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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第四章 クリスタルランクにクエストを頼まれる

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34.おじさんは明日の予定がないと、ついつい飲み過ぎる

 ディケイド達とのクエストの数日後、俺は魔晶石採取のクエストを終えてギルドへと戻って来た。緊張感のあるクエストもたまにはいいけど、やっぱりのんびりやるのが一番だね。

 魔晶石の換金を終えて、そのままギルドで晩飯を食べるか悩む。帰りにどっかに寄るか? ん……、どうしよう。


「おう! ラド! 終わったかの!」

「お! ボルゾア」


 声をかけてきたのはボルゾアだった。その格好はクエスト帰りではなく、作業着姿だった。


「メシはまだだろ? 一緒にどうだ?」

「いいね、行くか」


 ちょうどこないだのミザネアとの話の事もあり、ボルゾアと話したいと思っていた所だ。

 その誘いに即答して、俺とボルゾアは二人で町へと向かった。


 ◇◇


 賑わう酒場の隅のテーブルで、とりあえず麦酒を飲んで二人で乾杯。次々とテーブルに料理が並び、口の上に泡をつけた二人がその腹を満たしていく。


 あれからミザネアとは話をしたんだろうか? こちらから切り出すべきか迷っていると、ボルゾアの方から話を切り出してきた。


「なあ、ラドよ。もうミザネアから俺のことは聞いとるだろ?」

「ああ。奥さんの実家、手伝ってるんだって?」

「おう」

「今日もその帰りか?」

「そうだの」


 いつも明るいボルゾアの表情が少し陰る。チラリと俺に目を向けた。


「やっぱ農家しながらは無理かのぉ……」

「まあ……難しいだろうね。畑仕事がどれだけ大変か俺は知らないけど……」

「あの熊公のクエストの時は全然足が動かんかった。正直、お前らの動きを見たら諦めがついたの」

「ミザネアと話をしたかい?」

「おう。まあの」

 

 ボルゾアは明るいトーンで話すが、少し寂しそうな目をしている。

 リパードベア討伐の時、ボルゾアの動きが悪かった事はミザネアとも話していた。やはり自分でも自覚があったんだな。

 ぐいっと麦酒を飲み干し、店員におかわりを頼んだボルゾアが続ける。


「ラド。俺ぁ、冒険者には何の未練もねえんだがの。ちょっとばかし後悔してた事があったんじゃ」

「後悔? 何を後悔してたんだ?」

「最後にミザネアを一人にさせちまったなっちゅう後悔じゃの」


 やっぱりボルゾアにもミザネアに対しては思う所があるんだな。そりゃ十年以上も一緒にやってきたんだ。そういう感情がない方がおかしい。

 ボルゾアは運ばれてきた麦酒を受け取り、ぐいっと喉に流し込んだ。そして清々しい笑顔を見せる。


「アイツに言われたんじゃよ。これからはお互い好きに生きようってな。だからパーティーは解散じゃ、とな」

「お互い好きに……ね。それでボルゾアはそれに何て応えたの?」

「ハッハッハ……何もねえわ。後悔したのが馬鹿らしくなったのぉ。ハッハッハ……」


 豪快に笑うボルゾア。俺も釣られて笑顔になる。


「まだまだガキじゃと思っとったが……」

「ミザネアはもう立派な大人だよ、ボルゾア」

「そうみたいじゃのぉ。知らん間に大人になっとった。俺が心配せんでもアイツなら一人でも大丈夫じゃの?」

「ああ。大丈夫だと思うよ」


 ボルゾアがまた麦酒を流し込み、俺も同じく杯を傾ける。実に嬉しそうなボルゾアが更に続ける。


「ちゅうわけで、ラド。俺ぁ、農家になるからの」

「そうだね。奥さんと子どもの為にはそれがいい」

「お? 俺ぁ、子どもの事、言っとったかのぉ?」

「すまん、ミザネアから聞いて知ってた。奥さんの連れ子だって?」

「おう! あいつの前の旦那は流行り病で倒れてのぉ。自分の子どもの顔見る前にあの世に行ってもうたんじゃ」

「未亡人か……」

「そういうことじゃの」

「子どもはどっち?」

「男じゃ。もうすぐ五歳になるの」

「そりゃ、可愛いね」

「おう。俺にもよく懐いてくれて、可愛ええんじゃ」


 すっかり父親の顔だな、と思いながら、笑顔で話すボルゾアの顔を見る。


「そうじゃな……ラドにもまた今度、嫁と子どもを紹介せにゃな」

「ああ。楽しみにしてるよ」


 おじさん二人の楽しい会話。酒も食事も進んでいく。しかし次のボルゾアの一言がこの空気に一滴の墨を落とす。


「ラド。それはそうと、お前は結婚せんのか?」

「またその話か……。もう俺はいいよ。一人の時間に慣れ過ぎた。もう今更嫁を探そうなんて気は起きないね」

「探さんでも、ミザネアはお前に寄って来とるだろが。あいつはやっぱり駄目かの?」

「前にも言ったけど、恐れ多いよ。俺には無理だね」

「そんなにアイツは高嶺の花かぁ?」


 不思議そうに首をひねるボルゾア。

 こいつは十年以上もミザネアの側にいたから分かっていないんだ。ミザネアがどれだけ美人で、道行く男どもの視線を集めているかを。

 しかも俺との年齢差は二十歳。パーティーメンバーとしてならともかく、パートナーとしてはちょっと離れ過ぎだと思う。

 ボルゾアは、ミザネアが俺に寄ってきてるなんて言っているけど、それは恋愛感情からではないと、俺は思っている。どっちかというと子供が、親や祖父母に懐いている感覚に近いんじゃないかな。

 

 俺があんまりその話題をしたくなさそうなのを察したのか、ボルゾアが言葉を途切れさせた。


 また麦酒を口に運び、頬が赤くなり始めたボルゾアが俺に聞いてくる。


「それで……ラドはいつまで冒険者やるつもりなんじゃ?」

「とりあえず体が動けるうちは続けるさ」

「まあ、見た限りまだまだ動けそうじゃの」

「まあ、まだ何とかなるかな? 石拾いだけしていればまだまだいけるだろ?」

「石拾い冒険者か。カッカッカ……。それはもう冒険者じゃねえじゃろ」

「そんな事なないぞ? 魔獣に襲われる事だってあるし」

「でも結局は石拾いじゃろ?」

「まあな」


 石拾い冒険者か。確かにそれはもう()()じゃねえな。けど冒険者を辞めた後の事なんて真剣に考えた事はない。いや、考えないようにしてた。

 頭の片隅には、いつか冒険中に死ぬかもしれないという考えがあったから、意味がないと思っていた。

 でも気がつけば俺も四十六歳。俺より歳上の冒険者はもうほとんど見かけなくなった。

 いつ命を落とすかもしれないという危険はあるが、さすがに辞めた後の事も考えないといけないか。


「もし冒険者辞めた後、(なん)もする事なかったら俺に言ってこいよ。畑仕事手伝ってもらうからのぉ。ハッハッハ……」

「そうだな……その時はお願いするよ」


 辞めた後の心配はなさそうだな。 

 気がつけば、このままボルゾアとかなり夜遅くまで飲んでしまった。

 まあ明日はその石拾いに行く予定じゃない。一日ゆっくりするつもりだから全く問題ない。


 ◇◇

 

 戻った宿のベッドの上で、飲み過ぎた自分を慰めるように頭の中で何度も”問題ない”と唱えた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ブックマーク、☆評価していただいた方、ありがとうございます!

まだの方もいつでもお待ちしてますので、よろしくお願いしますm(_ _)m

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