54.ネルアリアの依頼
新章がスタートです。
よろしくお願いします。
グリハンに襲撃された夜から二週間が過ぎた。少し違和感のあった右足もすっかりと癒え、俺の体は完全に回復していた。
心配していた治癒院での入院費も一日だけだったので、それほどではなかった。
この二週間何をしていたかというと、特に何もしていない。バザフとナサラと狩猟に行ったのはあの一回だけだし、あれ以降は一緒には行っていない。けど狩猟には足のリハビリも兼ねて、一人で二回ほど行ってみた。
結果、俺はまだ一匹の獲物も狩れていない……。才能が全くないのでは……と、ちょっと落ち込んでいる。
ともかく体はすっかり癒えたので、久々に魔晶石拾いのクエストを受けようと、今日は朝から冒険者ギルドへ向かっている。
ギルドの入り口が見える所まで来ると、豪華な馬車が停まっていた。どこかの貴族でも来ているのかと思ったが、気にせずギルドの中へ入って行く。
もう朝のピークは過ぎているので、受付は人もまばらだ。
カウンターにいる受付嬢の一人が俺の姿に気付き、足早に近付いてくる。
うん、何か悪い予感しかしない。
「ラドウィンさん、おはようございます」
「おはようございます……何か?」
「えと……ギルド長からラドウィンさんが来たらお連れするように……と」
「はぁ……」
またこのパターン? 悪い予感が的中しそうだ。俺はその受付嬢に連れられて、ギルドの応接室へと向かった。
◇◇
案内されて入った応接室にはギルド長のセレス女史の他に、三人が座っていた。
碧色の美女魔術師のミザネア。黒と赤のローブを身に纏った銀髪の年齢不詳美女魔術師のネルアリア。そしてもう一人、座っていても大柄だと分かる短髪の男。その男は憲兵隊の制服を着ていた。
憲兵隊が何故こんな所に? と思ったが、セレス女史が話しかけてくる。
「朝からお呼び立てして申し訳ありません」
「いえ、もう慣れてきました」
という俺の皮肉もセレス女史は軽く流し、憲兵隊の男を紹介する。
「ラドウィンさん、こちらは憲兵隊イオアトス支部のダイラー隊長です。イオアトス支部の支部長も兼任しておられます」
「はじめまして、ラドウィンさん」
「どうも、おはようございます」
ダイラー隊長が立ち上がり、俺と握手をする。簡単な挨拶を済ませ、俺も三人に並んで席についた。
全員が席につき、次に口を開いたのは意外にもネルアリアだった。
「ラドウィン。お主、今日はヒマか?」
「ヒマっていうか、一応クエストを受けに来たんですけど……」
「そうか。では妾の手伝いをするのだ」
では何故俺の予定を聞いた? ネルアリアの横でミザネアが苦笑いを浮かべている。
その補足をするようにダイラー隊長が話し出す。
「ラドウィンさん。実はネルアリアさんはこの町にいる盗賊団のアジトを突き止めてね。そのアジトを殲滅する為の戦力を探しているんだ」
「盗賊団のアジト?」
「ああ」
ちょっと待て。何故魔術師のネルアリアが盗賊団のアジトを突き止めたんだ? そしてそれに憲兵隊が協力するということは……。
「それって憲兵隊の仕事じゃないんですか? 何で俺みたいなのが?」
「確かにそうなんですが、実は今、憲兵隊はあまり人員を動かす事が出来なくてね……」
「どういうこと……?」
ダイラー隊長の説明では、近々王都では王室騎士と騎兵師団団長の叙任式典が行われる。その準備の為に憲兵隊の多くが王都に派遣されているそうだ。
あのルキュアの叙任式典だ。もうだいぶ前にルキュアは騎兵師団の団長に就任しているはずだが、王室の都合で式典が遅れていたらしい。
だったらそれが終わって憲兵隊が戻って来てから盗賊団のアジトを攻めればいいのでは? と思ったが、それを見透かしたようにネルアリアが応える。
「奴らはアジトを頻繁に変えておる。悠長に憲兵隊の戻りを待つのは、得策ではないんじゃよ」
「なるほど……で何で俺……私なんですかね?」
「ふむ……時間がないから冒険者に依頼を出して募ろうとしたんじゃがな……」
そこでネルアリアがチラリとセレス女史に目を向ける。見られたセレス女史は小さくため息をついて、
「すいません。冒険者にそのような憲兵のような依頼を出すわけにはいきません。今回のネルアリアさんの依頼は冒険者の領分ではない、と判断致しました」
「と、まあこのギルド長が首を縦に振ってくれんのじゃ。で、そこで譲歩案を話し合ったんじゃが……」
と、ネルアリアがセレス女史を見ると、セレス女史が冷静に答える。
「個人的に依頼してもよいと思われる冒険者を数名、リストアップしました」
「あ、その中に俺が含まれてたのね……」
「その通りじゃ」
あ、セレス女史が俺から目を逸らした。俺だったら大丈夫だろと思ってリストアップしたな。ミザネアも苦笑いしてるって事は俺の名前を推したかもしれないな。
となると……、
「数名をリストアップしたって事は他は?」
「先ほど調べたのですが、皆他のクエストに出ておりまして、今晩空いている冒険者はラドウィンさんだけです」
何だそれ! そんなんで窃盗団のアジトなんて殲滅出来るのか?
ダイラー隊長が話を引き継ぐ。
「憲兵隊は二十人ほどいけます。ネルアリアさんの情報では……」
「アジトに潜伏している窃盗団は二十人ほどじゃ。数としては五分じゃな」
ちょっと不安になる人数だな。やっぱり今日は諦めて、日を改めた方がいいんじゃないの?
ネルアリアが更に続ける。
「殲滅だけなら充分な数じゃな」
ホントかよ? だったら俺は要らないのでは?
セレス女史が立ち上がり、テーブルから離れる。
「少しラドウィンさんとお話があります。よろしいですか?」
他の三人に断りを入れて、話を聞かれないよう俺とセレス女史は応接室の端に移動する。
「ラドウィンさん。今日、ラドウィンを推薦したのはミザネアさんです」
「はあ……何となく分かります」
「では、私とミザネアさんの顔を立てる為に、今回の件を引き受けてくれませんか?」
「えぇ〜……」
乗り気がしねえ……。何でそんな面倒な依頼を受けなくちゃならないんだ。
まだこっちは病み上がりだよ?
セレス女史が小さく咳払いをして、
「分かりました。今回の件、受けていただければ依頼の成功失敗に関わらず、今ラドウィンさんが利用している冒険者の宿の宿泊代を一ヶ月間、半額にします」
「え? マジですか?」
「ええ。ギルド長に二言はありません。どうですか?」
セレス女史がくいっと眼鏡を上げる。正直、お金には多少の余裕があるので正規の宿泊代が払えないわけじゃない。が、どうしても出ていく必要経費は、抑えられる時は積極的に抑えたい。こう考えてしまうのは、いつ何が起こるか分からない冒険者の性みたいもんだ。
それを見透かしたようなセレス女史の提案……乗りましょう。
「分かりました。やりましょう」
「良かった。ありがとうございます」
俺とセレス女史が席に戻り、この依頼を受ける事を伝えると、ネルアリアが立ち上がる。
「よし! では早速今晩の作戦を練る為に移動するぞ」
「どこに?」
「妾の屋敷じゃ。ダイラー、憲兵隊も何人か連れて来るのじゃ」
「分かりました」
俺達は今晩の窃盗団アジト突入の作戦を練る為にネルアリアの屋敷へ行くことになったのだった。
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