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10話:入学式

 後半は0話からの続きです。

「それでは第十六回・アーチタウン魔法学校入学式を始めます」


 シルたちが顔を隠して席についた数秒後、「少し遅れました。わたくしが司会進行のミルフィーネです」とタイトなスカートスーツを着た女性教師が壇上に立った。


「ぼくたちがくるの、待っててくれた感じだね?」

「きっとそうね、あの鳥⋯⋯こんど会ったら八つ裂きにしてやるわ」

「つーかミルフィーネってよ、人魚族でガーディアンズのミルフィーネだよな」


 華やかな美貌に完璧なプロポーション――あのスラリとした足の正体がオビレとは、とてもじゃないが信じられないが。


「だけどメガネはダテね」

「おう。 【天空王ライガー物語】に『ミルフィーネは視力がめっちゃいい』って書いてあったもんな」

「あっ。そうなんだ」


 三人が小声で話していると、「それでは例年通り各種族から来賓のご挨拶を⋯⋯」とミルフィーネがいって、五列あるテーブルから先輩たちのぶーたれた声がパラパラとあがる。


「⋯⋯といいたいところですが、多数生徒から『話が長い!』との申し出があり、今年は招待しておりませんのでご安心ください」


 ひゃっほーーーう!さすがミルフィーネ先生、話がわかるぅーーーっ!と大ホールに拍手がこだました。


「では。校長――ガイナス・そりまち・マイトバリアから一言」


 ミルフィーネがその名を口にすると同時、大ホールに静寂が戻った。

 そりまちさんが、壇上の中央の席から立ち上がる。


「ようこそ新入生諸君。ワシがそりまちだ」


 一部、顔の知られたガーディアンズとは違い、そりまちさんの素顔を知るひとはそう多くない。

 いわく【変装の達人】、【影武者がいる】、【暗黒皇帝はいくつもの顔と体を持つらしい】――とウワサは聞くが、新入生のほとんどにとってその渋ヅラは初めて。


 あちこちから“ごくり”と喉を鳴らす音や、鼻をすする音、「うわああ」と胸がはち切れんばかりの声がもれる。


「⋯⋯これが正常な反応だよな」「ぼくらも出会いがアレじゃなけりゃね」「真面目な顔できるならそれでいなさいよ」


 だったらわたしの幻想(りそう)もくだかれずにすんだのに、とマイニーが鼻を鳴らした。

 ――が、シルには一部の生徒たちが、「ふんっ」と不機嫌そうに鼻を鳴らすのが気になった。


「さて、在校生諸君はご存知のとおり、このアーチタウン魔法学校には種族を問わず学びを望む子供たちが集まっている」

 

 そりまちさんが両手を広げて言った。


「精霊人族、鬼人族、吸血人族、人魚族、竜人族、森人族(エルル)山人族ドルル、鳥人族、人形族、天空人族、獣人族、そしてワシの同郷である人間族――。


 みな、同じ世界に暮らす人に変わりはない。勝手が違うこともあり戸惑うかも知れないが、仲良くするように」


「この世界のほとんどの種族が集まってるわけだ?」

「ええ、そりまちさんは魔王を討伐したその年にこの学校を設立したらしいわ。 異種族の架け橋になるようにって」

「なるほどな、んで第16回目の入学式ってわけか」


 オレらのほんとうの年齢(・・・・・・・)と同じだもんな、とヒョン。


「そしてめでたいことに、今年度から魔人族の子供たちを迎えることになった」


 そのヒョンが、「へっ?」と声を漏らす。そりまちさんの言葉に、大ホールがどよめく。シルとマイニーがヒョンを見た。


「隠すことではないだろう⋯それに、みんな知っとるだろう?

