106.議会貴族と騎兵師団
応接室を出て外へと向かう途中、ミザネアから声をかけられる。
「ラドさん。ちょっと……」
「ん?」
皆から少し離れてミザネアの方へ近付く。
「あのレヴィアラって、どんな知り合い?」
「ああ……、たまたまクエスト中に知り合ってね」
やっぱり聞いてきたか。リューラと同じく本当の事は言えないので、とりあえず誤魔化してみる。
「ふぅ〜ん。サリーデから帰って来てから?」
「ああ。魔晶石拾いのクエストの最中にね。迷宮でたまたま……ね」
「ふぅ〜ん……」
ジト目が細くなってます、ミザネア。完全に何か疑ってるよね、その目は。
その俺達の会話に気付いたレヴィアラが振り返って、俺達に近寄る。
「どうしたの?」
「いや、俺とレヴィアラが何処で知り合ったか聞かれていただけだ」
「あ〜〜、……ふふっ」
レヴィアラが俺とミザネアの顔を交互に見ながらニヤリと口角を上げる。時折見せるレヴィアラの病的な印象を与えるあの笑みだ。
「ワタシが変なスライムに襲われていた時に助けてくれたの、ラドウィンが」
「そうなんだ」
「例の魔力龍脈の乱れで巨大化したスライムだとネルアリアは言ってたけどね」
「そういえばそんな報告があったって聞いてたわね。あれってラドさん達だったの?」
「そう。そこで知り合ったんだ」
ミザネアのジト目が少し緩くなった。すると前を歩くネルアリアがミザネアを呼んだ。俺達から離れてネルアリアの方へ行くミザネア。
ミザネアが十分離れてから、とてもとても小さな声で、レヴィアラが俺に聞いてくる。
「ラドウィン、あの娘とはヤッ……」
「何もやってない!」
「……答えるの早いなぁ」
「たぶん聞いてくる気がしてた」
「でも狙ってる?」
「狙ってない!」
「ふふ……そうなんだ」
ニッコリと笑みを浮かべるレヴィアラ。
まだリューラの時みたいに誰かの前で聞かれるよりはマシか。
こうしている間に俺達は屋敷を出て、表に停まる馬車の側までやって来た。
俺達五人は馬車へと乗り込んで行った。広い馬車の中は十分な広さがあり、五人が座っても全然スペースに余裕があった。
これからこの馬車は約三日間かけて王都へ向かう。
もちろん野営や野宿はなし。全て宿場町で夜を過ごす。ネルアリアは変人だけどお金持ちなので。
馬車の中で皆の顔を見渡す。
ネルアリア、リューラ、ミザネア、レヴィアラ……また全員女かよ……。
重くなる俺の気持ちなどお構いなしで、豪華な馬車は王都へ向けて出発した。
◇◇◇◇◇
イオアトスを出て三日目。
俺にとって数ヶ月振りの王都が見えてきた。
広い馬車にも関わらず、美人揃いの空間で窮屈な思いをしたこの馬車の旅も一旦終わりだ。帰りは自腹でもいいから一人で帰ることにしようと強く誓った。
馬車は王都に入り、町の中央に向かって走る。目的地はネルアリアの知り合いの貴族の家だと聞いている。
もう今更ネルアリアに貴族の知り合いがいても何の驚きも感じないな。
大きな屋敷が並ぶ高級区画。その中にその貴族の屋敷はあった。
到着してすぐに俺達は広間に集まった。
全員がソファへ腰掛けていると、その広間に一人の男が現れた。
口髭を蓄えた五十ぐらいのイケオジだ。その理知的な視線と雰囲気は高貴さを感じさせる。
「ヴァナオル=フォーライアです。皆さん、遠路はるばるよくいらっしゃいました」
「ふむ、世話になるぞ。ヴァナぼ……ヴァナオル」
「ええ。短い間ですが、ゆっくり寛いでください」
ヴァナオルが現れて背筋が伸びていたミザネアとリューラが立ち上がり、お辞儀する。俺とレヴィアラが呆気に取られていると、ヴァナオルが優しい声で、立った二人に声をかける。
「そんなに固くならないでください」
「いえ、そういうわけには……」
「いいんですよ。お座りになって楽にしてください、お二人とも」
そんなに凄い貴族なのか? いや、待てよ。たしかフォーライアっていえば……聞いた事があるような気がする……。
「王政議会の議会委員であるヴァナオル卿にお招きいただけるなど、至極光栄の至りでございます」
「そんなに大袈裟じゃないですよ、ミザネアさん。どうぞ楽にしてください」
「そうじゃぞ、ミザネア。そんなに固くなってはこの先が持たんぞ?」
「すいません。では失礼して……」
そう言ってミザネアとリューラが再びソファに腰掛ける。
思い出した。
ヴァナオル=フォーライア。
王政議会はログロンド王国の貴族だけで構成されていて、王族と王国内のほんの一部の貴族が国政を行っている。
その議会に参加出来る貴族は、貴族の中でも高位の爵位がある貴族だけに限られており、王政に参加している貴族は国民の間では議会貴族と呼ばれている。
その議会貴族の中でも代々、議会委員を長く務める由緒正しい貴族の一つがフォーライア家。
そのフォーライア家の次男がこの目の前にいるヴァナオルだ。長男はたしか……ガルゼルフとか言ったっけな?
政治に全く興味のない俺でも知っている貴族の名だ。ミザネアとリューラが背筋を伸ばして挨拶するのも当然だ。
というか、この歳にもなってこういう事に疎い俺が失礼なだけか。
でもそんな貴族相手に平然と話すネルアリアって一体何者? レヴィアラ以外がそんな目でネルアリアを見ているが、そんな皆の視線はお構いなしでネルアリアが続ける。
「で、ヴァナオルよ。手筈の方は万事万端か?」
「ええ、問題ありません。これから私も彼らと合流してからバーランの屋敷に向かう予定です」
「お主は別に来んでもよいじゃろ?」
「そういうわけにはいきません、姉う…いえ、ネルアリアさん」
「そうか。では時間に変更は無しじゃ。よろしく頼むぞ」
「ええ。ネルアリアさんもお気をつけて」
ヴァナオルはそう言い残すと、広間から出て行った。
「えっと、ネルアリアさん。一つ聞いて良いですか?」
「何じゃ? リューラ」
「ヴァナオルさんは誰と合流するんですか?」
テーブルの紅茶を一口飲んで、ネルアリアが応える。
「王都の騎兵師団じゃ。十数人ほど来る予定じゃ」
マジか……こいつは騎兵師団も動かす事が出来んのかよ……。
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作者がそれを見てニタニタ笑って喜ぶと思います。




