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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第五章 おじさん冒険者と二人の魔術師

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38.魔術師同盟協会のネルアリア

 戦慄の一言を放ったツァミは、ミザネアのただならぬ雰囲気に小動物のような生存本能が働いたのだろうか、ピタッと口を紡ぎ、俺の隣で小さくなっていた。

 

 まあ……これも社会勉強だよ、ツァミ。人はこうやって大人になっていって、気遣いや忖度というものを覚えていくんだよ。


 

「……子ども相手に大人げないの」


 不意に隣のテーブルから声が聞こえた。

 そこには黒と赤のローブを着た銀髪の若い女性が佇んでいた。

 いつの間に隣に座ってた? 全然気付かなかったが? ツァミとミザネアも気付いてなかったようで、ツァミは不思議そうな顔、ミザネアは驚いた表情を浮かべている。


「ネルアリアさん! いつの間にいたんですか?」

「少し前からじゃよ。面白そうな話をしとったんでしばらく見させてもらったぞ」

「人が悪いですね。声を掛けてくださいよ」

「今、掛けたじゃろ?」


 ネルアリアと呼ばれた女性は悪びれる様子もなく、ジュースを口に運ぶ。


「えと、ミザネア。この人が待ち合わせの人?」

「ええ。ネルアリアさんよ」

「うむ。ネルアリア=シスフォードじゃ」


 ミザネアと同じくらいの歳に見えるが、貫禄のある笑顔を見せるネルアリア。ミザネアは敬語を使ってる。ということはミザネアより歳上なのかな?

 ミザネアが腰を浮かしかけた。


「じゃあ、ネルアリアさん。ラドさん達の邪魔になるから私達はあっちで……」

「ちょっと待て、ミザネア。そこの娘。お主は魔術師か?」


 ネルアリアが体を傾けて、俺の隣にいるツァミに話しかける。ツァミが俺の体越しに応える。


「こくり」

「うむ、そうか。ちょっと(わらわ)の手を握ってくれぬか? 心配せんでもよいぞ。ちょっとお主の魔力量を調べるだけじゃ」


 そう言ってネルアリアがテーブルの上に手を乗せる。

 ツァミが不安そうに俺の顔を見上げるが、ミザネアは止めるような素振りを見せないので大丈夫なんだろう。

 ツァミに頷いてみせると、ツァミがネルアリアの差し出した手に恐る恐る自分の手を乗せる。


「ほう……お、おぉー……ふむふむ……おおお!?」


 目を瞑ったネルアリアが頷きながら奇声を上げる。

 あの……若い娘が隣で変な声を上げているのは凄く気になるし、何故か俺まで恥ずかしくなるのですが……。魔力量を見るだけなのにそんな声を上げないと駄目なわけ?

 ネルアリアはそんな俺にお構い無しで、変な声を出し続ける。


「ほほぉー……、おおぉー……」

「ネルアリアさん、そろそろ……」


 ミザネアの制止でネルアリアが目を開けて、手を引いた。そしてネルアリアが不敵な笑みを見せた。


「お主、ツァミといったかの?」

「こくり」

「ランクは……ブロンズ!? お主、ブロンズでこの魔力量なのか?」


 ネルアリアがツァミの首元の認識票を見て驚愕の声を上げた。

 そんなに凄いのか? ツァミの魔力量って。


「ツァミ! 冒険者になってどのくらいじゃ?」

「一ヶ月くらい……です」

「ほうほう……なるほど。パーティーメンバーはおるのか?」

「こくり」

「ふむ……」


 ネルアリアは腕組みして椅子の背もたれにもたれる。

 何だろうか、この人。急に驚いたり考え込んだり。

 視線をツァミに戻したネルアリアがツァミに尋ねる。


「ツァミ。お主の衣食住の面倒を見てやるから妾の所に来んか?」

「ちょ、ネルアリアさん?」


 思わず声を上げるミザネア。

 ど、どういうこと? 衣食住の面倒見るって、えっ?

