101.とりあえず聞いてくる元殺し屋
ネルアリアの屋敷の応接室に通され、向かい側のソファに座ったネルアリアが口を開く。
「さて、依頼する仕事の内容じゃが……」
「ああ」
「突撃じゃ」
「またかよ」
「じゃあ、襲撃にするか?」
「どっちでも変わらねえよ」
ギルドで話を聞いた時から今回の件の犯人の所に乗り込むんだろうとは思っていたけど、もうちょっとスマートなやり方をしようとは思わないのか?
「突撃先は王都の貴族邸宅じゃ」
「は? 貴族? 何で貴族?」
「その貴族が今回の魔力龍脈の乱れの原因を引き起こした首謀者じゃからの」
貴族が魔力龍脈の乱れを起こした首謀者? で、その貴族邸宅に突撃?
それでもし間違いだったら確実に重罪……いや、死刑確定だろ。
「ネルアリア。それは確実な情報なのか?」
「間違いない。ウラも取れておる」
「お前がそこまで言うんなら……」
たぶん間違いないんだろう。
けど前回は盗賊団相手で憲兵隊を動員したけど、今回は憲兵に頼らないって言ってたな。それで大丈夫なのか?
「さっきギルドで憲兵隊には頼らないって言ってたな? その突撃って戦闘は想定していないのか?」
「現地に協力者がおる。しっかり身辺調査をして、信頼出来る奴らだけじゃ」
「なるほど……それだけ?」
「ラドウィン。憲兵隊には貴族の息がかかっている者が多いんじゃよ。それが憲兵隊に頼らん理由じゃ。それにお主はその貴族の邸宅にも盗賊団のような輩がたむろしているとでも思っているのか?」
「いや、さすがにそこまでは。ただ護衛や警護の人間ぐらいはいるだろ?」
ネルアリアがテーブルの紅茶に手を伸ばす。一口、口へ運ぶと、
「そうじゃ。じゃが今回はあくまで穏便に話をして、首謀者の説得を試みるつもりじゃ」
「では戦闘ではなく話し合いで相手を説き伏せて捕まえる、ということか?」
「その為に証拠集めに時間をかけておるのじゃ」
「それじゃ、俺は要らないんじゃない?」
「妾にも護衛ぐらいは要るのでな。相手がどう抵抗するかも分からんからの」
上手く断ろうとしたが、駄目だったか。けど今回のネルアリアは証拠を突きつけて、犯人を観念させた上で捕まえようとしている。
俺への依頼は、万が一戦闘になった場合の備えというわけだ。
その上で、ネルアリアに尋ねてみる。
「で、戦闘にならずに捕まえられそうなのか?」
「そこまでは分からん。じゃが無駄な抵抗をするような奴でもないらしいからな。証拠を突きつければすぐに観念するじゃろう」
ちょっと考えがネルアリアにしては楽天的な気がするが。
とりあえず依頼内容は分かった。となると次は報酬だ。
ネルアリアもすぐに察して懐から一枚の紙を出してテーブルに置く。その紙には”依頼書”と書かれ、内容と報酬額が記されていた。
報酬額は百万。しかも犯人を捕らえた場合の成功報酬は五十万。クリスタルランククエスト並の報酬額だ。
その依頼書を見て、ネルアリアの方に視線を上げる。
小ぶりな胸を張ってドヤ顔を決めているネルアリア。
「足りんか? ラドウィン?」
「いや、報酬は充分だけどよ……」
「何か気になるのか?」
「前に言ってたダイラーの後ろにいる奴らは古代魔術を蘇らせようとしてるとか言ってたな? それが今回の貴族?」
「そういうことじゃ。よく覚えとったの」
ネルアリアがどういう風に持っていくのか分からないが、そんな連中相手に大人しく話し合いでケリが着くんだろうか?
「突撃は一週間後じゃ。邸宅を離れる事が多い奴じゃが、一週間後は確実に邸宅にいるように仕向けておる。妾達はその日を狙って突撃する。ところで……」
ネルアリアが俺の隣で静かに話を聞いていたレヴィアラに目を向ける。
「お主はどうする?」
「もちろんラドウィンに付いていく」
「お、おい。俺はまだ受けるとは言ってねえよ」
「そうなの? あ、でももしラドウィンが受けたとしてもワタシには報酬いらないからね。ワタシはラドウィンに付いていくだけだから」
「お主は傍観するというわけか?」
「ラドウィンが戦えって言ったら戦うよ?」
当たり前のように答えるレヴィアラ。……何故俺にそんな命令権が与えられたのかは分からない。
まあ、今回の仕事に関してはわざわざ王都にまで行ってややこしい仕事に首を突っ込む事もないだろう。今回はキッパリと断る事にする。
「ネルアリア。今回は……」
「ちなみにラドウィン。あの憲兵の小娘、リューラは協力するぞ。妾と一緒に王都へ行く予定じゃ」
「リューラが?」
「うむ。憲兵隊舎で顔を合わす度にうるさくてな。犯人は見つかったかと、毎回聞いてきてかなわんのじゃ。リューラは自分の手で捕まえたいそうじゃ」
リューラ……とりあえず元気になって良かったけど……彼女の性格だったら、自分で捕まえに行くと言い出すのは当然か。でもちょっと心配だな……。
立ち直ったとはいえ、こないだは結構ボロボロにへこんでいたからな。大丈夫だろうか?
いやらしい笑顔を浮かべたネルアリアが俺の表情を窺う。
「心配なら来れば良いじゃろう?」
リューラをエサにしてきたか。確かにちょっと心配ではあるが……リューラも大人だ。もう大丈夫だろう。けどリューラに今回の件でハッパをかけたのは俺だし……。
悩む俺にネルアリアが楽しむように声をかける。
「ラドウィン。出発は明後日じゃ。それまでに決めれば良い」
「ああ。そうだな……そうさせてもらうよ」
結局断り切れなかった……。
レヴィアラがジト目で俺の顔を覗き込む。
「ねえ、ラドウィン。リューラって?」
「ああ。憲兵をしている知り合いだ」
「知り合い?」
「元冒険者で数年前からの知り合いだ」
「ふぅん」
納得したように頷いたレヴィアラ。
俺とリューラの関係を気にしたのか。ま、知り合いってのはウソじゃないし、リューラ自身は一番弟子とか言ってるけど、今はそこまで言う必要はないだろう。
「ねえ、ラドウィン」
「何だ?」
「そのリューラって女とはヤッた?」
ぶ――っ! 何言ってやがる、この女!
吹き出す俺を見て、豪快に笑うネルアリア。
「あっはっはっは…………面白い娘じゃな、お主」
「やってねーよ! ただの知り合いだ! まったく……」
「いや、ワタシは別にラドウィンが誰とヤッてもいいんだけど、ちょっと気になっただけだから」
やはりちょっと特殊だ、この女。
羞恥心とデリカシーがなさ過ぎる……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
レヴィアラはただ純粋にラドウィンの全てを知りたいと思っているだけなのです。




