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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第六章 おじさん冒険者、目をつけられる

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48.覚悟

 俺の強化魔法は筋力、瞬発力を一時的だが飛躍的に向上させる事が出来る。

 そして同時に反射速度や、動体視力も同じように跳ね上がらせる事も出来る。

 突進してくる双剣男のスピードは相当なものなんだろうが、強化魔法を使っている俺には大した速度には見えない。


 左右のフェイントを入れながら双剣男がまず右の水平斬りを放つ。だが、これもフェイントだろう。既に奴の左は刺突の構えをしている。

 向上した俺の動体視力にはその動きさえ、見切ることが出来ていた。

 水平斬りを剣で弾くと見せかけて、寸前で剣を引いて躱し、体ごと一歩後方へ下がる。

 右を空振りしたが、双剣男はそのまま左の刺突を俺に向けて放ってくる。

 

 その刺突をギリギリまで見極め、体を前に出しながら右に体を傾けて躱す。

 体重を充分に乗せた刺突。躱されるとは思っていなかったのだろう。刺突を放った左脇がガラ空きになった。


「ふんっ!」


 体を傾けながらその左脇に向けて剣を振る。双剣男の左脇腹に俺の剣がめり込んだが、双剣男は右腕を無理やり脇腹に持っていき、俺の剣撃に押し込まれるように横へ跳んだ。


 反応が早いな。完全に斬る事は出来なかったが、かなり深く剣は脇腹に食い込んだ。

 弾かれるように床を転がった双剣男がすぐに上体を上げる。

 左脇腹と右腕からかなりの出血が見られる。脇腹に食い込んだ剣を、無理やり右腕で押し返したんだからな。

 かなりの深手だ。勝負あったな。


 双剣男は激しく肩を上下させながら、脇腹を押さえている。視線はまだ鋭くこっちを見てはいるが……。


「まだやるか? グリハン?」


 俺の問いかけに、双剣男は何も答えない。ゆっくり呼吸を整えるように双剣男が立ち上がった。

 そしてフードを取り、口元を隠す黒い布を外す。特徴的な緋色の髪が露わになり、口元を歪ませたグリハンが、更に口元を歪ませる。


「うるせえよ、汚ねえオッサンが……」

「何故、こんな事をするんだ?」

「へ……テメェが気に入らねえからに決まってんだろが」

「気に入らないって……」


 あまりに幼稚な答えに思わず絶句してしまう。たぶん俺がミザネアと仲良くしていたのが気に入らなかったんだろうが、本当にそれだけの理由で俺を襲ってきたのか?


「それだけ……なのか?」

「ああ……テメェは気に入らねぇ。それだけだ……」


 ゴールドランクの冒険者ともあろう者が、たったそれだけの理由で、同じ冒険者の命を奪おうとするとは……。

 俺には到底、理解出来る理由じゃない。

 グリハンが歪んだ笑みを浮かべながら続ける。


「冒険者ってのはいいよな。気に食わねえ鬱陶しい奴をぶっ殺してもよ、魔獣に殺られたようにすりゃあ、バレねえんだからよ」

「お前……初めてじゃないな?」


 前にミザネアとセレス女史が言っていた、グリハンと揉めた冒険者の何人かがクエスト中の事故で亡くなったというのは、やっぱりこいつ自身の仕業だったか。

  

 命を狙われた手前、俺には奴の……こいつらの命を奪う権利があるかもしれないが、とてもそんな気分にはなれなかった。


「で、どうする? まだ続けるか? 止めるならお前達をこのまま憲兵隊に突き出すだけにするけど?」


 グリハンの目が吊り上がり、口元は歯噛みする。


「ざけんな……」


 グリハンが脇腹を押さえながら数歩前に出る。ダメージは深い。

 向かってくるグリハンに剣を構えた。もう奴はまともには動けない。あと一撃でケリがつく。


 ……どうする? 腹を決めて、やるべきか?


