23.趣味を探す
今日、俺が朝からいるのはベルアド武器店。特に何か用事があって来たわけじゃない。何日かクエストを休んで時間が出来たから来ているだけ。まあ、ヒマ潰しだ。
体力的に毎日クエストは受けるとキツいし、宿代を稼ぐだけならそこまでクエストをこなす必要はない。宿代と飯代を稼ぐだけだったら週に二日、魔晶石採取すれば収入的には大丈夫だ。
つまりこのおじさんは時間をかなり持て余しているというわけなのです。
たぶん冒険者のほとんどはこんな感じなんだと思う。日帰りのクエストばかり受けるとこういう感じになる。
ベンゼルのパーティーにいた頃は日帰りのクエストの方が少なかった。日帰りは初期の頃だけだったと思う。
ここの主人で、鍛冶師のバザフはこんなふらっと遊びに来たおじさんの相手もしてくれる。
今は仕事が落ち着いているからだろう。俺とバザフがカウンターを挟んで会話している横で、このお店のバイトでバザフの姪っ子ナサラは何か本を読んでいる。
「しかし呑気なもんだな、ソロ冒険者ってのは」
「そんな事もないぞ? 俺だってちゃんとクエストはこなしているし」
「でも現にこうやって油売りに来てるじゃねえか」
「まあ、そうなんだけどね」
本を見ていたナサラがこちらを向いて俺達の会話に入ってくる。
「ラドウィンさんは何か趣味とかないんですか?」
「趣味ねえ……」
そう言われると、趣味はないな。ここに来る前にパーティーを組んでいたベンゼル達とはクエスト以外でもよく会っていたから意外と一人の時間がなかったんだよな。
クエストが休みの日でも剣を教えてくれだの、魔法の練習台になってくれだの何かと引っ張り出されていたから趣味を作る時間もなかったんだよな。
そんな俺を見かねたのか、ナサラが更に聞いてくる。
「何か興味のあることとか、気になる物とかもないんですか?」
「気になること……ふーん」
「その様子だと無さそうだな。その歳まで冒険者だけやって、趣味もないなんて哀れだな」
「む……そう言うバザフは何かあるのか?」
「俺の趣味はコレだ」
バザフが竿を引くような動きをする。
「釣り?」
「おう! 休みの時は一日中、湖か川で釣ってるぜ」
「へー、そうなんだ。意外だな」
「なかなかリフレッシュするし、奥が深いからな。面白いぞ。一回やってみるか?」
「試してみてもいいかもね」
「反応薄いな」
「やった事ないからね、釣り」
ニコニコと話を聞いていたナサラがまた尋ねてくる。
「ラドウィンさん、狩猟は興味ないですか?」
「狩猟? 狩猟って何で狩りするの?」
「コレですよ」
ナサラがさっきのバザフと同じように弓を引く動きをする。
「弓矢?」
「そうです。弓で鳥とか猪とかを狩るんです」
「それは難しそうだね」
「最初は難しいですけど、慣れてくると楽しいですよ」
「え? ナサラ、狩猟やるの?」
「はい。私の趣味です」
ナサラが読んでいた本を俺に見せる。
それはイオアトス周辺の野生動物などの生態や生息域が描かれた図鑑のような本だった。所々書き込みがあるところを見ると、ナサラが普段から愛用している本なんだろう。
バザフが話に入ってくる。
「休みの日は俺が川へ釣り。で、コイツは山へ狩猟。なかなか活動的だろ?」
「ホントだ、スゴいね。狩猟ねー……。釣りよりは興味あるかも」
「ホントですか? 一回やってみます?」
声を弾ませるナサラ。
釣りは何かじっとしてるってイメージが強いんだよな。それに魚より鳥や猪の肉の方が好きというのもある。
「でも獲った獲物とか料理出来ないな。ナサラはどうしてるの?」
「持ち込みの食材を捌いてくれるお店を知っていますよ。伯父さんも釣った魚を持ち込んでますから」
「へーそうなんだ。ちょっと面白そうだね」
「今度一回、三人でやってみるか? 釣りと狩猟に別れて晩ご飯を狩りに行くか」
「楽しそう! ラドウィンさん、ぜひ行きましょ。弓矢の使い方、私が教えますよ」
「弓矢はたぶん使えるから大丈夫だよ。それよりどんな獲物が美味しいか、とかを教えて欲しいな」
「任せてくださいよ!」
それからも三人で話が盛り上がり、今度ベルアド武器店が休みの日に三人で狩猟と釣りに行くことになった。
で、もちろん俺は弓矢など持っていない。が、ここはベルアド武器店。
基本的には冒険者向けの武器がメインだが、店の端には狩猟用の弓矢が並んでる。
よく見ると、その横には釣り竿も何本か並んでる。二人の趣味が反映しているのか。あえて突っ込むのは止めておこう。
俺は狩猟用の小型の弓と矢を買って、三人で行く前に、一度一人で練習させてもらうことにした。
ナサラから王都街道沿いの森の中だと、小型の猪や鹿も狙えるという事を教えてもらったので、早速明日にでも行ってみようと思う。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回と次回の話はちょっとチル回になっています。




