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7話:エピローグ

『きて⋯⋯起きてください⋯⋯』

「⋯ん⋯マイニーあとごふん⋯」


『起きてください⋯⋯ヒーローたちよ⋯⋯』

「⋯⋯シル⋯⋯ヒーローごっこなんてそろそろ卒業しないとロクな大人に⋯」



『⋯⋯違いますシルビアです! 起きてくださいヒーローの皆様!」



 はっ――と二人が目を覚ますと同時、


「おにぃーーちゃーーーん朝だよーーーーーっ!」

「――むがッ?」


 二人の間でヒョンが息を詰まらせた。それは街の光が消えた、柔らかな日光に照らされる大地でのことだった。


「ぼくら、寝ちゃってた?」

「はい。お三方とも糸が切れたように眠っていらしたので⋯⋯私と産婆さんたちで毛布だけかけさせていただきました」


 微笑むシルビアの後ろから、メルクが顔を出す。


「ありがとうございます。おかげさまで⋯⋯お義父さんの石像は無事、シルビアの元に連れ帰すことができました」


 メルクがススにまみれたそれを見ながら言った。


「おお! シルファンのオッサン! よかったな、ちょっと焦げちまってそうだけどよ!」


 髪の毛も3本あるし!と、ヒョンが肩にメルルを乗せて揺らしながら破顔した。


「はい。 しかし、その⋯」

「――こんな天気のいい日なんだもんメルクさん!」


 生まれて初めての朝がそんな顔じゃ太陽も困っ⋯⋯って太陽あるのかなこの世界⁉︎とシルは顔を左右に動かすと、


「オッサンイタクナーイの実はなかったんだっ」

「⋯⋯はい」


 かわりに、これが、とメルクが何かを乗せた手のひらをさしだした。


「草?」「んお? でもよ、この形」「ヴィジョンで見たオッサンイタクナーイを反転したような⋯」


 それは満月を曲線を描くように割ったような形の草。


「これが、お義父さんの⋯⋯石像の靴底についていたのです」


 メルクは心底悔しそうに歯噛むと、「アイバンパに襲われたとき、お義父さんはきっとハンゲツソウを見つけていたのでしょう。ヤツの手に渡るくらいならと⋯⋯踏み砕こうとしたのではないかと」


 ハンゲツ草とハンゲツの実は近くになるらしい。シルファンが命の瀬戸際、せめて片方を処分しようと判断したとしてもおかしくはない。ただ、近くになるということは。


 ハンゲツの実はもうすでに、樹海の火の海に⋯。


「恩知らずな我々が言える言葉があるとすれば⋯⋯ありがとうございます、で⋯⋯いいのだろうか⋯」


 メルクの後ろで、悔しげに泣きながら頭を下げる街のみんな。


「おにーちゃん⋯⋯おうち、かえれないの?」

「んん、まあ、そーかもな」


 涙をいっぱいに溜めたメルルに、ヒョンが頬をかいた。


「ま、まあ、でもさ! シルファンさんが無事でよかったじゃん! ぼくらのほうはこっから考えるとして⋯⋯まずはシルビアさん!


 ちゃんと、シルファンさんに顔を見せてあげないとだよー!」


「いえ、私だけ、そんな」

「いいのよ。 待ちわびた親子の再会だもの。 それくらいのご褒美でもなけりゃ頑張ったかいがないわ」


 遠慮しないで、とマイニーがシルビアの背中をそっと押す。


「⋯⋯⋯お父さん――」


 ずっと、シルビアが目を逸らしていることに三人は気づいていた。たぶんきっと、その石像がこの街に戻ってきてからずっとだ。自分だけが、喜びを受け取るわけにはいかないと。

 

「――おかえりなさい」

 

 魔法陣が三人の足元に浮かんだのは、ススで汚れたその胸にシルビアが顔を預けたときだった。


「――ええ! どーゆことッ! オッサンイタクナーイの実はなかったんだよね⁉︎」

「同じ効力を持つハンゲウソウでもミッションクリア条件に達した⋯いえ、そんな都合のいいことが起こるわけないわよね」


 困惑する三人のカラダから、ブロック状の光がこぼれ落ちるなか、


「まっよくわかんねーけど、ばんばんざいでいいじゃねえか」


 反射的に肩からメルルをおろしたヒョンが笑う。

 街のみんなが声をあげた。メルクが深々と頭を下げる。シルビアが涙をぬぐって笑った。


「おにいちゃん!」メルルが声を大きくした。

「おにーちゃん、あの、えーっと⋯⋯⋯⋯⋯!


 ⋯⋯! よかったねっ!」


「おうっ!」


 さらさらとした髪のスキマで、カザグルマがからからと回る。


「また、会える?」

「言ったろメルル、オレたちはお前の願いを叶えるために来たヒーローだぜ?


