それぞれの過去
マリンスノー達は中庭の真ん中にあるガゼボへと案内された。
中庭という敵の本拠地、それもある意味ド真ん中な位置に連れてこられたのは中々に人質感が溢れている。解放感溢れる場所なのに、どの部屋からでも窓から見えるだろうなという位置なので尚更だ。エタノールボスであるシュセイがルシアンに変なプレッシャーを掛けてなければ良いけど、とマリンスノーはため息を吐く。
「いやあ……これだけだだっ広くて綺麗な中庭とか、普通俺達一生の内で絶対見れないヤツだよな」
「わかる。エタノールの本拠地だと思うと怖過ぎてあんまり幸せじゃないけど。寧ろ不幸だろこれ」
「同意だお。つか出されたお茶もお茶菓子もマリンスノーの前にしかない時点でぼくらの存在全力で無視されてるお」
「「それなー」」
ガゼボにある椅子に腰掛けながらアズール達がわちゃわちゃとそう話す。
そう、案内されたは良いが、もてなしの対象はマリンスノーだけだったらしい。いつも通り、というのはいつも通りに女以外は無視して良いぞという意味だったようだ。
中々の嫌味という感じだが、エタノールという場所は元々そういうとこだと聞き及んでいるのでまあ想像の範囲内。アズール達も半笑いで話している辺り、比較的一般枠の視点から見てもそういう対応されるよねという感じの様子。
ちなみにマリンスノーの背後にはソルティとジャックターが手を後ろに組みながら突っ立って警戒を露わにしつつ護衛に徹しているし、マリンスノーの正面向こう側にはオールドパルとスプモーニが立ちながら待機している。
睨み合いみたいな何とも言えない空気なので、意図的に無視して会話に集中して平静を保っているアズール達の存在がありがたかった。ありがとう下っ端トリオ。カルーア曰く基本は三馬鹿呼びらしいけど。
「にしても時間潰し用に何の話する? 俺滑らない話の持ち合わせとか無いんだけど」
「アズールに同意。覚えてる童話を暗唱する以外オレに持ち札無いから期待しないでね」
「うっわ、コモドールお前あまりにもつまんね!」
「そこまで言わなくても良いだろ!?」
「おめーらどっちもどっちで底辺だお」
「じゃあお前は何か滑らない話あんのかよリシィ!」
「あ、でもそっかオレ達と違って客と会話するからリシィの方がワンチャン」
「ぼくに出来る会話なんてぼくが働いてる店周辺にある店の特徴とか在籍嬢の得意なプレイを教えたりするくらいだお」
「そもそもの話題が最悪!」
わちゃわちゃしながらどうするどうすると三人が話す。
正直言ってそうやって話してるだけでも見ていて飽きないが、そういえば、とマリンスノーは思い出した。
「そういえば前にリシィから、リシィがスピリタスに所属するようになった話を聞いたけど」
「確かに話したお」
「ああ、お前がやっべー変態に飼われてた話?」
「あれスラムに居るメンバー内でも結構ハード寄りだよなあ」
「おめーらも相当だお」
「そうなの?」
「えー、まあ、そうかも?」
「アズールはそうだろ。オレはそこまででもないけど」
ふむ、とマリンスノーは出されたお茶を飲む。既に『しゃらん』と解毒済みなので、何かが仕込まれていても無効化されているはずだ。
「ちょっと興味あるし、聞かせてもらってもいいかしら。勿論、言いたくないならそれで良いんだけど」
「えー……」
「んー……」
「アズールもコモドールも気にしてないのに何渋ってんだお?」
「別に積極的に話すような事じゃなくね?」
「まあでも時間潰しくらいにはなるし良っかー」
「んん、それは確かに」
じゃあ良いか、とアズールが頷く。
「でもそこまで話題になんないと思うんだけどなあ。俺とか見世物としてサーカスに飼われてただけだし」
「充分だと思うわ、それ」
「え、そう? 良かったー」
何も良くないと思うが、アズール的には多少の時間潰しくらいになれそうで良かったという判定らしい。
「えーとね、まず俺は五歳くらいまで飼われてて」
「待って? 誰に?」
「え、さあ。それなりに良いお家っぽかった気がするし貴族じゃない? 檻ん中で全裸に首輪状態でさ、残飯とか野菜のカスとか皮とか、そういうのを檻ん中に放り込まれるからそれ食ってた」
「初っ端からハード過ぎる話じゃないかしら」
