言って一人で歩き出すネルアリア。
慌ててネルアリアを呼び止める。
「ネルアリア。まだミザネアが来てないぞ?」
「案ずるな。奴は先に行っておる」
「そ、そうか……」
歩みを止めず歩きながらネルアリアが答えた。だけど、歩いているのは盗賊団のアジトがある方とは全くの別方向。
今度はダイラー隊長がネルアリアに声をかける。
「ネルアリアさん! アジトに向かうのではないのですか?」
少し速度を緩めたネルアリアがダイラー隊長に視線を向ける。その目に不適な笑みが浮かぶ。
「ちょっと寄り道じゃ。大人しくついて参れ」
俺を含めて困惑を隠せない二十人近い団体を引き連れて、ネルアリアは夜の町を進んで行った。
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