 ジリジリと近付くグリハン。あと一歩で間合いに入る。

 ぐっと体を沈めて、最後の一撃を溜める。


「うおおお――っ!!」


 グリハンが雄叫びと共に斬りかかってくる。脇腹を抉られているとは思えないスピードだ。

 しかしその双剣の攻撃にはやはりキレがない。初撃を打ち払い、闇雲に放つ次の攻撃も弾き返す。

 返した剣で、グリハンの太腿を斬りつける。


「ぐぅっ!……くそがぁぁ!」


 グリハンがなりふり構わず俺の体を押さえにくる。そこへ袈裟斬りを落とすが、グリハンはそれを左腕の手甲で食い止めながら、右腕の剣を振り下ろしてくる。


 しまった! くそっ!


 グリハンの剣が俺の左肩に食い込む。体が接近し過ぎているから二人とも充分な威力の攻撃が放てない。

 のしかかってくるグリハンの腹に足裏を当て、目一杯押し返す!


 ぐぅ……痛てぇ!

 グリハンの体は離れたが、離れた勢いで左肩に食い込んでいた剣が引かれ、傷が深くなっちまった……。

 しかしそれはグリハンも同じだった。奴の左腕の手甲は完全に割れて、おびただしい量の血が床に落ちる。奴の左腕はもう剣を握れず、さっきまで握られていた剣は床に転がっていた。

 グリハンがかろうじて右手に持っている剣を俺に向け、呼吸を乱しながら呟く。


「……次で殺す」



 ……冒険者の間ではあまり使われないが、昔から戦場で使われるこんな言葉をふと思い出した。


「”戦場で斬られる覚悟がある奴だけが相手を斬る事が出来る”……。知っているか?」

「は?」

「お前には斬られる覚悟があるんだな?」


 最近の若い冒険者はこんな言葉は知らない……か。

 血まみれのグリハンが鋭く俺を睨む。


「俺は……殺られねえ」

「そうか……分かった」


 俺の腹は決まった。

 今、ここで、こいつを斬る。


 剣を前に突き出しながら、グリハンがゆっくりと近付いてくる。

 奴の目は死んでいない。が、もうほとんど焦点も合っていない。血を出し過ぎたせいだ。

 あと一撃で終わらせる。

 ふぅ、と小さく息を吐いて、次の……最後の一撃のタイミングを図る。

 俺の目を真っ直ぐに見ていたグリハンの目から一瞬、力が抜ける。


 ……今だ! 


 俺が踏み込もうとしたその瞬間、何かが俺に向かって飛んできた。咄嗟にそれを剣で弾き飛ばす。

 飛んできた何かに注意が向いた瞬間、グリハンの体が急に俺から離れていく。


 何だ? 何が起こった!?


 グリハンは走る手甲鉤女に抱えられていた。さっき俺が弾き飛ばした物はこの女が投げた手甲鉤だった。

 女はグリハンを肩に担ぎ、遺跡群の石畳の上を走る。


 くっ! 逃がすか!

 走り出そうとする俺はその場で(つまず)いた。

 強化魔法の効果切れだ。やはり連続使用は効果時間が短い。そして……。


「……いででででーーっ!」


 全身をくまなく襲う、痺れのような鈍痛。これも連続使用による弊害。連続で使用したことによる反動だ。

 連続使用すると、いつもこの現象が起きる。だから出来るだけ使わないようにしていたんだけど……。

 

 床に転がりながら二人が去っていった方に目を向けると、グリハンを抱えた女はもう石壁を越えて、見えなくなっていた。


 まだ体に痺れは残っているが、無理やり立ち上がる。

 

 もう追い付くのは無理だな。

 とりあえず……町へ戻るか。俺は重い足取りで、遺跡群の回廊を歩き出した。

 

 回廊の端には、俺に両腕を斬り落とされた魔術師の男がまだ大の字で気を失っている。

 

 こいつは……放っておくか。

 とりあえず早く町まで戻らねえと……この状態で魔獣に襲われたら、本気でヤバいかもしれないからな。

 

 痛む右足を引きずりながら、俺はイオアトスの町へ歩き出した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも面白いと思われた方はぜひブックマークをよろしくお願いします!

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