3.人殺しと生活の基盤
盾の強度はそこまで高くはないようで奴隷商人のナイフでヒビが入っている。
頭の情報処理が追いつかない。この盾は何なんだ。なぜ俺を守っている。ミトは平気か。
色んなことを考えていると、ミトが腕に抱き着いてくる。良かった、ミトにはけがはなさそうだ。
「テル兄、死んじゃいや……」
……俺はこいつのためにも、この世界で生き残らなきゃいけない。そのためにもこいつらをどうにかしなきゃならない……俺はミトのためなら人殺しをできるのだろうか。
……俺は自殺を望むより前から痛みに対する恐怖は人一倍あったが死に対する恐怖は無かった。死んだらそれが俺の運命だと考えていた。だからか人の死をなんとも思わない人間だった。こんな俺なら一人や二人、平気だ。
覚悟を決めると腰に付けていたナイフを左手に、腰の片手剣を右手に構える。
盾を警戒して距離を取った奴隷商人とは約5メートルほど離れている。
相手を睨みつけながら円を描くように五歩ほど左に走り出すと向きを相手に向け、右足に力を込めて床を蹴る。
一瞬で相手との距離を詰める。身体能力が高すぎて少し驚くが戦闘において身体能力が高いに越したことはない。
相手がナイフで防御態勢をとるが、右手の片手剣で相手のナイフを弾き飛ばして左手のナイフで喉あたりを刺す。
生々しい音を出しながらごぽっ、ごぽっと血があふれ出て俺の左腕を赤黒く染める。
外に到着した相手の援軍を睨みつけると青ざめながら撤退していく。
今ので牽制になったようだ。複数で来られたらまずかったから撤退してくれてよかった。
バルトが少し驚いていたが、すぐにさっきまでの穏やかな顔になり店の奥を指さしながら言う。
「はっ、腕が染色されちまったな、奥に水場があるから洗ってこい」
腕についた血を洗いながら思う。生々しかった。皮膚を破る感覚が、筋肉をブチブチと切り生暖かい血が滴る感覚が腕に残る。でも、不思議と恐怖や後悔はない。殺すことに……抵抗はない。
そんな事を考えながら腕を洗い流した後戻ると衛兵のような人が二人来ていた。バルトが色々作り話を話しているようだ。
話おえると衛兵が担架で遺体を運んでいく。落ち着いてきたところでミトを別の部屋に移動させたあと、バルトと話すことになった。
「衛兵には武器を抜いた強盗を殺したってことにしておいた。お前さんは何も心配しないで良い」
「ありがとう。……知らなければ良いんだが、あの時の盾はなんだ?」
「あの盾はおそらく嬢ちゃんの方の魔法だろう。せっかくだし魔法のことを教えよう。一般的に魔法は2種類に分けられる。固定魔法と創造魔法だ。どちらにもメリット・デメリットがある。固定魔法は詠唱が必要で時間がかかるが、威力が創造魔法の数倍高い。他にも詠唱さえ覚えれば魔力が続く限り誰でも扱える。対して、創造魔法は詠唱を必要としない。その分さっきも言ったが威力が落ちる。細かく言うと術者の創造力によって上下する。あの盾は詠唱が無かったし耐久力も低かったからおそらく創造魔法だと思う」
「俺も魔法……使えるかな?」
「知らん。冒険者ギルドで測定してくれるから行って来い。ついでに依頼も抜粋してこい」
そう言われ俺は冒険者ギルドへの地図を渡されて押される。
金も必要だし行くしかないな。ミトも俺の近くに居てくれれば守りやすいし。
そう思いミトとを連れて歩くこと数分、街の防壁付近にある冒険者ギルドに到着する。
他の建物がレンガ造りなのにここはコンクリートだ。技術力がおかしくて頭が混乱する。
重い扉を押して中に入ると、銀行のように奥に受付が並んでいる。
上を向くと天井には蛍光灯が発光している。はっきり言って銀行にしか見えない。
戸惑いながら受付に向かうと係員が笑顔で対応してくれる。
「冒険者ギルドへようこそ! ギルドにはどのようなご要件で?」
「あ、えと、冒険者登録?に来ました……」
「なるほど、冒険者は常に不足しているので助かります!それでは自分の経歴や身分などを証明出来るものはお持ちでしょうか?」
「……持って、ないです」
身分証明が必要なのか?でもバルトは過去を気にしないと言っていた。どうしよう。
そんあことを考えていると係員が小声で話す。
「訳ありですか。では奥の部屋で話を聞いても?」
「は、はい。大丈夫、です」
そう言われミトを連れて係員についていくと、一つの部屋に入れられた。
係員の他に衛兵も一緒に入る。
「すみません、ギルド員は身分の証明ができない者との会話を禁止されているので、ここからはこの人たちが引き継ぎますので」
そう言い、俺とミトが椅子に座った状態で衛兵と話をする。バルトと同じようなことを衛兵たちに話していると、衛兵の一人が俺の手から紙を取る。バルトが書いた地図だ。
