表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第六章 おじさん冒険者、目をつけられる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/88

45.二つの影

 グリハンとの一悶着から数日後、俺はいつものように魔晶石採取のクエストを受けていた。

 あれからグリハンはもちろん、ミザネアとも顔を合わせていない。

 

 一応、ギルドにも確認してみたが、ミザネアはあれから何度か、ギルドには訪れているらしいので、問題はなさそうだ。

 グリハンの方は、ギルドでも奴の動向には目を光らせているみたいだし、とりあえずギルド内は安心出来そうだ。


 心配なのは、グリハンとミザネアがまた顔を合わせた時に、売り言葉に買い言葉で奴と揉めないかということだったからね。

 普段は冷静なミザネアが、あんなに感情的になった所を見たことがなかったからね。よっぽどグリハンの事は腹が立ったんだろう。


 俺もいつ、また奴と顔を合わせるか分からないという不安はあるけど、突っかかってきても外だったら逃げればいいだけだし。


 そんな事を考えながら、遺跡群の中の迷宮で魔晶石を集め、出口へと向かう。

 最近は魔晶石がよく湧く。なので今日もなかなかの大漁だ。このままだったら魔晶石の値崩れが起きるんじゃないかと少し不安になる。

 たくさん湧いているからって、欲張らずに次からは少し控えめにするか。時間もいつもより遅くなっちゃったしな。


 ◇◇

 

 迷宮を出ると、真っ赤な夕日が遺跡群を横から照らし、長い影が伸びていた。もう間もなく日が沈む。

 遺跡群の間を抜けて、崩れた石回廊の中を通って行く。

 この遺跡群は以前の王都があった場所だったらしい。もう数百年も前に今の場所に王都を移して、それから放置されたこの場所は長い年月を経て、今のような遺跡となったわけだ。

 なので所々、石畳の大通りや立派な石造りの建物の残骸が見てとれる。かつて栄えた王都の栄華も、人がいなくなればただの遺物。大きな時の流れを感じさせてくれる。

 かつては王都の人々の往来を見守ったであろう、大通りから少し外れた所を一人進んで行く。


 

 なんとなく……肌に嫌な感触を感じる。誰かに見られてる、という確信はないが感覚的にはそれに近い。


 遺跡群の間を進む事、しばし。日はどんどん落ちていき、遺跡群に夜の(とばり)が下り始める。


 ……やっぱり誰かが後を尾けてきているな。それも数人。

 足音は聞こえないが、追跡者は俺と一定の距離を保ったまま、数十メートルほど後ろを移動している。


 このまま町まで一気に走るか? 強化魔法で行けば振り切れるだろう。

 

 前に視線を向けて、強化魔法を自分にかける。

 よし、走るか。


 そう思った瞬間、前方の遺跡の壁から何者かが身を乗り出した。その誰かは俺に向かって両手を突き出す。


 バチバチッ!


 雷撃魔法!? 嘘だろ!

 咄嗟に真横に跳んで、石壁の陰に身を隠した。そいつの手から放たれた雷撃がさっきまで俺のいた地面を抉る。


 俺を魔獣と勘違いしたのか!? いや、いくら辺りはもう暗くなってるとはいえ、見間違うはずは……。

 それにしたって魔術師がろくに相手の確認もしないで、攻撃魔法でいきなり攻撃するのもおかしい。


 ひょっとして最初から俺が狙いで、待ち伏せしていたか?

 身を隠しながら、雷撃魔法を撃った奴の方を見るが、姿は見えない。


 どこに隠れた?

 その時、猛烈な勢いで別方向から迫る足音に気付いた。さっきから尾けてきていた奴らだ。

 雷撃魔法をきっかけに一気に距離を詰めてきている。足音は二人。

 俺を挟み込む形で近付いてくる。

 山賊? いや、山じゃないから野盗か? どちらにしても標的は完全に俺だ。


 背後から微かに魔法の詠唱のような声が聞こえた。

 もう一発くる!


 俺は石回廊の壁を飛び越え、反対側の壁の陰に向かう。こうすれば雷撃魔法を撃つ奴に一瞬だけ姿を晒すことになる。

 すると俺の狙い通り、雷撃魔法が回廊に飛び出した俺に向かって放たれたが、俺の体はもう既に反対側の壁の向こうだ。

 今の雷撃で奴の位置はだいたい分かった。けど、後ろの二人はもうかなり近付いてきている。どっちから対処する?


 前の奴は間違いなく魔術師だ。後ろから迫る二人は近接タイプか? この三人はグルか? だとしたら魔術師の方は足止め……本命は後ろの二人か。

 どちらにしても、どちらかを抜かないと、ここから逃げられそうにない。


 壁にもたれながら俺は剣に手をかけた。

 どこの誰だか分からないが、俺に狙いをつけているのは間違いない。


 ――やらなきゃ、やられる。

 

 見間違いだとか、人違いとかの可能性も頭をよぎったが、そんな悠長な事は言ってられない。現にこっちは攻撃魔法で狙われたんだ。

 

 ――向こうが悪い。


 そう自分に言い聞かせて、回廊へ飛び出し、魔術師の方に向かって駆け出した。

 うっすらと見える魔術師の周りに人影はない。魔術師は一人だ。

 だとすれば奴の雷撃を掻い潜って、近付けば抜くのは容易い。


 飛び出した俺に向かって放たれる雷撃魔法。駆けている俺は、左右に大きくフェイントを入れながら魔術師に近付く。

 雷撃の稲光が魔術師の姿を一瞬照らした。長い外套に目深に被ったフード。

 顔はもちろん体型まで分からない。

 ただ、一瞬見えた奴の目に怯えの色があった。


 あっという間に近付いてきた俺に対して、魔術師が石壁の裏に身を隠した。俺は石壁をひと飛びで越えて、魔術師が隠れた石壁の向こうに周り込む。


「ひ、ひぇっ!」


 魔術師が声を上げた。

 攻撃魔法を撃ってきたんだ。命までは取らないけど、一撃入れて眠ってもらうよ。

 剣を立てて剣の刃じゃなく、腹の部分で魔術師の側頭部を横殴りで狙う。

 スピードは落ちるけど、たじろいだ相手を狙うにはこれで充分……この一撃で気絶させる。


 剣を振りかぶった瞬間、俺の右足と腰に激痛が走った。


「がっ……」


 俺は直感的に背後から撃たれたと感じ、魔術師への攻撃を中断して横へ跳んで、崩れた石壁の向こう側へ逃げる。


 くそ……飛び道具か。

 右膝の裏と、左腰。突き刺さっていた物を素早く抜いてみたら、三十センチほどの小さな矢。

 クロスボウガンの矢か。殺傷力はそうでもないが、当たりどころが悪ければ致命傷に繋がる。野盗や山賊がよく使う武器だ。


 壁に身を寄せながら、矢が飛んできた方向を覗き込むと、こちらに向かって走る二つの影が見えた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

皆さんのブックマークや☆評価が作者の活力になっています!

まだの方はぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