 またな」


「⋯⋯⋯⋯⋯うんっ!」


 そのとき、三人の視界が薄暗い地下迷宮に戻った。



 *



「あんな約束してよかったの?」

「せっかく汚名返上したのに〜〜。また嘘ついちゃったじゃん」

「嘘じゃねえよ、一回行けたんだぜ? また行けんだろっ」



「――よく戻った。 三人とも。おかえりだ」



 マイニーとシルが頬をかくヒョンにニマニマしていると、見覚えのあるヒゲが正面に立った。


「おお、そりまちさん」「出たわね暗黒皇帝」「なんとゆーか、久々に見た気がするわ」


「おう。 つってもまーワシからすれば10分くらいしかたってないんだがな」


「10分?」「バカだなシル、あっちの三日がこっちの一ヶ月で⋯ん?」「時間の流れ無茶苦茶じゃないの」

 

 困惑する三人。


「言ったろ、ここは魂の迷宮、何が起こっても不思議じゃないってな。 それよりよく帰って来れたな、ワシは正直無理かと思ったぞ」


「いやそのあたりはオレらもよくわかってねーんだよ」

「オッサンイタクナーイの実は結局見つからなかったわ」

「そうなんだよね〜〜」


 頭をかく三人。柔らかい肌や髪の毛の感触が懐かしいが。


「そう、それだ。お前らが行ったあと、シルファンさんが記憶を戻してな」

「はい。真紅の瞳を見る直前、わたくしはその実を見つけ、フトコロにしまっていたのです」


「⋯⋯どーゆこと?」


「オッサンイタクナーイの実はわたくしの胸元にありました」


 そして、同時に見つけたハンゲツソウを靴裏に隠しました、とシルファン。


「⋯⋯てことは、シルビアさんがシルファンさんの石像に触れたとき」

「“オッサンイタクナーイの実”はそこにあったと」

「そしておそらく、ハンゲツ草が石化していなかったように、同じ効力を持つハンゲツの実もまた⋯⋯」


 ⋯⋯じゃあ、あのときシルファンさんが大剣を手放していたのは、実を隠すため――、


「だな、マイニー。 シルファンさんの願いはあくまで実を娘のもとに届けること。 石像からの解放ではないからな」


 上出来だよくやった、とそりまちさんは手を叩くが。


「そりゃあ、オレらはよかったけどよぉ」

「なんというか、ものすごく後味悪いね」

「あっちの世界じゃいま、シルビアさん夫婦の手元にはメイゲツを作る二つの材料が⋯⋯⋯シルファンさんの生命力を戻す薬が、そろってるんだものね」


 石像の一部を⋯服をはがしさえすれば⋯⋯。「やりきれねえ」「やりきれないね」「やりきれないわね」

 

「いいえ、気にしないでくだせぇ。 アイバンパが消え、世界は運命に逆らった。いや、きっと平和になる運命だったんだ。そしてオレの体は娘たちとともにある。 もう、じゅーぶんです」


 シルファンのシルビアに似た響きの言葉が、三人の胸をえぐる。


「⋯⋯⋯というわけでだ。 まずはひとつめの【魂のカケラの吸収】を祝いたいと思うのだが――」


 と、気を取りなおすようにもう一度手を打つそりまちさんに、


「野暮ね」

「野暮っつーか空気読めねえつーか」

「ぼくをこえる野暮だね」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯そこでプレゼントを用意した」


 荒ぶる三人の足元に魔法陣が浮かんだのは、「もっかい行ってくるか?」そりまちさんが悪どい笑みを浮かべたときだった。



「――ありかよ⁉︎ちゃぶ台返しじゃねえか!」

「とゆーかそれなら最初からそりまちさんが来てくれてたら!」


「たしかに『この魔法陣はワシのよく知るモノだ』って出発するとき言ってたわね」



 マイニーが痛そうにこめかみに指先をあてる。


「ヒョン、ワシは運命だのなんだのが嫌いでな。そしてシル、勘違いするな。ワシがお前たちのミッションに直接関与することは絶対にない。が、頑張った子供にはご褒美をやるのが大人の役割だろ?


 とゆーことでお前ら、もっかい行ってこいッ!」


 おいおいおいどのツラさげてメルルに会えばいいんだよーーーーーーとヒョンの断末魔を残して、三人の魂が魔法陣に吸い込まれた。


「まっ、それに今回は気合いがいったようだが、そうこむずかしいミッションばかりではないだろう⋯⋯って聞こえてないか」


 そりまちさんが呟いたとき、シルファンの魂がしゅんっとどこかに飛んだ。



*エピローグ*


「うう⋯⋯どのツラさげてもっかい話せって⋯」

「まあでもよかったじゃない? 嘘つきにならなくてすむわよ?」

「だねっ。 それにヒョンがもっかい来れるだろって言っちゃったんだし」


 源光の街の中央。小さな石碑の置かれたそこで、サングラスを頭にかけた石像が三つ。


「⋯⋯この感じ、時間はそれほど経ってないと思うけど⋯」

「この感じ、オレらの石像(・・・・・・)ってよぉ」

「ええ。石碑の横に立てられたみたいね」


 その石像はまだ新しく、ゴツゴツしくも三人の青 年 姿(この世界での器)にそっくりだった。


 そして視界には、街の人々が地面に座って酒を酌み交わす姿。見覚えのよくある三人の男性、その横でお腹をさするシルビアとメルク。

 指の一つでも動かせば、バレる。


 ――いや、このままジッとしているわけにもいかないのだが――。

 

「あれれっ?」


 そのとき、視界をさえぎる光がなくなったその空間を歩いてくる少女が、ふしぎそーに頬をゆるめた。


 その手に持った三本のそれが、カラカラと回る。


「⋯⋯また、誰かのお願いをかなえにきてくれたの?」

「⋯⋯よう。 まあな」


 えへへっ、と笑う少女の髪のスキマで、小さなカザグルマが回る。


「お願い、するまえにかなっちゃった! おかえりっ、おにーちゃんっ!」



 ⋯⋯メルルと満足いくまで遊んで迷宮に帰還した三人。その直後、ヒョンがそりまちさんに放った一言は「いつでもあの世界に遊びに行けるようにしてくれよまた約束しちまった――!」だったとか⋯⋯。


 そして次話から六話、魔法学校編始まります!そっちは気楽に楽しめるので、宜しくお願いします。おっと、怪しいメイドの歌声が⋯⋯。

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