バルトの地図をまじまじ見つめながら話す。
「あんたらバルトのところか。じゃあさっき回ってきた強盗の話の裏が見えてきたな。まぁ、バルトなら平気か。あんたらもう良いよ、このまま冒険者登録をしよう」
……まじか、バルトって有名な人なのか?随分と信頼されている様だ。あとで話を聞いてみよう。
考え事をしていると衛兵に受付まで戻された。
するとさっきの係員がA4サイズくらいの石版を2つ持ってきた。
「この石版を一つ持ってみてください。これであなた達の自己能力値を確認して冒険者登録は終了です」
……自己能力値の確認方法って石版なんだ。もっとこう……血とか特殊な紙とかを使うと思っていた。
石版を持ち上げると急に疲労が体に溜まる感じがした。すると石版にビキッ、ビキッと音を立てながらヒビが入る。ひび割れが終わった石版をよく見ると文字が彫られていた。
[名前]テル・ホガラ
[種族]獣人族
[称号]死を恐れぬ者
[魔力]87
思っていたより表記が少ないな。そらそうか体力とか攻撃力とか数字で表しにくいのか。
参考になるものがないから俺の自己能力値がどうなのかわからねえ。
ふとミトの石版を見る。
[名前]ミト・ホガラ
[種族]獣人族
[称号]守護者
[魔力]230
……え、魔力の数値おかしくない?俺の2.5倍くらいあるじゃん。
「うまくいきましたね。では冒険者カードに登録をするので石版を貸してください。登録さえ終われば石版は好きにしていいですので」
そう言われ石版を渡しながら言う。
「その……魔力87ってどうですかね?」
「ああ、そうですね。ではそのあたりも説明します。一般人の方が大体10〜20ほど、前衛の戦士やタンクが大体40〜60ほど、上昇効果や減少効果を使うサポーターが70〜90ほど、後衛のヒーラーや魔術師が幅広く大体100〜280ほどです」
なるほど俺の魔力はサポーターぐらいか。……微妙だな。
受付嬢が俺の表情を見て話す。
「……一つアドバイスをしますと、サポーターは冒険者に向きません。なので皆さんは基本的に前線で魔法と剣をうまく使いながら戦ったり、後衛の魔力が枯渇したときの助けを担ったりもしますよ」
悩んでいると受付の人が話しくれる。
なるほどためになる、頭に入れておこう。
「では、こちらが冒険者カードです。あともう一つこちらを」
そう言われて渡されたのは、一冊の薄めの辞書だった。薄いとは言っても辞書にしては薄いというだけである。辞書を開いてページをめくる。
「そちらはギルドの方で情報があるモンスターが載っています。新人の冒険者に与えているものなのでお好きにしてください。加えて、ランクの説明を行います。冒険者はFランク〜SSランクまであります。そして、モンスターはFランク〜Sランクありその上に災害級、神話級とあります。災害級や神話級の討伐依頼は滅多に来ません。討伐するぐらいなら逃げた方が良いからです。それでも稀に来ますがそれらは全て指名制です。ランクはFから始まります。以上でギルドからの説明を終了いたします。質問等あれば受付に聴いてください」
「ええと、この自己能力値にある称号は何でしょうか?」
「称号はその者が行った行動や起こした事象によって与えられます」
なるほど。
俺は冒険者カードを掲げながら考える。
生活資金のことを考えるとFランクだとそんなに稼げないだろうから困るな。
……早くランクを上げないとな。モンスターとも対峙したことないし、最初の方は受ける依頼を見極めないとな。
依頼の掲示板の方に向かう。明日受ける依頼を今のうちに検討しておこう。
掲示板には色んな依頼がある。モンスターの討伐に護衛、採取など。
……最初から討伐依頼はやめておこう。モンスターを倒す練習をしなければならない。それを考えると護衛も却下。残るは採取か……初めてにピッタリじゃないだろうか。明日の依頼はこれでいいかな。
ーーー
手続きを終わらせた俺達はバルトの武器屋に戻っていた。店の扉を開けるとバルトが奥の部屋から出てくる。
「おう、手続きは終わったか。なら今日はもう遅いし寝て、明日にでも依頼の一つや二つ達成してこい。寝床は二階の客室のベッドを使え」
「わかったそうする。色々と助かる」
なにからなにまで至れり尽くせりで助かる。
二階への階段を上ると廊下が見える。奥に扉が二つあるのが見える。
バルトに教えてもらった部屋の扉を開けて中に入ると机と椅子が一つずつにベッドが二つある。
今日は色々なことをが起きすぎた。奴隷商からの脱出に初めての人殺し、冒険者登録。もう疲れたな。精神的にも身体的にも。
ミトと一緒にベッドに飛び込むとぎいっと軋む。そのまま沈むように夢に落ちた。