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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第四章 クリスタルランクにクエストを頼まれる

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28.熊退治

 朝、といってももう昼近く。

 おじさんはギルドへと向かう。最後のルキュアとの稽古はかなり体力を消耗した。

 その後ルキュアが報酬として渡してきたお金はかなりの額だった。最初はこんなにも受け取れないと断ったのだが、ルキュアの熱量と圧に負けて受け取ってしまった。


 騎兵師団副団長のプライドを捨ててまで俺に稽古をお願いしてきたのだ。これ以上彼女のプライドと意地を損ねるのは得策ではないと思ったからだ。

 懐はだいぶ暖まったが、これはクエストで得た報酬じゃない。だからクエストポイントは入らない。

 とりあえずクエストポイントの為、宿代の割引きを継続させる為、おじさんはクエストを受けに来たわけだ。



 ギルドへ到着すると、クエストボードに向かう前に声をかけられる。


「おう! ラド! いつも通りの時間じゃの」

「ボルゾア。どうしたんだ?」

「ちょっとこっちへ来てくれんかの?」

「何だい?」

「ちょっと相談だの」


 ボルゾアからの相談。たぶんクエスト絡みのことだと思うけど……とりあえずボルゾアの案内でレストランの奥の方へと移動する。

 カウンターにいたギルド長、セレス女史が俺に向かって無言で小さく会釈してきた。何の会釈だろ?


 見えてきたのは笑顔を浮かべて手を振るミザネア。その向かい側の席には大きな背中と小さな背中が二人。

 クリスタルランク冒険者のディケイドとハルバリだ。

 俺とボルゾアは三人が座るテーブルに腰掛ける。軽く挨拶を交わして、最初に口を開いたのはディケイドだ。


「本当に二人の言った通りの時間に来たな」

「俺のこと待ってた?」

「そう。ラドさんを待ってた」


 ミザネアがいたずらっぽく笑って応える。向かい側に座るハルバリは怪訝そうな目を俺に向けている。

 ディケイドがテーブルの上に一枚の紙を置いた。クエストボードに張られているクエストシートだが、左上に赤文字で”緊急”と書かれている。


「ギルドから緊急のクエストがあった。ミザネアとボルゾアの協力は取り付けた。ラドウィン、お前も手伝ってくれねえか?」


 ディケイドが実に端的な説明をする。俺は無言でテーブルの上のクエストシートに目を落とす。

 シートには”リパードベア討伐依頼”と書かれていた。

 視線をディケイドに戻すと、ディケイドがふっと笑った。


「熊退治だ。リパードベアは知っているか?」

「ああ。知っているよ」

「なら話が早い」


 リパードベアとは凶悪な熊の魔獣だ。体長は二メートルを越え、性格は極めて好戦的。かなり危険な魔獣だ。

 ただでさえ大きな体なのにコイツには大きな武器がある。それは長剣並の長さがある強力な前脚の爪だ。

 その長い爪はヤワな鎖帷子や鎧をいとも簡単に切り刻む。だから付いた名前が”切り裂く熊(リパードベア)”。

 コイツにやられた冒険者の話はこれまでもかなり聞いてきた。

 テーブルの上に置かれているのはそのリパードベアの討伐依頼。

 ディケイドが続ける。


「近郊の森で数匹のリパードベアが目撃された。数匹だ。ということは群れだ」

「リパードベアの群れ……」

「ギルドの依頼はその群れと巣の駆除だ」

「群れの数は分かっているのか?」


 その俺の問いかけに頬杖をついたままのハルバリが吐き捨てるように応える。


「少なく見積もっても十匹や」

「十匹ね……」


 十匹以上のリパードベアの群れ。かなり危険だ。そんな危険なクエスト、受けるパーティーはなかなかいない。現に目の前のクエストシートにはミスリルランク以上の冒険者のみ受注可能と記されている。

 ミスリルランクではあるけど、俺が役に立てるのだろうか。

 悩む俺をよそにハルバリが、ミザネアとボルゾアに向かって尋ねる。


「なあ、ミスリルとはいえこんな石拾いばっかりしてるおっちゃん、役に立つんか?」


 ごもっとも。俺も不安しかない。

 なのにミザネアとボルゾアが自信たっぷりに答える。


「ご心配なく。ラドさんは充分に強いですよ」

「そうじゃの。全く問題ないの」

「ホンマかいな。ギルド長もこのおっちゃんの事、薦めとったけど……」


 セレス女史もですか? だからあの会釈ですか? 何故みんな俺をそんなに過大評価する?

 視線を感じてギルドのカウンターに目を向ける。すると、何故かそこに居座り続けているセレス女史と目が合った。

 眼鏡の奥から凄い眼力を感じる……。そのセレス女史の口元が動く。


 ”お願いします”

 セレス女史の口は確かにそう動いた。


 ディケイドが更に続ける。


「今、この町にいるミスリル以上の連中ですぐに動けるのは俺達だけだ。一刻も早く対応しねえと、奴らがいつ町まで下りてくるか分からねえ状況だ」

「町が近いのか?」

「目撃された場所からそう遠くない場所に宿場町がある。王都街道沿いだ」

「そんな近くまで……」

「だから急ぐ必要がある」


 ディケイドが眉間に皺を寄せる。

 ミザネアがその後に続ける。


「ラドさん、お願い。今動けるのはここにいる五人だけなの。力を貸して」

「俺からも頼む。ラド」


 ディケイド達は知り合ってまだ間もない。だから手伝う義理はないと思っている。けどミザネアとボルゾアは別だ。

 この二人との付き合いは長い。途中ちょっと途切れているけど……。でもイオアトスに帰って来た俺を以前と同じように接してくれる友人だ。その友人がこうやって俺を頼ってくれている。

 それにはやっぱり応えないと駄目だろう。あとあの怖いセレス女史にもお願いされたしね。


「分かった。やろう。いつ出発する?」


 ディケイドがニンマリと笑う。


「すぐに出る。すぐ準備を始めてくれ」


 ディケイドがテーブルの上のクエストシートをもぎ取ると、ギルドのカウンターに向かって歩き出した。 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


次回からこの即席パーティーの熊退治が始まります。

今後ともよろしくお願いします!

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