「えー、でも俺からするとスタートからそれだし別に? あんまり聞かない話だけど、同じような経験持ちがゼロってわけじゃないから珍しくもないんだよねー」
辛うじて生き物という扱いはされていたようだけれど、人間という扱いをされてないにも程があった。
まあスラムに所属していない健常人がナチュラルに奇形を見下している様子から察するに、奇形はそういう扱いをしても良い対象というのがこの世界における一般的な考えなのだろう。
「そんで売られたんだっけか」
「そうそ、サーカスに。ほら、野犬とか居るじゃん。大体ああいうのを入れるくらいのサイズの檻だったんだけど、その檻のまま売られて、そのまま見世物に。サメ肌だし色が肌色じゃないから時々皮膚切り取って売られた」
「うわ……」
「俺治り早かったからだいじょーぶ。歯もほら、二層になってるじゃん? 二列っていうかさ。俺って悪い歯あるとポロっと抜けて二列目の歯が前に来て、そんで二列目に新しく歯が生えるんだけど、そのせいで無理矢理歯ぁ引っこ抜かれて売られたりさあ。正直こっちのがヤだった」
あ、と見せられたアズールの口の中は、確かに歯が沢山あった。サメもこういう風に沢山の歯があると言うが、アズールはサメっぽい特徴が強いらしい。
どうしてそんな動物染みた特徴が出るのかはわからないが、まあ胴体がヤギだったり下半身が馬だったりする奇形も居るのでそんなもんなのだろう。魔物もどきの化け物、として奇形が忌み嫌われるのはそういう動物的要素もあるのかもしれない。
少なくとも健常人の殆どから同じ人間扱いされていないのは確かだ。
「そんで俺が今二十四で、十年前っていつ?」
「十四だお」
「あーそれそれ。そん時にサーカス団員がサーカス担保にスピリタスから借金してたみたいで、サーカスは潰れたし団員は売られたし俺は保護された、って感じ。いやー、それまで服着た事無かったし会話も無かったもんだから俺全っ然会話出来なくて! 服も何でこんなん着なきゃいけないんだって状態でさあ!」
「カルーアさん、お前に常識教えんのが超大変だったって言ってたもんな」
「安全性とか忠誠心を目で見て確認する為って目的があるとはいえ、新人の面倒見まくってる存在にそんなん言われるとか相当だお」
「うるっせーよ! 良いの! 無事にこうやってお喋り出来るだけの俺になったんだから!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいるが、思っているよりもハードな過去だった。
クリスタルラッシーの時もそうだったけれど、やはりスラムに所属するだけはある過去持ちというのは多いんだろうか。元々スラム生まれなら流れで住んでるという事もありそうだが、そうじゃない場合はえぐそうだ。
まあサムライロックもミスサイゴンもそれなりの過去持ちだったし、そういうもんなのだろう。
マリンスノーだってスラムに来たのはボスであるルシアンへの一目惚れからだが、異世界から召喚されて危うく孕み袋にされそうだったので逃亡、というのが初っ端にあるので重たいと言えば重たい話。
「コモドールだって奴隷だったんだからそっちもそっちだろ!」
「いや、オレも流石に服は着てたし会話は出来たから。そりゃ服は襤褸切れだったけどさあ」
「奴隷?」
「あー、はい、まあ。別のスラムに居たんですけど、八歳? くらいの時に誘拐されて奴隷に。ボスらしいボスも居ない、本当にただ行き場のない奇形が寄り集まっただけって感じのスラムだったんで、よくある話なんですけど」
よくある話という言い方にマリンスノーは少し眉をひそめたが、事実なのかアズールとクリスタルラッシーが頷いた。
「あるある。しっかり管理されてないスラムだと人攫い多いよな」
「でもコモドールはラッキーだったお。ああいうとこでの誘拐なんて、基本的にはバラしてパーツ売って終わりだお。生きて売られてるだけ幸運だったおー」
「そうなんだよなあ。腕が頑丈そうだから荷物持ちとかで使えそうって判断だったみたい。主人の商人にはこれでもかってくらいこき使われた。その商人の妻なんて愛人囲っててさ、その愛人とこっそり浮気してる時にオレ呼び出して全裸にひん剥いて見世物扱いなのがなあ……」
「あれ、俺それ初めて聞いたかも」
「ぼくもだお」
