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1.リストラされたおじさん冒険者(46)

 この小説に興味を持って見ていただいたアナタ!ありがとうございます!

 是非このまま第一話、最後までご一読ください!

 広い冒険者ギルドのレストランにパーティーのメンバーが顔を揃えた。

 長身で精悍な顔つきの双剣使いのカッシュ、スレンダー天才魔術師少女?のロゼッタ(23)、サラサラ金髪ヘアーのイケメン剣士でこのパーティーのリーダー、ベンゼル。

 そして…しがないおじさん冒険者の俺、剣士のラドウィン(46)が同じテーブルについた。

 更にこの四人の他にベンゼルの後ろに褐色の肌をした体の大きな若い男が控えている。

 全員が揃ったところでベンゼルが重そうに口を開く。


「ラドさん、パーティー抜けてくれるか?」


 うん。そんな気がした。ベンゼルの後ろに控えているのは俺の代わりに入るメンバーだろう。

 ガタイがいいし、多分タンク役になるんだろうな。俺はタンクってタイプじゃないし、このパーティーに必要な妥当な人選だな。


 ベンゼル達のパーティーに加入して早五年。

 駆け出しだった彼らももう俺と同じミスリルランクだ。彼らがシルバーランクぐらいになったら抜けようと思ってたのにズルズルと五年もパーティーにいてしまった。

 俺から抜けると言ってやるべきだったのに、ベンゼルには悪いことをしたな。


「うん。分かったよ。で、彼が俺の後任かい?」

「ああ。アルビーだ」

「ちわっす。アルビーっす」


 ベンゼルに紹介された大きな体のアルビーが直立したまま俺に頭を下げる。


「ラドウィンだ。といっても今日でパーティーを抜けるけど……よろしく。いい体してるね。ランクは?」

「シルバーランクっす」

「そうか。じゃあ頑張ってね、アルビー」


 褐色の肌のアルビーが白い歯を見せてニカッと笑った。なかなかいい感じの青年だ。よく見つけてきたな。


「さて……じゃあ、このまま皆でミーティングするんだろ? 俺は帰るね、ベンゼル」

「ああ。すまな……」

「謝るなよ、ベンゼル。リーダーとして当然の判断だ。そろそろ身の引き時かなと思ってたとこだから」


 謝ろうとするベンゼルを遮って言葉を重ねる。ベンゼルの隣で静かに聞いていたロゼッタがその会話に割り込む。


「ラドおじ! えと…今までありがとね」

「ああ。こちらこそありがとう。楽しかったよ」


 テーブルを立ち上がり、カッシュの方に目を向けると、彼はチラリと俺に目を向けてすぐに目を逸らした。目を合わさないまま、俺に向かってぶっきらぼうに言葉を放つ。


「じゃあな、ラドさん」

「ああ。カッシュも元気でな」

 

 まあ、彼らはこういうのに慣れてないからな。あんまりしんみりされても立ち去り辛いので精一杯の笑顔を見せる。


「しんみりするなよ。大丈夫。俺は色々とパーティーを渡り歩いてきて、こういうのは慣れてんだからさ。ま、休みをもらったと思ってゆっくりしたら、また一人でのんびりクエスト受けるからさ」

「ああ。そう……」


 バツが悪そうにベンゼルが答える。根が優しくて真面目な彼のことだ。俺をパーティーから抜けさせるのをかなり迷ったんだろう。でも、自分達が更に上に行くには必要なことだと、カッシュとロゼッタを説得したんだろうというのが容易に想像出来る。


 俺が彼らの負担になってはいけない。

 神妙な顔をする三人にもう一度笑顔を見せると、


「お互い生きていればまた何処かで会えるさ。それに君達がクリスタルランクになったら自慢しなきゃいけないしな。”俺があいつらを育てたんだぜ”ってね。だから頑張ってくれよ、三人……とアルビー君も」

「ははは、もちろんそのつもりだ」

「育てたって……まあ、そういう事にしといてやるよ、おっさん」

「うん! 楽しみにしててね、ラドおじ」

「楽しみにしてるよ。じゃあ、みんな達者で!」


 ベンゼルは無理やり作った笑顔を見せ、カッシュはそっぽを向きながら指を立てる。ロゼッタは笑顔で手を振ってくれた。アルビーは戸惑いながらも小さく頭を下げる。

 四人に見送られて俺はテーブルから立ち去った。


 さて、なんとなく予感はしてたからそんなに驚きはなかったけど、いざ抜けるとなると寂しくなるな。

 五年も一緒にいたんだから当然といえば当然か……。


 駆け出しのアイアンクラスだった彼らからパーティーに入って欲しいと言われて、かなり驚いたのを思い出す。当時の俺のランクはプラチナ。


 冒険者のランクは下からアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、クリスタルとなっている。

 つまり彼らとは四つもランクが違っていた。通常パーティーは同じぐらいのランク同士の人間が組むのが一般的だ。

 更に俺と彼らとは二十歳以上も歳が離れていた。そんなおじさんに彼らは何故か声をかけてきた。

 だいぶ前にベンゼルに何故俺に声をかけてきたのか聞いてみたことがあったけど、彼の答えは声をかけやすそうだったから、と返ってきた。

 まあ、冒険者のほとんどはギラギラして強面の人が多いけど、ちょっと安直過ぎないかと、当時は思ったものだ。

 まあ駆け出しの彼らのが冒険に慣れるぐらいまでなら……と簡単に引き受けたわけだけど。


 まだ駆け出しだった彼らは荒削りだったし、冒険をする知識も全然なかったけど、三人とも真面目で努力家で、それで才能があった。俺のアドバイスは素直に聞いてくれるし、疑問に思ったことはすぐに聞いてくる。何より上に上がりたいっていう向上心が本当に強かった。