 魔人とは【魔物の一部が魔王のチカラを自らのものにし、独自の進化を遂げた種族】だ。 


 その存在が世に出てからまだ時間も短い。


 いいか、恐れることは悪くない。ただ、未知を恐れながらも、その目で確かめて欲しい。

 彼らはすでに、我々の良き友人である」


「⋯⋯⋯だってさヒョン?」「けっ、オレはハーフだけどな」「よかったじゃない。魔人の子供の友達いないんでしょう?」


 関わったことがねーだけだっ、とヒョンが鼻を鳴らした。


「まっ、わたしも近い存在になっちゃったしね」

 

 ここでマイニーが、意味深な言葉をぽつり。


「どゆこと?」「なんだよお前、魔人の男が出来たのかよ?」


 ヒョンが鼻をグウでド突かれる。


「見てこの目」前髪を持ち上げたマイニーの片方の瞳が、真紅に変わる。


「それ!アイバンパのッ!」「見てじゃねえよバカッ! オレらの生命力奪う気かよっ!」


「心配ないわよ。アイバンパほどの能力はないみたいだもの」


 さっき鳥にブチっと切れたとき自然と発動したけど、ワシード(あの鳥)、身震いですんでたわ、とマイニー。


「そっかあ。源光の世界に行く前、マイニーが言ってたじゃん?魔物の魂をもらうことで、そりまちさんは強くなったって。

 だから、光がアイバンパを消滅するとき、地面で崩れかけてた牙から出てきたそれを咄嗟にぼくがかじったけど」


「能力の吸収はマイニーに起きたってわけか」


「みたいね。シルファンさんは固有魔法持ちじゃなかったみたいだから“ナイス判断よシル”、っと言ったところね」


 そして三人が自分たちの置かれている状況に気づいたのは、マイニーの真紅の瞳が元に戻ったときだった。


「えーーーそこの遅刻新入生三人組。 式典中は静かにするように。 とくに男子二人、ナニを盛り上がったのかはしらんが突然立ち上がるな」


「「あっ⋯⋯⋯⋯」」「⋯⋯⋯⋯これはわたしが悪かったわ」


 全校生徒の白い目が、三人を冷たく射抜く。

 いや、その大半はユカイげに頬を持ち上げているが、三人の目にはそううつる。


「しかしなんだ。 緊張も切れたところでよ」

 ざわついた空気を待っていたように、そりまちさんが手をパンっと打ったのはそのときだ。


「――これより、諸君お待ちかねの宴の時間だ――!」


 それと同時、大ホールを大歓声が埋め尽くした。

 ユキオンナの白い息が粉雪を乗せて舞い、テーブルが炎ごと凍てついたのはそのすぐあとだった。


「すごいわね⋯⋯ここまでド派手だと感嘆するしかないわ」

「だけどほんとに凄いね!ぼく、炎の氷なんて触るの初めてだよっ」

「ザラっザラしてんなあ⋯」


『天空魚の刺身はいかがです?』


 三人が息を呑んだとき、真ん中に座るマイニーの後ろから、全身が包帯なミイラが氷のテーブルに舟盛りを置いた。


「ミ、ミルキーフィッシュだ!」ヒョンがかぶりつくように見る。


「なにそれ?」


「シルお前読んだことねえのか⁉︎ ライガーの物語にでてくる、雲の地にしかいねえってゆー天空魚だよッ!」


 オレこれ、くってみたかったんだーーー!ヒョンが雄叫びをあげる。


「私がイチヨ様オタクなら、ヒョンはライガー小僧ってところね」

「ふぁぃふぁーふぁこじょうじゃへーよ!(ライガーは小僧じゃねえよ!)」


「その意味じゃない、ってゆーか素手で食べないでよ はしたないわね」

「ならば、こちらをお使いなさっては?」


 呆れるマイニーに、はかったようにフォークとナイフを差し出したのはゴブリンだ。

「うわあ。 フランケンにゾンビにゴブリン⋯⋯魔人(・・)が普通にいるんだこの学校⋯」


 よく見ると、いたるところで肉に野菜に魚に山菜とふんだんな食材を使ったご馳走をテーブルに運びながら生徒たちをからかっている魔人たちが見える。


「うわあ。いいね〜なんかみんな楽しそう。 ぼくこの学校に入学してよかったかもっ」


「同感だな」「まったくだわ」


 三人は知らない。入学早々悪目立ちした問題児生徒を、壇上の端に座るウルフマンが眼光鋭い目で見つめていることを。


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