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5.冒険と死の淵

リリィから1日かけて魔法を教わった次の日、ミトを連れて冒険者ギルドに依頼を見に行く。


ん〜、簡単で安全性が高そうな依頼はないかな〜。

これは……『森の魔物調査』。これなら、他の依頼と比べたら命の危険は少ないだろう。

この依頼を受けるついでにこの国の外について少しでも学べたら上々か。


国を出る前にバルトからもらった小さめのバックの中身を見る。

中には救急セットと鉄製の水筒が2つ、サンドイッチが二食分入っている。横のポッケには拳銃(ハンドガン)であるベレッタM9がある。


これは……バルトが用意してくれたのか。

前の世界より生きることが大変で心に余裕がないはずなのに、この世界の方が人の温かみを感じれる。不思議だ。

……いやこんな世界だからこその温かみなのかもしれない。


外につながる門に向かうと衛兵に話かけられる。

どうやら昨日はリリィがやってくれたようだが、国を出入りする際には門付近に設置されている機械に身分証を見せる必要があるようだ。

冒険者カードも身分証の一つのようで提示を求められた。


門をくぐると青い空の下で風に吹かれて揺れる草原が広がる。


この一歩が俺とミトの冒険のはじまりか。


とりあえず依頼のために森まで行かないと。

依頼書に記載されている地図を見た感じそこまで遠くはないようだ。


ミトの手を握って歩きだすこと約五分。ミトがなにかにつまずいて派手に転んだ。


「……おにぃ……痛い」

「大丈夫か? どれ、怪我を───」


ミトの傷口を見ようとした時、ミトがつまずいたであろう()()が地面を割るような音と共に、土中から跳ね上がった。

直後俺の警戒レベルが最大限まで上がる。相手の太めの(つる)のようなものがねじれる。


この距離なら片手剣が届く、切れる!


右手に握った剣を全力で横に一太刀いれる。相手の根っこのような部分が真っ二つに離れた。

地面に落ちると断面から緑色の液体が粘り気を持ちながらドロドロと流れる。


ミトの方を見ると転んだときの傷口を手当していた。するとミトに本を渡される。


これは……ギルドで渡されたモンスターの情報が載ってる冊子?


ミトにあるページを指さされる。そこには先程剣で切ったモンスターの写真が載っている。


えっと

『名前:アーキア。名前からゲート発生以降の最初の植物性モンスターだとされている。

・頭に生えている葉っぱを外に出して光合成で栄養を摂りつつ、体は地面に埋めて身を守る。

・他のモンスターと比べて攻撃性はかなり低い。

・モンスターランクF』


こういうことも書かれているのか。モンスターを討伐するための作戦を練るには必要な情報が載っている。

これからも活用しよう。


「おにぃ……大丈夫?」


そう言いながらミトが右腕にそっと触れる。自分の体を見ると右腕が震えていた。


俺の自己能力値(ステータス)は高かった。先程の動きから見ても常人の域を超えていた。

つまり、体が追いつかなかったのか?右腕に力が入りづらい。


……俺の体は筋肉がついてないからなぁ。右腕が震えている。このままではミトを守ることはできないかもしれない。


そう考えているとミトが手をだして俺の目を見る。


「おにぃ。右腕……見せて」


右腕の服をめくるとミトが魔法陣を作製した。すると魔法陣から板状の氷が出てくる。いや作られていると言ったほうが正しいだろう。


ミトが救急セットの中から包帯を出し、氷を俺の右腕に包帯でくくりつける。


「これでしばらく安静にしてれば多少は動けるようになると思う……私を守ることだけじゃなくて自分の体のことも考えて」

「……悪かった」


ミトを守るためにも街に戻ったら、自己能力値に耐えるだけの体を作らないとな。


その後、右腕がある程度動くようになったら街に戻ってリリィに依頼を手伝ってもらった。



ーーー



「……『自己能力値に体が耐えられなかった』っか……どうしたものか。俺は仕事があるから鍛えられないし、リリィも前衛のような戦い方は教えられない。うちの店に来た奴を頼ることもできるが時間が不規則すぎる。冒険をしながら徐々に慣れていくしかないな」


バルトに右腕のことを話すと解決策を一緒に考えてくれた。


冒険をしながら体を慣らす。これは極めて危険な行為だ。最悪体が慣れる前に死ぬ。


それでも、この世界でミトを守るためには自己能力値に振り回されないだけの筋力をつけなければならない。ならばやるまでだ。


「バルト。冒険をしながら体をならすよ。何があってもミトを守れるように。」


「そうか、死ぬなよ」と言い鍛冶場に戻るバルトを見送りながらミトと店を出る。


とりあえず体が耐えられるようになるまでは依頼を受けずにモンスターを含めた素材を売ることにしよう。

……素材集めのためにもまた森の付近に行くか。


「ミト。また俺が体を痛めても助けてくれるか?」

「おにぃ、私にそんなこと聞かなくていい」


無念だ。守らなければならないミトを危険な戦場に連れて行くんだ。守り切るためにも早く強くならないと……



ーーー



森の前でミトがニッと口角を少し上げて呟く。


「おにぃ。お金……いっぱい集めるよ」


……なんかミトがやる気に満ちてるな。まあやる気があって悪いことはないからな。


森にできた道をミトの横に並んで歩いていると森では見かけないものが視界に入って、視線が惹きつけられる。


「……これは、石板?『彼の■■は死に絶えた。■■にも知ら■■とのない■ま、今ここ■■る。』文字がかすれて読めないな。まあ森に放置されているし仕方ないか」

「おにぃ。裏にもなんか彫られてる」

「……知らない文字だな」


文字を読むのに苦戦していると、ミトが石板を撫でて呟く。


「『彼は眠りに堕ちた。英雄は希望、真意、期待、夢、願望を、彼は挫折、絶望、悲観、嫌悪、失意、憎悪を人々に与えた。残されたものを鎮めるためにこれを残す。これを取るものに永久(とこしえ)なる祝福と加護を与える。』」

「……この文字読めるのか」

「魔法陣に書いてある文字だから」


ミトの観察力と記憶力に驚いていると、石板の文字が少し青白く発光する。

すると石板がひび割れ、ひびから黒を基調とした赤色の刃を持つ短剣が出てくる。


なんで短剣が出てくる?裏の文字が暗号かなんかだったのか?