「あそう? まあ硬質な手足見て笑い物にしたかっただけみたいで参戦させられなかったのはラッキーだった。一回縛られて犬のチンコをケツに突っ込まれた事もあったけど、愛人の方がそういう趣味あんまり無いみたいで、商人の妻も愛人のテンション上がんないなら別にやんなくて良いかって感じだったのはラッキー」
「一回犬にケツ掘られてんのはアンラッキーじゃね?」
「連続でやらされるよりは良いだろ。商人仲間のとこに居た奴隷なんて馬のチンコ突っ込まれて死んでたし、それに比べりゃ犬なだけマシ」
「それは言えてるおー」
充分にハードだとマリンスノーは思うが、本人達にとってはあくまで過去でしかなく、笑って話せる内容らしい。まあ話せる時点である程度自分の中での処理は済んでいるものだし、そういうものなのだろう。
しかし待機しているオールドパルの顔がヤバい。話が聞こえる位置なものだから、汚らわしいと全力で顔面に書かれてる。確かに男嫌いを拗らせているらしいオールドパルからすれば嫌悪の対象一直線のような会話だった。隣に居るスプモーニも何とも言えない顔をしている辺り、スプモーニ的にも聞きたくない部類の話だったようだ。
エタノールという場所は酒類も色事類も禁じられているようだし、同性での色事も禁止されているという話なのでそういう話題というだけで無理なんだろう。色事を絡ませると規律が緩むからという規制らしいが、そりゃあ性的な事へ潔癖状態な精神が誕生するわけだ。
「そういやマリンスノーの方はどう……って、カルーアさんから大体話聞いてるからなー」
「どっちかというと異世界、あ、マリンスノーさんの故郷の方。そっちのが聞いてみたいですけどね」
「異世界人って突然召喚されるって聞くけど、向こうに恋人残して来たとかないかお?」
「中々私好みの良い相手が居なくて、前の恋人と別れてから間が開いてたタイミングだったのよ」
「へー、その元カレどんな相手?」
「力加減が下手な男♡」
「「「ああ……」」」
マリンスノーがルシアンに惚れた理由を聞いているらしい下っ端トリオが納得したように何とも言えない顔で頷いた。
「とはいえ、力加減が下手っていうか単純に女を自分の物扱いするワガママ男だったから振ったんだけど。見る目が無いのか、大体そういうヤツばっかりなのよね。強引の方向性が私の好みと違うっていうか。ただ喧嘩っ早い馬鹿とかDV男も多かったし」
「って事は結構付き合った回数多いのかお?」
「それなりに多いわよ」
「へー! 意外!」
「どういう意味かしら」
「あでででほっぺつねるのはちょっと。ボス相手に一途なの知ってるから意外ってだけ! ってかサメ肌なのにそっち痛くないのマリンスノー!?」
「ちょっと痛いわ」
痛かったのでパッと離した。これは確かに見事なサメ肌。うっかり素肌がぶつかったりしたら、ザリザリの壁にぶつかって擦れた時と同じくらいのザリザリ傷をこさえるだろうなという感触。やり方次第では拷問道具に数えられそうなザリザリ感だった。
「まあ、付き合った人数が多くても付き合った期間自体は短いんだけど。私が好きなのは私を怪我させようって思って怪我させる男じゃなくて、守ろうとしてやらかしちゃうくらいが好きなのよ。愛する人を守ろうとして捻挫させちゃったり、気合いの入ったドアだなとか言って鍵掛かったドア壊しちゃったり、一緒に居たくて腕掴んで痣にしちゃったり、そんなパパみたいな人が好きなの」
「パパ?」
怪訝そうに聞くアズールにマリンスノーは頷いた。
「パパ。父親」
「すげー趣味だお」
「それママさん平気? つか無事? 本人にそういう気無くても怪我はしてるくね?」
「ママはパパの事、ヤンチャな人だよね、って」
「ヤンチャで済むんだ……」
うわあ、とコモドールはちょっと引いた。異世界人と言えども分類としては健常人側なのにマリンスノーがあっさりスラムに馴染んだ理由がわかる気がする。
「ママ曰く、別に殺されるわけじゃないんだし、私はちゃんとパパの事を好きだから、って言ってたわ」
「それ洗脳されてね?」
「うん、私もパパの友達もそれ疑ってたわ。パパは自分の馬鹿力にいまいち自覚無いからママが怪我してもか弱いんだなとしか思ってないけど、私もパパの友達も真相知ってたし。そしてパパが優しく明るい外面を持ちながら腕力と思考がわりとゴリラで、執着は蛇みたいっていうのも知ってた」
