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パーティーをリストラされたおじさん冒険者(46)は実は無自覚に最強でした〜そしておじさんなのに何故か無自覚にモテてしまいます〜  作者: 十目 イチ
第二章 おじさん冒険者、色々出会う

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18.公園帰り

 俺が選んだクエストはグレイケルビの駆除というクエストだ。グレイケルビとは魔獣というよりは害獣に近く、農作物を食い荒らす。

 今の時期山から下りてきたグレイケルビを駆除して欲しいと、近隣の村などからよく冒険者ギルドに依頼が来る。

 雑食性で性格は獰猛。人を見かけると追いかけて来るような好戦的な魔獣だ。

 体長は一、五メートルほどの鹿でそれほど大きくないが、大きな角の一撃をまともに食らえば大怪我することもある。


 今回は近くの村からの依頼で、農作物が被害に遭ったらしい。イオアトスを出た俺とツァミはその村へと向かった。


 ◇◇


 村に着いた俺達は被害に遭った畑を見させてもらって、畑の持ち主に話を聞く。話を聞いたのはほぼ俺だけど。

 いつも畑を荒らしているのは体中に傷跡があるグレイケルビで、我が物顔で畑に入って来るらしい。体格も他のグレイケルビより大きく二メートル近くあるらしい。

 どうやら山のヌシみたいなグレイケルビのようだ。畑の持ち主は老夫婦なので、罠を仕掛けるぐらいしか抵抗出来ず、ケルビが現れたら家の中で大人しく立ち去るのを見ていることしか出来ないらしい。

 いつも夕方から夜頃に現れるそうなので、俺とツァミはその時間まで待つことにする。


 ◇◇


 日もだいぶ傾きかけた頃、畑が見える小屋で待機する俺達。

 しばらく待っていると、畑に面した森の中からのっそりとグレイケルビが現れた。周りの様子を少し窺ってはいるが、全く足を止めずに本当に我が物顔で畑へ一直線に悠々と歩いていく。全身傷跡だらけのグレイケルビ……アレだな。

 人間を恐れている感じが全然しない。そのケルビは迷いなく畑の中へと入っていく。


「よし。じゃあ行くよ。ツァミ」

「こくり」


 俺とツァミが小屋から姿を見せると、畑に埋まった芋を漁っていたケルビの動きが止まる。そしてこちらに向かって顔を上げた。

 魔獣の表情は分からないけど、食事を邪魔されて明らかに不満げな雰囲気が漂っている。

 まだ俺達とは距離がある。


「ツァミ。ここから魔法は届きそうかい?」

「やってみる」


 ツァミが詠唱を始める。周囲の気温が冷ややかになるのを感じた。


氷槍(アイスジャベリン)!」


 樽のような氷の塊がツァミの手から放たれる。だから全然槍じゃないんだよな!


 氷塊はグレイケルビから右に大きく外れて畑の土にめり込んだ。魔法による先制攻撃は失敗。

 俺達から攻撃の意思を感じたグレイケルビが威嚇の声を上げて俺達の方へにじり寄る。


「ツァミ、もうちょっと近付いたら当てられるか?」

「やってみる」


 俺は強化魔法をかけ、ケルビの襲撃に備える。

 再びツァミの手から氷塊が放たれた。今度はケルビに向かっていったが、直前で失速して今度は手前の土にめり込んだ。

 それをきっかけにケルビがめり込んだ氷塊を飛び越え、俺達に向かって来る。

 

 俺がこのまま向かってくるケルビを斬って終わらせるのは簡単だ。間違いなく一撃で終わる。でも今回の俺の目的はツァミに魔法で仕留めさせて、彼女に自信を持たせる事。だから剣は使わない。そして絶対ツァミの魔法でケリをつけさせる。


「ツァミ! 俺が奴をぶん投げるから魔法でとどめを刺してくれ!」

「こくり」


 俺が地面を蹴ってグレイケルビに向かう。頭を下げて角を向けるケルビ。

 そのケルビの突進を正面で受け止める俺。がっちりと角を掴み、お互いに足を止めた。強化された今の俺は水牛すらも投げ飛ばせる! 食らえ! 鹿野郎!


「どっせ――い!」


 力任せにグレイケルビをぶん投げた。ケルビが勢い良く畑の上に転がった。


「今だ! ツァミ!」

氷槍(アイスジャベリン)!」


 さっきよりふた回り以上は大きな氷塊が地面を転がるケルビの頭上を通過していく。これでも当たらないのかよ!

 立ち上がったケルビが再び俺に向かって突進する。もう一回力比べか? 何度やっても同じだよ!

 またケルビの角をがっちりと掴むと、投げずにその体勢を維持する。


「ツァミ! 俺が抑える! もう一回!」

氷槍(アイスジャベリン)――っ!」


 さらにデカい氷塊がケルビと俺に向かって来る。よしっ! 今度は当たりそう……だけどっ! デカ過ぎて俺にも当たるわっ!


 飛んでくる氷塊を避けるように俺は後ろへ跳んだ。ケルビの側面にバカでかい氷塊がぶち当たる。そしてそのまま氷塊の重さに潰されるように氷塊とケルビが畑にめり込んだ。

 しばらくして氷塊が消え失せると、氷塊に潰されたグレイケルビが力無く倒れ込んでいた。


「ツァミ。もう一発」

「こくり」


 ツァミがとどめの氷塊をケルビの上から落とす。もう槍じゃなくて氷の樽落としだよ、これじゃあ。

 なんて不細工な魔法の使い方だよ。

 潰れたケルビが動かなくなったのを確認してケルビの角を斬り落とした。

 これで討伐完了。

 振り返るとツァミがへなへなと地面に座り込んだ。


「……おじたん、疲れた」


 そりゃあれだけデカい氷を次々と撃ったら疲れるでしょうよ。てか、アイアンランクの魔術師ってこんなにポンポン攻撃魔法撃てないよ、普通。


「おじたん、おんぶ」

「立てない?」

「こくり」


 立てないと言われたんだから仕方ない。ツァミをおんぶして家主の所に討伐の報告をする。家主はケルビが駆除されて大層喜んでくれたが、俺の表情は冴えない。


 おんぶされたツァミは自分で倒せたのが嬉しかったのか、疲れているようだけど顔はニコニコしている。


 うーん……魔力は充分にある。アイアンランクにしては驚異的な魔力量だと思う。けど、出る氷塊の大きさはバラバラだしコントロールも悪い。

 俺は攻撃魔法に関しては素人だからどう教えていいか分からない。

 何か対策を考えないと。


 

 村を後にしてイオアトスへ向かう。まだ俺におんぶされたままのツァミは嬉しそうに俺に話しかける。


「ツァミ、魔獣、倒せたよ」

「そうだね。でも次はもっと格好良く倒そうか」

「格好良く?」

「そう。格好良く」

「次もおじたん、一緒にクエスト、受けてくれるの?」


 しまった……つい流れで次とか言ってしまった。でもこのままじゃツァミが心配なのは確かだ。仕方ない……自分に言い聞かせる。


「そうだね。次も付き合うから練習しよっか?」

「こくりこくり。ツァミ、練習する」


 ツァミは嬉しそうに微笑んで、しばらくすると俺におんぶされたまま寝てしまった。

 周りから見たらクエスト帰りの冒険者じゃなくて、遊び疲れた娘と帰る公園帰りの父娘(おやこ)にしか見えねえよな……。 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

この話で第二章が終了になります!

今後もよろしくお願いします!

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