24.モヤモヤするっ!
王都街道を数時間ほど歩くと、街道の両側が森に包まれる。森林地帯を縦断するように王都街道が通っているので、しばらくは同じような景色が続く。
この森林地帯を抜けるとイオアトスに一番近い宿場町があるが、俺の目的地はこの森林地帯だ。
ベルアド武器店で買った弓と矢を背に、街道から外れて森林地帯へと入って行く。
手にはナサラからもらった狩猟メモがある。狙い目の獲物の情報がイラスト付きで書かれている。
初めて狩猟をする俺の為に、手助けになればとナサラが作ってくれた物だ。こんなおじさんに優しくしてくれて本当にいい娘だよ。
◇◇
弓の使い方は問題なかった。昔、パーティーに弓使いがいたのでやり方を教わったことがあるからね。もちろんその時の弓使いは魔獣用の大型の弓矢を使用していたが、それに比べれば俺の狩猟用の弓はかなり小さい。小型の獣を狩る用だから。
使い方は問題なかったけど、獲物に当てられるかどうかは別問題。まず獲物に気付かれずにポジションに移動するのが難しい。
そしていいポジションに入っても一発で仕留めないと、獲物は一瞬で逃げていく。特に鳥は弓を発射した瞬間に、その音に反応して羽ばたいていく。つまり鳥そのものを狙うのではなく、どちらに飛ぶのか予想して矢を放たないと当たらない。
ま、全部ナサラからの受け売りだけど……。
野鳥やシカは何度か見つけられたが、素人の俺がいきなり成功出来るほど狩猟は甘くなく、数時間森の中をさ迷ったが全く獲物を仕留めることは出来なかった。
ポジション取りまでは上手くいくんだけどね。やはり弓を一発で決めきるというのが難しかった。
結局何の成果も出せないまま、俺の狩猟デビューは終わった。うん、今度ナサラにちゃんと教えてもらおう。
初狩猟を終えた俺は森の中を王都街道に向けて歩き出した。
◇◇
王都街道に戻り、イオアトスへ向かう。
「ん? あれは馬車?」
まだかなり前方、街道の左端に馬車が停まっているのが見えた。その馬車の周りには何人かの人が見える。馬車の護衛だろうか? 馬車に護衛をつけるということは貴族とか?
そのまま歩くと、馬車の周りにいるのがただの護衛ではないということが分かった。
「王国騎兵師団かよ……。ということは貴族じゃなくて王族か?」
騎兵師団が護っているんだからそういう事だろう。もしかしたら貴族かもしれないけど……。
馬車が停まっている反対側の端を進んでいく。あまり近付いて不審者扱いされたくないしね。
出来るだけ目を向けないようにもしよう。あまりジロジロ見ると注意されるかもしれないし……いや、でも無視して通り過ぎるのも王族に対して失礼か? どっちだ? どっちが正解か分からん。
そもそもこんな街道で停まるなよ。ややこしいよ。
よし、ここは気付かない振りをして早急に通り過ぎるのが得策と見た。
少し歩く速度を早める。
馬車は二台あった。どちらも豪華な装飾が施されていて、中にいる人物が高貴な人物だということが判る。しかし王族だと示す旗がない。ということは王族じゃないのか?
じゃあ何故、王国騎兵師団が護衛を?
まあ考えても俺には関係ない。早々に立ち去らせてもらおう。
その馬車の横を大きく離れて通り過ぎようとすると、わざわざ馬車の側から騎兵師団の一人が近付いてくる。幅三十メートルほどの街道。
ここで小走りになれば怪しさ満開だろう。ここは面倒臭いがあえて応対するか。
近付いてくる騎兵師団の騎士に目を向ける。
「やはりラドウィンさんでしたか」
「……え? ルキュア副団長?」
前に会った時の軽装とは違う、騎兵師団の鎧に身を包んだルキュア副団長だった。
そのルキュア副団長が不思議そうな顔で俺に近付いてくる。
「クエストの帰り……というわけではなさそうですね」
「ええ、まあ。ルキュア副団長は護衛中ですか?」
「ええ。とある要人がイオアトスに参られるのでその出迎えに……」
「そうでしたか。でも何でこんな所で?」
「馬車の車輪の調子が悪く、今応急で調整をしているのです。どうやら石に乗り上げたようで」
なるほど、馬車を見ると数人の騎士達が馬車の車輪辺りに集まり作業していた。あまりルキュア副団長の時間を取らせても申し訳ないからすぐに立ち去った方がいいな。
「じゃあ、私はこのへんで失礼します」
「ラドウィンさん」
「はい?」
立ち去ろうとする俺をルキュア副団長が呼び止める。なんとなくイヤな予感。
「今日は狩猟ですか?」
「ええ。全く駄目でしたが……」
「クエストに行かない日は狩猟を?」
「いえ、今日が初めてです。趣味と呼べる物もないので、始めてみようかと思いたったもので」
「なるほど……趣味などはなかったのですか。では時間を持て余していると……」
「ま、まあ……そ、そうですかね?」
「ふーん……」
ルキュア副団長の切れ長の瞳が妖しく光る。やっぱりイヤな予感がする……。
「な、何か? ルキュアさん?」
「いえ何も。ではお気をつけてお帰りください」
「はあ。では失礼します」
あっさり解放された。何か変な事させられるのかと思っていたので意外だった。
ルキュア副団長はくるりと踵を返すと、馬車の方へと戻って行った。
一体何だったのか……。でも時間があるという事を伝えた時のあのルキュアの目……絶対に何かある。気にはなるが、確かめることも出来ないので、何かモヤモヤしながらも俺は帰ることにした。
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