40.ツァミの新魔法
ミザネアとツァミと三人で挑むクエスト。どのクエストにするのかはミザネアの主導で決まった。
マッドハイエナの群れの討伐。
このマッドハイエナは動物の死肉だけでなく、他の動物や人間を襲う。こないだのグレイケルビのように人里に下りてくることもある魔獣だ。
グレイケルビと違って厄介なのは家畜や人間を群れで襲う所だ。
今回のクエストは、家畜がそのマッドハイエナの群れに襲われたという村からの駆除依頼だ。
クエストボードからシートを剥がし、三人でギルドの受付に持って行くと、カウンターの後方にギルドの女帝の姿が見えた。俺は二人から離れてセレス女史の所へ向かう。
「あら、おはようございます。ラドウィンさん。今日は両手に花なんですね」
「ええ。こんな冴えないおじさんには勿体ないくらいの綺麗な花でして」
「本当に勿体ないですね」
「よかったら二輪とも置いて行きましょうか?」
「そんな事言ったらお二人が怒りますよ」
「……そうですね。止めときます」
受付を終えたミザネアとツァミが、俺とセレス女史の所にやって来た。
「ラドさん、お待たせ。ギルド長、おはようございます」
「おはようございます。ミザネアさん。今日はラドウィンさんと一緒なんですね」
「はい。ツァミも一緒ですよ」
「おはよ。お……おねーたま」
「ええ。おはようございます。ツァミさん」
あぶねー! 今、ツァミ絶対おばたんって言いかけたよな。
セレス女史が笑顔でツァミに声をかける。
「ツァミさん。私の事はギルド長と呼んでくださいね」
「こくり。ギルドちょー。行ってきます」
「ええ。気を付けて行って来てください」
俺達はギルドを出て、目的の村へと向かった。
◇◇
村へ向かう道中の馬車の中で、ミザネアがツァミに話しかける。
「ツァミはどんな攻撃魔法が使えるの?」
「ツァミ、氷魔法だけ」
「氷魔法か。相手を凍らせたり出来る?」
ツァミが首を横に振りながら答える。
「出来ない。槍しか出せない」
「なるほど……じゃあ今日は別の氷魔法の練習してみよっか?」
「こくり。ツァミ、他の魔法も使えるようになりたい」
「うんうん。じゃあ、ちょっとやり方教えるね」
こうして馬車の中で、ミザネアによる魔法講義が始まった。ミザネアによると、ツァミは魔法を組む術式の知識があまりないらしい。属性攻撃魔法はそれぞれ基本は同じだ。
魔法で氷が出せれば、その術式を組み替えるだけで威力や範囲を変える事が出来る。ツァミは氷槍という魔法で氷属性の基本術式は出来ているので、その術式を少し組み替えるだけで他の氷属性の攻撃魔法を使えるようになると言う。
うむ。理屈では分かるが攻撃魔法に縁遠い俺にはその感覚は全く分からないけどね。
ミザネアの話を熱心に聞き入るツァミの姿は、ミザネアの本当の妹のように見えてくる。
「うん。理屈はだいぶ理解出来たみたいね」
「おねーたん、ツァミ、試したい」
「うんうん。じゃあ、向こうへ着いて森に入ったらすぐに試してみようか」
「やた! 試してみる」
和気あいあいとした会話だが、そこでミザネアが考え込みだした。
「ミザネア、どうした?」
「ラドさん。ツァミにおねーたんって呼ばせるのはちょっと厚かましいかな?」
「へ?」
ツァミより十歳ほど歳上なんだし、おねーたんと呼ばせるのは別に普通のような気がするけど、対外的に気になるってこと?
「別に厚かましいとは思わんけど?」
「そう? ねえ、ツァミ。他に私のこと何て呼びたい?」
「ん、うーん……。じゃあ、ミザちゃん」
ちゃん付けかよ……さすがに歳上で、ランクも遥かに上の冒険者をちゃん付けで呼ぶのは余計に気にするだろ。
「あ、いいね、それ! じゃあツァミ、これからは私のことはミザちゃんと呼びなさい」
「こくり。分かった。ミザちゃん」
いいのかよ! まあ、ミザネアが満足そうだし……エエか。
そうこうしているうちに、俺達が乗った馬車は目的の村へと近付いてきた。
◇◇
村に着いてすぐに、依頼主である村長の家に向かった。人口百人にも満たない、村というより集落に近い村。
畜産が盛んなようで、村の大部分は家畜小屋か、牧場のようだ。
俺達が依頼を受けた冒険者だと名乗ると、さすがに村長の顔も引きつっていた。
そりゃ、こんなおじさんと女魔術師二人だもんね。一瞬不安にもなるよ。
けど俺とミザネアがミスリルランクだと知ると、分かりやすく安堵の表情を浮かべていた。
マッドハイエナの被害に遭ったという牧場は村の外れの方にあった。すぐ側が森になっていて、そこからなだれ込んだマッドハイエナの群れが柵を破り、家畜の牛を食い荒らして行ったとのことだった。
目撃者の話では群れは二十匹近くいたらしい。
俺達は村での情報収集を終えると、早速その森の中へと入って行った。
二十匹もの群れ。恐らく痕跡もかなり残しているはず。俺達のパーティーに斥候役はいないが、それだけ大きい群れの痕跡なら素人でも見つけるのは容易い。
三人で固まりながら、森の中の獣道を進んで行った。
思った通り足跡が多いね。マッドハイエナの体長は一、五メートルほど。それほど大きくない魔獣だから、単体の痕跡は見つけにくいが二十匹の群れの痕跡は分かりやすく残されていた。
踏み倒された草、足跡など。それらを辿り、森の奥へと進んで行く。
「これだけ残していると追跡も楽勝ね」
「うん。でも油断するなよ。連中は鼻がいいからな。先に接近に気付かれると奇襲されるかもしれないから」
「分かったわ」
「こくり」
三人で周りにも気をつけながら進んで行く。するとツァミが不意に声を上げる。
「ミザちゃん、ツァミ、魔法試したい」
「あ、そうね。一回この辺りで撃ってみる?」
「こくり」
「いいかしら? ラドさん」
「ああ。別にいいよ」
俺がそう答えると、ツァミが嬉しそうに森に向かってロッドを構えた。
「ツァミ。術式はさっき教えた通りね。とりあえずあの木を的にして撃ってみて」
「こくり」
ツァミが目を瞑り、小さく詠唱を始める。周りの空気が一気に冷たくなるのを感じた。その冷気がツァミの握るロッドに集まっていく。
「氷嵐!」
ロッドから放たれたのはかなり粒の大きな雪のような氷。その氷の粒が、的にした木を中心に広範囲に広がっていく。
的にした木は氷の粒で穴だらけになり、真っ白に凍っている。周りの木や草も同じように凍っていた。
氷属性の範囲攻撃魔法だ。でもこの威力はブロンズの魔術師が放てるレベルじゃない。隣でミザネアが感嘆の声を上げる。
「凄い凄い! ツァミ、それって全力?」
「まだちょっと余裕ある」
「嘘でしょ? そりゃネルアリアさんが連れて帰りたがるはずよ……」
「ミザネアから見ても凄いの? ツァミの氷魔法って」
「ええ。私が知っているプラチナランクの魔術師が使う氷魔法と同じくらいの威力はあると思うわ」
「プラチナランク……それは凄いね」
氷嵐を撃ったツァミは振り返って、最高のドヤ顔を俺とミザネアに見せた。
この歳でプラチナランクと同等の攻撃魔法が使えるなんて本当に恐れ入るよ。
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