 どんどん強くなる彼らを見ているのが楽しくなって、いつの間にか五年も過ぎていたって感じだ。

 その五年の間に俺はランクを一つ上げてミスリルランクに。そして彼ら三人は先日、俺と同じミスリルランクに昇格した。

 五年でミスリルランクまで到達するのは異例の早さだ。けど彼らはそれで満足していない。更にもう一つ上、最上位のクリスタルランクが残っている。

 ランクが追いつかれたことで、もうそろそろかなと思っていた。

 彼らの足手まといにはなりたくない。もう伸びしろがない俺は自らパーティーを抜ける、と言うべきだったんだが……。

 結局ベンゼルにその嫌な役回りをさせてしまった。

 本音を言うと彼らがクリスタルランクに上がるのを側で見てみたかったが、それは流石に我が儘だろう。

 これからはパーティーの仲間じゃなくて、(いち)冒険者として彼らの成長と活躍を見守ることにしよう。

 俺にとって彼らと過ごした五年は楽しかった。彼らにとってもかけがいのない五年だったと思ってくれたら、俺は大満足だ。

 彼らは数年のうちにクリスタルランクへと駆け上がるだろう。それまでは俺ももう少し冒険者として頑張ってみるか。

 まあ、俺は絶対にクリスタルランクに上がれることはないけどね。


 とりあえずこの王都は離れよう。前々からベンゼル達のパーティーを抜けたらこの王都からイオアトスに拠点を戻そうと思っていたし。

 イオアトスだったら、彼らがクリスタルランクになったという情報も耳に入ってくるはずだ。

 もしそうなったらお祝いしに王都に戻って来ようかな。

 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 テーブルの一点を見つめていたベンゼルが大きくため息をついた。そして視線をテーブルを囲む他の三人に向ける。

 重い空気の中、ベンゼルが口を開く。


「これで良かったんだよな?」

「ああ」

「うん。寂しいけど……仕方ないよね」


 カッシュとロゼッタが静かに応えた。

 場の空気に耐えきれなくなったのか、視線をキョロキョロと動かしながらアルビーが努めて明るい声で話し出す。


「だ、大丈夫っすよ! 俺が加入するんすから! よろしく頼みますよ!」

「ああ、頼りにしてるよ。アルビー」

「声、デカいな……」

「てか、ホントに私達より歳下?」

「う……ヒドい。たしかに老け顔ですけど……」


 やっと少し表情が緩んだベンゼルが顔を上げる。


「まあ、これから俺達はクリスタルランクを目指すんだ。ラドさんが居なくなったから弱くなったなんて言われないようにしないとな」

「ああ。そうだな」

「うん。そうだね」


 アルビーがぐっと胸を張って自分の胸を叩いた。


「大丈夫っす! あんなおっさんなんかより俺の方が千倍ベンゼルさん達の役に立つっすから!」


 三人の鋭い視線がアルビーに向けられた。カッシュが隣から凄い早さでアルビーの首に腕を巻き付け、アルビーの顔を自分の顔にぐっと近づける。


「おい、調子に乗るなよ? お前なんかが千回戦ったってラドさんには勝てねえからな? ラドさんは弱いから俺達のパーティーを抜けてもらったんじゃねえからな。そこんとこ勘違いするじゃねえ」

「う……、あ、はい……」


 ドスの効いたカッシュの言葉にアルビーが思わず息を飲む。すがるようにロゼッタに目を向けるが、


「気を付けなよ? ベンゼルもカッシュもラドおじに育ててもらってて、今だに熱心な信者だからね。ラドおじの文句言ったらボコボコにされるよ?」

「誰がおっさんの信者だよ」

「あはは、でも育ててもらったのはホントでしょ?」


 カッシュがアルビーから手を離し、ぷいっと外を向いた。どうやら図星だったようだ。そのやり取りを見てベンゼルが言葉を続ける。


「まあ、信者かどうかはともかく冒険者として育ててもらって感謝している。それはロゼッタも同じだろ?」

「もちろん」

「なら早く()()()()()クリスタルランクになって恩返ししないとな」


 ロゼッタが笑顔で大きく頷き、カッシュは外を向きながら無言で小さく頷いた。それを見てベンゼルが薄く微笑むと、アルビーに目を向ける。


「というわけだ、アルビー。だから早速ビシバシ鍛えて、さっさとミスリルランクまできてもらうからな。覚悟しろよ」

「う、うっす! 頑張るっす!」


 長身のアルビーが背筋を正して、緊張した面持ちで答えたのだった。

第一話、お読みいただきありがとうございます!

これから毎日投稿していく予定ですので、よろしければお付き合いください。

楽しくなるような作品にしたいと思っています。皆さんのブックマークや評価が何よりの励みになります。

是非よろしくお願いします!

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