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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第三章 おじさん冒険者と真っ直ぐな女性達

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22.一番弟子

リューラは戦い方も性格も真っ直ぐです

 こちらに向かって走る男の姿は一人。その後方には倒れ込んだ憲兵と、笛を吹いている憲兵が見えた。

 憲兵を斬って逃走を図ったのか。

 リューラが路地に向かって数歩歩み出て剣を向けた。


「そこで止まりなさい!」


 このまま行けばリューラと男が衝突する。男はリューラを躱して逃げるつもりだろう。もちろんリューラはそれをさせまいと、男に向かって剣を向ける。


「公務執行妨害の現行犯っ! 覚悟しなさい!」


 リューラが男に向かって再び叫んだが、男は走る速度を落とさない。やはりリューラをすり抜けて逃げるつもりだ。

 

 俺は……どうする?

 武器はない。相手は武器を持っている。リューラを躱したら、俺は犯人を組み伏せられるか?

 

 走る男の手に短刀が光る。そして走りながら体勢を低くする。リューラは動かない。男が間合いに入るのをじっと待つ。


「ひゅっ!」


 短い気合いと共に、リューラが突きを放った。早く深い踏み込み。そして低い。

 男の足を狙った突き。リューラはまず男の足を止めるつもりだったのだろう。


 けどその狙いは男に読まれていた。

 男は走りながらリューラの突きと同時に横へ跳んだ。そして壁を蹴ってリューラの後方に向かって跳ぶ。深い踏み込みだったリューラは完全に後ろを取られた。


 だが男の目的は攻撃じゃない。リューラを躱すだけでいい。地面に着地した男は速度を落とすことなく、走り始める。

 眉をしかめたリューラが振り返る。

 チラリと後ろを見た男の口元に歯が見える。嘲笑を浮かべた男がそのままリューラから離れていく。


「もう一人いるよ」

「あ!? うおっ……」


 壁際に隠れていた俺が横から飛び出し、片手で男の短刀を持つ手を抑え、もう片方の手で男の襟首を掴む。完全に男の足を止める事に成功した。

 男が俺を振り払おうとするが、既に強化魔法がかかっている俺はビクともしない。

 そのまま男を担いで背負い投げ。


「がハァッ……!」


 背中を地面にしこたま強く打ちつけた男が苦痛の声を上げる。そして短刀が転がる乾いた音も路地に響く。

 俺はそのまま男の腹に膝を乗せて全体重をかけて男の動きを封じる。


「ラドウィンさんっ!」


 駆け付けたリューラが仰向けに押さえ込まれた男の顔に剣の切っ先を向ける。


「動くな! 諦めろ!」

「うぐ……ぐ……」


 顔を苦痛に歪めた男の体から力が抜けた。観念したようだ。

 するとさっきの笛の音を聞きつけた憲兵達が、あっという間に俺と男の周りに群がってくる。


 男が憲兵達に連行されていくのを見送ると、リューラが俺に感謝の言葉をかける。


「ラドウィンさん! ありがとうございました! お陰で犯人を捕まえる事が出来ました」

「まー、たまたまね。運が良かったよ。でもあいつが窃盗犯なのかな?」

「それはこれから取り調べたら分かります。どちらにしても憲兵を傷付けたのは間違いないので」

「確かにそうだね」

「やっぱり……ラドウィンさんは凄いです」

「そんな大した事してないよ? 男の注意がリューラに向かってたから隙だらけだったってだけだから」

「いえ。その隙を見極めて、突けるのが凄いんですよ!」

「そ、そうかな?」

「そうなんですよ! 走っている人間の一瞬を突いて投げるなんて、なかなか出来る事じゃないんですから」


 昔からこんな感じでリューラはこのおじさんをおだててくれる。俺からしたら彼女の過大評価なのだと思うのだけど。

 王都で剣術を教えていた時も、何か教える度にこうやって感激して興奮気味に話してくれる()だった。


「犯人逮捕に協力いただいたんですから、表彰ですね。私の方から言っておきますので安心くださいね」

「いやいや、表彰なんていいよ。大丈夫だから」

「何でですか? 感謝状ぐらいは出させてください」

「いらないよ。リューラの手柄にしたらいいよ。もうおじさんだからね。あんまり目立ちたくないんだよ。頼むよ」

「ん〜……そうですか。でも……ラドウィンさんならそう言うかなって思いました」

「よく分かってるじゃない」

「はい。ラドウィンさんの一番弟子ですから」

「弟子って……弟子を取った記憶はないけど……。まあそうなるか」

「はい! ベンゼルより私の方が先ですから私がラドウィンさんの一番弟子です」


 胸を張ってドヤ顔を見せるリューラ。

 まあこんな可愛くてしっかりした()が師匠と言って慕ってくれるんだ。 

 それは素直に嬉しい。


「じゃあ、リューラ。俺はこのへんで失礼するよ。後は色々大変だと思うけど頑張ってね」

「はい! 今日はこれからクエストに行かれるんですか?」

「うーん。たぶんお昼ぐらいから行くと思うけど、何で?」

「いえ。気を付けて行ってきてください! ありがとうございました! ラドウィンさん!」