……これどうしよう。


一応この森は冒険者の狩場。そして俺達は冒険者。つまり、この短剣は狩りの途中で手に入れた素材であるため俺達のもの。


……まあ、短剣だしバルトに見せればなにかわかるだろうか?

そう思いバックにしまい込んだ。


だが短剣だけでは流石にお金にならないし、モンスターを探して素材を集めないとお金が手に入らない。

……引き続き森を探索して弱そうなモンスターを探すか。


道から外れて木々の間をくぐっていくと人型のモンスターを見つける。

辞書でモンスターの情報を探す。


……あった。

『名前:鎌鼬(かまいたち)

・肌はザラザラしていて弾丸二発程度なら弾く。

・瞬間的速度は約秒速五メートルにまでなるとされている。

・両手には鎌がついていて骨を容易く切断し、牙は鋭く鉄を噛み切る。

・盲目であり額についている魔石で周囲の温度や魔力濃度を見ている。

・モンスターランクはD』


……両手に鎌って生活大変そう。まあいいや、とりあえず盲目だけど温度が見える……サーマルカメラみたいなことか。少し工夫したら相手から見えなく出来そうだな。でも森の中じゃ大々的に火を出すのはまずい。

討伐する方法を考えないと。距離はあるから魔法で額だけ炙るか?それが一番簡単な方法だな。威力を上げるためにも詠唱が必要だな。


練習の時と違って、なんとか覚えた『イグナイト』の詠唱を始める。


「ふぅ、距離は十分にある。落ち着け。『我が信ずる神よ、その力の片鱗を今与え給え。今秩序を乱す者に熱き光を。立ちはだかる者に熱という痛みを。イグナイト』」


魔法陣から二つの火の球が螺旋状に射出されて鎌鼬の魔石に直撃する。鎌鼬は左手で額を押さえながら右手の鎌で周囲の木々を切り刻む。


温度が見えるなら魔石を火で覆えば目は見えないも同然なはずだが。あれは見えてないのか?


少し近づいてみる。反応はない。剣が届く距離はまで近づく。反応はない。

首の関節の柔らかい部分めがけて剣を振る。スパッと鎌鼬の首が飛ぶと残った胴体が力なく倒れる。


「おにぃ。こっち来て」


ミトの近くに行くとまた氷の板で右腕を冷やされる。


「ありがとな。助かるよ」


ミトの頭を多少乱暴に撫でるとミトは嬉しそうに目を瞑る。


この死体はどうしよう。引きずってくか。


死体の腕を持ち引きずろうとするとなんとも言えない嫌な気持ちになる。

言葉にできない嫌な気持ち。こういう時は素直に従った方が良い。

すぐに死体から離れて森を出ようとすると気づく。


まずい、モンスターがいる。前と後ろで挟まれた。

どうする。早く考えろ。撤退のルートを考えろ。っ!ミトの安全を第一に考えないと。


ミトを守るために走り出すと背中が熱くなる。

背中を押さえた手を見ると赤く染まり鉄の様な臭いがする。

近くにいたミトを抱くようにして守りの体制に入る。


これは死んだかもしれない。

……ミトだけでもバルトに預けてくればよかったな。


右腕でミトを守り、左手で剣を突き出す。

横から飛び出した鎌鼬によって剣が弾かれて横の木に突き刺さる。

前にいる鎌鼬がジリジリと近寄ってくる。


まずい。まだ右腕は使えない。左手が痺れる。


鎌鼬の鎌が目の前でも落ち上げられる。死んだ。これは運命(さだめ)。今この場所で死ぬのが俺の運命だったんだ。ぎゅっと目を閉じる。


死ぬまでの一秒が何分にも感じれた。

……体に痛みが発生しない。


目を開けると紅色の鎧を纏った大男が鎌鼬の鎌をナイフ一本で受け止めている。


「君達は……子どもを守るのは我々大人の役目だ。あとは任せなさい」


すると鎌を弾き飛ばし右手に背中に背負っていた大盾を、左手にナイフを持ち腰を低くして構える。


迫ってくる一体を鎌ごと首を切り裂く。少し下がり腰のポーチから取り出した茶色くくすんだ石が二つ宙に舞う。舞っている石を大盾と地面で挟みつぶす。


「まとめて死んでもらう。『露わになる攻撃性(ラーウェル)』」


そう呟くと大盾から魔法陣が発生。さらに地面からトゲのようなものが生えて鎌鼬を貫いていく。

一瞬にして鎌鼬の群れを殲滅した。


「さあ、君達を街の近くまで送ろう」


どこかで聞いたことのある声色だった。

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― 新着の感想 ―
守る立場なのに妹に助けを乞う主人公ちょっと情けなく感じた。 モンスターが現れたのにも関わらず冷静に自分の怪我の治療してる妹は面白かった
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