39.おねーたんと一緒
ネルアリアとの初対面から数日後、いつものようにギルドへ朝食を食べに来る。
あの後結局、ツァミと二人で魔晶石採取に行って一日を終えた。
ツァミの話だと、あと何日かでフロークが復帰するらしい。なのであともう一回、俺とクエストに行く約束をさせられた。
明日がそのツァミとの約束の日になっている。本当なら一人でのんびりクエストをしたい所だが、あと一回だけと、自分の子供のような年頃の娘に泣き落とされてしまった。おじさんに泣き落としはズルいよね?
レストランでいつものように朝食を食べていると、近付いてくる女性が一人。
「ラドさん。おはよう」
「ミザネア。おはよう」
「こないだはごめんね。食事の邪魔しちゃって」
「いや、別にいいけど。今日もネルアリアさんと?」
「ううん。今日は一人よ」
「そう」
湯気が立ち昇るコップを手に、ミザネアがそのまま俺と同じテーブルに腰掛ける。
「ラドさんは今日は?」
「今日はメシだけ。明日、ツァミとクエストに行く約束してる」
「そうなんだ」
そう言って、温かい飲み物を口に運ぶミザネア。
そういえばミザネアは色々なパーティーの助っ人をするって言ってたけど、行ってるのかな?
「ミザネアはクエスト一人でやってるの?」
「まだクエストには行ってないわ。色々と誘いは受けているんだけどね」
「やっぱりミスリルの魔術師となると引き手数多って感じだね」
「まあ、そうね。その点では困る事はないかな」
「そうか。それなら心配なさそうだね」
ボルゾアはミザネアを一人にさせることを心配していたようだけど、ミザネアは昔から賢い女性だ。しっかり自分のペースでこれからも冒険者を続けていくだろう。やっぱり心配はなさそうだな。
「で、ラドさん。ちょっといい?」
「何だい?」
「ディケイドさんのパーティーにも誘われているんだけど……」
「ディケイドに? 凄いね。それはクエストかい?」
「とりあえず一度三人でクエストに行かないかって。で、加入も検討して欲しいって……」
「へぇー、いい話じゃないか」
ディケイドはこないだ一緒にリパードベアの群れ討伐に行ったクリスタルランクの冒険者だ。ハルバリという、これまたクリスタルランクの冒険者と二人で、数ヶ月前に拠点をこのイオアトスに移してきた二人組パーティーだ。
以前は魔術師とも組んでいたようで、イオアトスに来てから、新しい魔術師を探しているっていうのは聞いた事があった。
クリスタルランクコンビからの誘い。とてもいい話だと思うけど、ミザネアの表情はちょっと煮え切らない感じだ。
「そう。ありがたい話なんだけどね。こないだのリパードベアと時にもちょっと話してみて、悪い人達じゃなさそうだし……」
「悪い人だったらクリスタルランクには認定されないよ」
「ま、そうなんだけどね……」
冒険者のランク認定にはクエストポイントの他に、冒険者ギルドとの面談による人格認定もクリアしないとならない。
その認定は上位になるほど厳しくなる。
つまり冒険者の最上位であるクリスタルランクには強さと共に、人格も優良でないと認められないのだ。
少し伏し目がちでミザネアが続ける。
「ディケイドさん達は凄くいい人達なんだけど、ちょっと遠征が多いみたいなんだよね」
「あぁ〜、遠征ね」
クリスタルランクに認定されている冒険者の数は大陸全体を見ても少ない。
強力な魔獣が出現した場合、こないだのリパードベアの時のように、請け負うには一定のランク条件を満たさないと受けられない場合がある。
その町のギルドで高ランクの冒険者が見つけられない場合、他の町のギルドにもそのクエストは共有される。
つまり遠方の町のギルドのクエストを受けると、おのずとその距離は遠くなる。
何日もかけて移動した後で、クエストをすることになるわけだ。冒険者の間ではそういった遠方のクエストを受ける事を遠征と呼んでいる。
高ランクの冒険者でもその遠征を積極的に受ける者と受けない者もいる。
しかし遠征のクエストは報酬もクエストポイントもめちゃくちゃ高いので、受ける冒険者は多い。ディケイド達は積極的に受ける冒険者みたいだ。
だけど、ミザネアはあまり遠征には行きたくないみたいだな。
「今まであんまり遠征ってしてこなかったから……チラッ」
「まあ、それも経験じゃないか? ディケイドのとこにはハルバリもいるし、安心じゃないか?」
「んー……まあ、ね。チラッ」
同じパーティーに女性がいるのと、いないのとでは全然違うと思うんだが。それでもイヤなんだろうか?
「やっぱり何日もイオアトスを離れるのはね……チラッ」
「まあ、拠点だしね。不安はあると思うけど……」
何故かミザネアが俺の顔をチラチラ見てくる。俺にどんな答えを期待しているんだ? 引き留めて欲しいとか?
「おじたん」
「うわ、ツァミか。びっくりした」
「えへへ」
背後から急に声をかけてきたのはツァミだった。ニコニコと笑顔を浮かべて俺の隣に座る。そしてそれをジト目で見つめる向かい側のミザネア。顔が怖いよ。
「ツァミ、クエストに行くの明日だよな? 何でここにいるの?」
「おじたんが居そうな気がした」
「そ、そう」
答えになっていない気がするが、まあ仕方ない。ツァミだから。
ミザネアがジト目のまま俺達二人を見ながら聞いてくる。
「また二人だけでクエスト行くんだ……ふーん」
「こくり」
「あ、ああ」
圧が怖いよ、ミザネア。
笑顔でそれに応えるツァミ。
「おねーたんも一緒に行く?」
「え!? おね? え? わ、私も?」
「こくり」
クエストに誘われた事と、おねーたんと呼ばれた事に戸惑うミザネアが目をパチクリさせる。
「い、いいの? ラドさん?」
「ああ。俺は別にいいけど、忙しかったら……」
「全っ然、大丈夫よ! 問題ないわ。じゃ、じゃあ三人で行きましょうか」
「お、おう」
「やた! おねーたんも一緒にクエスト! 楽しみ」
嬉しそうなツァミと、嬉しそうだけど何故か鼻息の荒いミザネア。
というわけで、明日はこの三人でクエストを受ける流れになってしまった……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
お察しのとおり、ミザネアは案外チョロいんです。