 リューラは憲兵隊の小隊長という立場を忘れているのか、満面の笑みを浮かべて大きく手を振って俺を見送ってくれた。


 ◇◇


 夕方の冒険者ギルド。

 結局、朝はあの大捕物から帰ってひと眠りしてから昼から魔晶石採取のクエストに行った。

 いつもより全然少ない魔晶石の換金を受付カウンターでしていると、後ろから声をかけられる。


「ラドウィンさん。お疲れ様です」

「ん? あ、リューラ。お疲れ。どうしたの?」


 振り返るとそこにいたのはリューラだった。いつもの憲兵の制服姿ではなく、私服だった。

 パンツスタイルの制服とは違い、白を基調とした明るい色合いのワンピースに長い黒髪が良く似合う。

 笑顔を向けるリューラが続ける。


「今朝の事件のその後を報告しようと思いまして」

「わざわざ来てくれたんだ。じゃあ立ち話もなんだからあっちに座ろうか」


 換金を終えた俺とギルドのレストランへと移動する。冒険者とは違う私服姿で、スラッとした美人のリューラはギルドにいる冒険者の注目を浴びる。

 ミザネアといる時もそうだけど、ここのギルドの男連中はなんかギラギラしてんだよな。気持ちは分かるけど女性をジロジロと見るのはもっと自重しろと言いたくなる。こんなおじさんが隣を歩いているせいかもしれないけど……。


 リューラを連れて端っこのテーブルに座る。


「で、今朝の続きって?」

「はい。あの捕まえた男は雇われの窃盗犯でした」

「雇われ?」

「はい。今朝、盗んだ物を指定の場所に持って行けば報酬を貰えるという事だったらしいです」

「その指定した場所は分かったの?」

「はい。男が白状しましたのですぐに乗り込みましたが……」

「何もなかった、だね」

「はい。既にもぬけの殻でした。人の出入りの痕跡はあったのですが……」

「指定の時間に来なかったから見限ったんだね」

「そのようです」

「雇った奴の情報は?」

「大柄の男……顔に複数の傷跡、そこまでしか分かりませんでした」

「何処でそれを依頼されたんだい?」

「飲み屋だったそうです。そこで声をかけられたと……」

「その男、よくそんな話信じたよね」

「捕まえた男の知り合いがその数日前に同じように依頼されて、いい額の報酬をもらっていたそうです。なのであっさり信じて……」

「自分もやってみようと思ったわけか」

「そうですね」


 その後も憲兵隊では、捕まえた男からその知り合いの男の情報を聞き出したりして、雇い主と思われる大柄の男は目下の所まだ捜索中との事だ。

 リューラの話では雇い主は個人ではなく、組織で雇った人間を使って盗みを働いているんじゃないかという事だ。

 いわゆる窃盗団てヤツだね。


「お金に困っている人間に甘い声をかけて犯罪をさせて、自分達は手を汚さない……許せない奴らです。私が絶対に捕まえてやります」


 リューラの目に強い光が灯る。彼女は昔から本当に正義感が強い。彼女にとって憲兵隊は天職なんだと思う。

 そんなふうに見ているとリューラが俺の視線に気付き、少し頬を赤らめる。


「ど、どうしたんですか? ラドウィンさん」

「いや、リューラは正義感が強いなと思ってね」

「そ、そうですか?」

「うん。やっぱり君には冒険者より憲兵隊が合っているよ。頼もしい」

「あ、ありがとうございます……」


 どうやらかなり彼女を照れさせたみたいだ。ちょっと話題を変えようか。


「何かいつもの制服姿と違って、だいぶ雰囲気が違うね」

「え? あ、あんまり私服では会ってないですもんね」

「そうだね。よく似合ってるよ」

「え゙!?」


 その瞬間、リューラの顔が燃え上がるように真っ赤になった。耳まで真っ赤っかだ。ヤバい。これはセクハラ発言だったか! どう訂正すれば……。


「あ、あ、あ、あの……、ラドウィンさん?」

「な、なんだい? リューラ?」

「あ、あの、今朝、表彰は要らないと、仰ってましたよね?」

「そ、そうだね」

「も、も、もし、良かったら、この後、わ、私がお礼にしょ、食事をご馳走する……というのだったらどうでしょうか……?」

「え? リューラが?」

「は、はい……」


 リューラが顔を真っ赤にしながら消え入りそうな声でそう言った。

 まあ表彰はイヤだけど、リューラと食事くらいなら。それにこっちに戻って来てからリューラとゆっくり話もしてないし、いいかも。


「いいよ。でも俺、クエスト帰りでこんな格好だけど……」

「い、いいです! 大丈夫です! どんな格好でもラドウィンさんは素敵……じゃなくて、ラドウィンさんですから!」

「ん……まあ、よく分からないけど、リューラが構わないんだったら」

「はい! 全然構いません!」

「お店はお任せでもいいのかな?」

「はい! いいお店知ってますよ! 私もよく行くお店なので、ラドウィンさんもぜひ通ってください」

「そうだね。リューラが言うんだったらいいお店なんだろうね。よし、じゃあ行こうか?」

「はい!」


 俺とリューラはギルドを出て、暗くなり始めた町へと繰り出して行った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

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