表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第六章 おじさん冒険者、目をつけられる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/86

47.強化魔法の連続使用

 黒髪の女は片膝をついたまま、こちらを見つめている。目は鋭いが、感情が全く読み取れない。まるで出来の良い人形のような顔だ。

 女は肩を押さえて、なかなか立とうとしない。斬れなかったとはいえ、俺の全力の一撃は女の腕と肩に大きなダメージを与えたようだ。

 

 その女が背にする石壁の上に、もう一人の襲撃者、クロスボウガンを持った奴が登った。クロスボウガンを手にしたまま、俺の方を見下ろしてくる。

 月の光がそいつのフードの中をうっすら照らすが、口元も黒い布で覆われているせいで、見下ろす細い目しか見えない。

 ボウガンを背中に仕舞い、そいつが腰に差していた二本の剣を抜いた。


 双剣使いか……手足が長い。

 石壁の上からふわりと地面に下り立つ。外套の中の体が少し見えた。こっちは男のようだ。


 長剣よりも少し短い双剣をだらりと持って、男がゆっくりとこっちに歩いてくる。


 一応……ちょっと試してみるか。


「なあ! ちょっと待て! お前達、野盗か? 金が目当てか?」


 双剣の男の足が止まった。効果ありだ。

 更に続ける。


「今、手持ちはそんなにないけど、とりあえず有り金全部とコレで、見逃してくれない?」


 ほとんどのお金は冒険者の宿に預けているから、手持ちは本当に少なかった。なので魔晶石が入った皮袋も差し出す。


 さあ、どうだ? 出来ればこれで諦めてもらいたいけど……。


 男の目が細められ、布の下の口角がニヤリとつり上がるのが分かる。


「へっ……雑魚オヤジが」


 男は小さくそう呟くと、地面を蹴って双剣で斬りかかってくる。


 交渉決裂だ。だったらこっちも抵抗はさせてもらう。

 

 刀身は短いが長い腕を最大に使った剣撃、更に深い踏み込み。

 こいつは見た目以上に間合いが長い……だが動きに無駄が多い。

 強化魔法で瞬発力も爆上がりしている俺は、その双剣の攻撃を一本の長剣で全て弾き返す。

 出来ればまず、コイツの双剣を落としたい。そうすれば諦めてくれるかもしれないという淡い期待だけど。


 双剣男は鋭い踏み込みで俺の首、脇、膝……など急所を狙ってくるが、やはり無駄が多い。左右の剣をフルに回転させてくるが、俺はそれを全て一本の剣で弾き返す。 


 命乞いした手負いのオッサンがここまで抵抗すると思わなかったのか、男の表情に焦りの色が出だした。更に攻撃が雑になってくる。


 上からの一撃を身を捻るだけで躱し、その手首の外側に剣撃を入れる。男が双剣の一本を落とした。

 男が手甲を付けていなければ、手首から先が失くなっていた一撃だ。


「くそがっ!」


 男は苛立ちを口にしながら残った剣で斬りかかるが、それを後ろに下がって躱す。

 男が回廊の端で突っ立ていた魔術師に鋭い視線を向ける。


「コイツの足を止めろ!」

「えっ!?……は、はい!」


 怒鳴られた魔術師が魔法の詠唱を始める。

 おいおい……マジか!? 仲間と交戦中の俺に魔法撃つのかよ!


 双剣男の背後から手甲鉤女がすり抜けるようにして、双剣男の前に飛び出してきた。残った片方の手甲鉤で、飛びつくように俺の足を狙ってくるが、その一撃を冷静に足だけを引くことで躱す。


 っ! しまった!

 手甲鉤女は空振りした勢いをそのままで、俺の腰に向かってタックルをしてくる。がっちりと腰に腕を回され、捕まってしまった。なんとか体勢を崩されないように足を踏ん張る。

 好機と見た双剣男が、掴まれて動けない俺に、渾身の袈裟斬りを放つ。

 しかしそれよりも一瞬早く、俺の片手突きが双剣男の肩に届いた。


「ぐっ!」


 俺の突きで押された双剣男が後退る。俺はすぐに空いた腕で、腰にしがみつく手甲鉤女の側頭部に肘打ちを落とした。

 一発で意識を飛ばされた手甲鉤女が俺の体からずり落ちた。


「何やってる! さっさと撃てぇ!」


 双剣男が俺に刺された肩を押さえながら、魔術師に向かって叫んだ。

 今撃ったらこの女も巻き添えだぞ!?

 くそっ!


 手甲鉤女を引き剥がし、後転して石壁まで下がる。魔術師の放った雷撃が俺の足を掠めて、俺と手甲鉤女の間の地面に炸裂した。


 くそっ! あの魔術師が先だ!

 俺は落ちていた石を拾って、魔術師に向かって投げつけた。


 ゴッ!!


 投げた石が正確に魔術師の頭を捉え、ぐっと短い悲鳴を上げて魔術師がふらついた。

 俺は地面を思い切り蹴って、魔術師との距離を詰める。強化魔法の時間切れが近い。さっさとケリをつけないと……。


 一瞬で近付いてきた俺に驚いた魔術師が、慌てて魔法の詠唱を始める。

 間に合うわけないだろ! 

 悪く思うなよ! 襲ってきたお前らが悪い。


 突き出した魔術師の両腕を一刀で斬り落とし、魔術師の両腕が宙に飛ぶ。

 両腕の肘から先が失くなった魔術師の絶叫が遺跡群に響いた。


 

「うあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙――――――っ!!」


 

 膝をついて崩れ落ちた魔術師の、顔面に蹴りを入れると、魔術師はそのまま地面に大の字になって気を失った。


 振り返って双剣男の方に目を向ける。

 同時に俺の体にかかっていた強化魔法の効果が切れる。


 くそ……。まだやる気か? あいつ。

 

 倒れた手甲鉤女の傍らに立つ双剣男は、二本の剣を両手に持ち、だらりと立ったまま、こちらを睨みつける。

 

 手甲鉤女は完全に気を失っている。

 あとはあの双剣の男だけだが……。

 おそらくあいつが一番手強い。

 このまま強化魔法なしで正面切って戦えば、どっちに転がるか分からないだろうな。かと言って、強化魔法の連続使用は出来ればやりたくないんだが……そうも言ってられねえか。


「テメェだけは……殺す」


 双剣男がそう呟いた。


 冗談じゃない。あれぐらいの事で命を狙われていたら、こっちはいくら命があっても足りないよ。

 それは全力で拒否させてもらう。


 双剣男が倒れている手甲鉤女を飛び越えて、俺に向かって突進してくる。

 俺はふっと息を吐いて、今日二回目の強化魔法をかけた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

皆さんのブックマークと☆評価が活力になっています。感謝です!


これからも是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