21.大捕物
掲載順を間違えてしまいました。
今は順番通りに戻してますm(_ _)m
ツァミをミッグス達のパーティーに加入させて、再び落ち着きを取り戻した俺の日常。
食事の時もツァミはだいぶ緊張していたみたいだけど、初めて話す同世代の子達はそんなツァミに合わせてくれて、楽しい時間を過ごせたようだった。
うん。良い若者達で良かったよ。
何か困った事に直面した時にはいつでも力になるから、と格好良い言葉を残して颯爽とお会計を済ませて、あの日の俺は帰っていった。
で、今はあの日から数日経った早朝。
まだ朝日もほとんど昇っていないので、窓の外は薄暗い。
人間は色々な肉体の変化で老いを感じる。動くとすぐに息が上がる、疲れが取れにくい、何もない所で躓く回数が増える……などなど。
その中の一つに朝早く目が覚めるというのがある。起きようと思っていた時間よりも早く目が覚める。
二度寝をしようとしても一瞬で脳が覚醒してしまい、なかなか寝付くことができない。そして観念して体を起こす。
今の俺の状態がまさしくそれだ。
年寄りの朝は早いというが、それにもう片足を突っ込んでしまったかと思うとちょっと切ない。
薄暗い窓の外を眺めてみるが、さすがにこの時間は町にほとんど人影はない。
少し迷った末……、
「ちょっと走るか……」
◇◇
ほとんど人通りのないイオアトスの町をひた走るおじさん。一応いかにも運動してますよ、走り込みしてますよ、という格好はしているが、不審者に間違われないか不安になりながら走り続ける。
この時間に町で見かけるのは青果店や市場に野菜などの食材を納品している業者やその関係者ぐらいだ。
あと大通りだと昨晩から飲んで酔いつぶれて朝を迎えた、酔っ払いが通りの端っこに転がっているぐらいか。
狭い路地は避けて、広い道を選んで走る。暗い路地裏とか走るとそれこそ不審者と間違えられると思ったからだ。
曲がり角を曲がった所で二人組の男が周りをキョロキョロと見回していた。憲兵だ。ヤバいなと思った時には既に声をかけられていた。
逃げると更に怪しまれると思ったので、二人の前で立ち止まる。
「すみません。トレーニング中ですか?」
「はい。ちょっと走り込みをしていまして……」
そう言いながら首にかけている冒険者の認識票を二人の憲兵に見せる。
なるほどと呟いたが、憲兵二人の目はまだ何か疑っているようだった。
「毎朝走られてるのですか?」
「いえ、たまたま早くに目が覚めたので……何かあったんですか?」
二人の憲兵が顔を見合わせた。一人がその質問に答える。
「この辺りで先ほど窃盗事件がありましてね。逃げた窃盗犯がこの辺りに潜伏しているようでして……」
「窃盗? こないだから続いているってヤツですか?」
「そうですそうです。何処かで怪しい奴を見ませんでしたか?」
「んー、怪しい奴ね……」
言葉こそ発しないが、二人の憲兵の目は俺が怪しいと訴えている。でも俺じゃないし、それに怪しい奴も見てないしな……。
「どうした?」
「あ、小隊長」
「ん? 小隊長?」
「あ、ラドウィンさん?」
二人の後ろから現れた女性憲兵。それはこないだベルアド武器店で再会したリューラだった。リューラが二人に指示を出す。
「この人は私の知り合いだ。問題ない。お前達は違う場所の捜索に行きなさい」
「了解しました」
二人の憲兵はリューラの指示を受けて、この場から立ち去っていった。リューラがそれを見送って俺の方に振り返る。
「ラドウィンさん。どうしたんですか? こんな朝早くから」
「ちょっと早く目が覚めちゃってね。それでトレーニングがてらちょっと走ろうかな、と」
「そうなんですね。出来た時間をすぐに鍛錬に当てられるなんて感服します」
「いや、そんな大層な事じゃないよ。それよりまた窃盗だって?」
にこやかだったリューラの顔が真剣な表情になる。
「はい。夜中に商店に忍び込んだ野盗がいたようで、家人が気付いて追い払い、近くを巡回中だった憲兵が追いかけたのですが……」
「この辺りで見失ったと」
「左様です。お恥ずかしい限りです」
「リューラが恥じる事じゃないよ」
「ま、まあそうなのですが……」
そうなると憲兵隊の人達は夜通し窃盗犯を追いかけていたという事だ。こんな時間まで仕事をしているなんて本当に頭が下がる。
「ラドウィンさん。まだ犯人も捕まっていませんので、さっきのように失礼があるかもしれません。申し訳ありませんが、今日はすぐにご帰宅していただいた方がいいかもしれません」
「そうだね。あんまりウロウロしていると君達の迷惑になるね。早く帰るとするよ」
「すみません」
「リューラが謝る事じゃないでしょ。で、まだ探すのかい?」
「まだ人通りはあまりありませんので。明るくなれば一旦引き上げようとは思っています」
「そう。あんまり無理しないようにね」
「ありがとうございます」
リューラが笑顔で頭を下げ、俺は宿へ向かう道に向き直る。だいぶ空が明るくなってきたな。少し体も疲れたし、宿に帰ったらもう一度寝れるかな?
そんな事を考えた瞬間、路地の方から男の悲鳴が上がった。
「うあっ!」
俺とリューラがそちらに目を向ける。暗い路地から声が聞こえる。
「斬られた! 被疑者逃亡!」
ピィー――!
路地の向こうで憲兵が斬られようだ。更に異常を示す笛の音が辺りに響く。
リューラがその路地を凝視している。
「止まれっ! そこで止まりなさい!」
リューラが剣を抜いて路地に向かって叫んだ。暗い路地から俺とリューラの方に向かって走ってくる男の姿が見えた。
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