 俺とミザネアは驚いているが、ネルアリアはいたって真面目な表情でツァミを見ている。

 ツァミは不安げな表情で、俺の顔を見てくる。


「あの、ネルアリアさん。ツァミの面倒を見るというのはどういうことですか?」

「うん? お主がツァミのパーティーメンバーか?」

「いや、俺はツァミとパーティーじゃないんですが……」

「なら問題なかろう。どうじゃ、ツァミ。妾の所に来んか?」


 突然のネルアリアからの提案にツァミが困っている。

 とりあえず俺からその理由を聞いてみるか。


「えっと、ネルアリアさん。何でツァミを連れて行きたいんですか?」

「ん? それはツァミが優秀な魔術師の素質があるからに決まっておるじゃろ」

「優秀だからって……」


 戸惑う俺とツァミに向かってミザネアが説明を挟んでくれる。


「ネルアリアさんはね、『魔術師同盟協会』っていう団体の会長さんなのよ」

「『魔術師同盟協会』?」


 初めて聞いた団体名だ。名前からして魔術師の団体だと思うけど。


「ええ。そこでネルアリアさんは魔術師の発掘や育成などをしているの。他にも冒険者になった魔術師のフォローとかもしていて、魔術師を助けることに尽力している人なのよ。私もその団体には加入しているわ」

「そうじゃぞ。特に優秀な者は妾が直々に指導して育成をしておる。ツァミにもその資格が充分にある、と判断したのじゃ」


 まあ、何となく説明は分かったけどちょっと強引過ぎやしませんか?

 良い活動をしてるっていうのは分かったけど、そんなに凄い人なのか?


「ちなみに今、妾の所には三人ほど世話をしておる魔術師もおるのじゃぞ」

「ネルアリアさんの家はすごい大きなお屋敷で、メイドさんもいるの」


 何ととんでもないお金持ち。怪しさ満開だけど、ミザネアが慕っているのだから悪い人間というわけではないと思う。

 でも大事なのはツァミの気持ちだしな。いきなりそんな事言われても困るしかないだろ。

 ツァミが俺の袖を掴み、小さな声で聞いてくる。


「おじたん。ツァミ、どうしたらいい?」

「んー、ツァミはまだエリハナ達と冒険したいかい?」

「こくり。おじたんともクエストしたい」

「そっか……じゃあ……」


 警戒するツァミに代わって、俺がネルアリアに答える。


「ネルアリアさん。ツァミはまだパーティーを組んだばかりで、その子達と頑張りたいと言ってます。なのでありがたい話なんですが、今回は諦めてもらえますか?」


 やんわりとお断りの意思を伝えた。あまり頭から拒否すると、相手も傷付くからね。

 ネルアリアは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに諦めたように微笑む。


「そうか。なら仕方ないの。じゃが、いつでも妾はお主の力になるからの、ツァミ。困った事があったらいつでも妾を頼るが良いぞ」

「こくり。分かった」

「邪魔をしてすまなかったな。では行くか、ミザネア」

「はい。じゃ、ラドさん、ツァミ。また」


 ミザネアとネルアリアがテーブルを離れて行った。


 一体なんだったんだあの人……。強引な勧誘の割りには引き際はあっさりしているな。

 『魔術師同盟協会』か、長いこと冒険者やっているけど、初めて聞いたな。

 魔術師の間では有名なんだろうか? ミザネアも加入してるって言ってたし、悪い団体ではないとは思うけど……。


 隣に座ったままのツァミがちょいちょいと俺の袖を引っ張る。


「何だい? ツァミ」

「おじたん、どのクエスト、受ける?」


 あ、忘れてた。

 すっかり冷えてしまった朝食のスープを啜りながら、ツァミからのこの誘いをどう断るのかを再び考えることにした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

皆さんのブックマークと評価が作者のモチベを爆上げしてます!

これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

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