マリンスノーは彼らの血を引いてるし生まれた時から見てるのでそんな家族が大好きだし、好みのタイプは父親みたいな人という感じだが、他人だったらまず距離を取りたいタイプだというのもわかっていた。狙われたが最後という言葉が似合い過ぎる。
「でも、実際に毒性と瞬発力が高いのって実はママなのよね。寧ろママがパパに惚れてくれてる間は平和だし、洗脳でもそうじゃなくても良いか、って結論に」
「マリンスノーがそこまで言うとかどういうママだお」
「倫理観低めで、大事な人の為なら本当に手段選ばず何でもするって感じの人。人を助ける助けないは合理的判断で決めるし、バレなければセーフ理論で自分の楽しさや興味優先で法律的にヤバい物を作ったりやったり」
「やべー人だ……」
「良識は一応あるのよ?」
もっとヤバい環境に居た事があるのにドン引きしているアズールに、マリンスノーはそうフォローを入れた。一応、としか言えないが優しい心はちゃんとある母親なのだ。
「動物がいじめられてるのを見たらすぐに保護するし、病院に連れて行って看病もして里親探しまでしっかりして、別れの時には一晩中泣いてたり」
「いじめたヤツ生きてます?」
「…………いじめてた人は行方不明になってたわ。ママは、小さくすれば大きい物もちゃんと処理出来るから、大きいゴミはちゃんと小さくしないとだよね、って笑ってた」
「スラム生まれじゃないんだよね?」
「そのはずなんだけど……」
マリンスノー自身ちょっと言い切れない。あの人はそういう人だった。基本的には良い人なんだけど、ヤバいなという気配を匂わせる事が多いのだ。さっきの発言なんてティッシュの空箱を小さく千切ってゴミ箱に捨てながらだったし、テレビのニュースでいじめた人が行方不明になってる話の時だったので本当に怖かった。
「パパの方はそれ気にしてないのかお?」
「警察、ええと犯罪を取り締まる側だからどうかと思うんだけど、ママには鈍感なのかそういうの察知しないのよね」
「話聞いてた感じ、ママさんの方が隠蔽上手って感じもありますが」
「……まあ、否めないわ。パパにはバレないようにヤンチャしてたし。あんまり深堀りしないように、っていう牽制なのか、パパに近くて、尚且つパパにチクったりはしないのがわかってる相手にはわかるよう言ってたけど」
「さっきみたいにかー」
「ええ」
「パパさんに言いそうで、尚且つ深堀りしそうなヤツはどうなったんです?」
「……パパと敵対してる人は行方不明になったり引っ越しになったりして、パパと敵対してない人は他の案件に意識が向くようにされてたわ」
マリンスノーはスッと目を逸らしながらそう返した。
証拠は無いので本当かどうかは定かじゃないが、前までは明らかに母親がやっただろう事件を追っていたはずなのに、次に来た時は本人も違和感を抱いていない様子で他の案件に夢中になっている、というのが何度もあれば流石に察する。マリンスノーは鈍感というわけじゃないし、マリンスノーの視線に気づいた母親がどうしてこっちを見るのかよくわからないなという顔でにっこり笑っていたので察するしかない状況だった。あの人はそういう人。
いや、勿論良い母親であり、マリンスノーに何かあれば全力で、そりゃあもう法律に触れそうな勢いの全力で守ろうとしてくれる人ではあるのだけど。
「あと、パパはパパで昔から悪人大嫌いマンだったし、私が暴力男に引っ掛かり過ぎたせいで悪人殺すマンに進化しちゃってたから、多分証拠が挙がらない限りはママの行いに気付いても笑顔で見て見ぬ振りするんじゃないかしら。ママがヤンチャする相手って、ママが有害判定出すだけの事をした相手ばっかりだから」
「うわあ」
「スラムで元気に生きて行けそうなご家族過ぎる」
「仲良いのも善良なのも伝わってくるのにそれ以上のやばさが伝わってくるのどうかと思うお」
「うーん、でもパパって力加減が馬鹿とはいえ家族大好きな人だから、娘が害されるってだけで凄いキレる人なのよね。その辺は普通じゃない?」
普通の父親だ。
お陰で女に振られるなんて許せないみたいなDV男も門前払いでマリンスノーに被害は無かったし、それでもやらかそうというような輩はしょっ引かれていった。マリンスノーとしては後顧の憂いが無くなるのでありがたい話である。
「仮にも恋人という守る側の存在がよりにもよってうちの娘を殴るなんて、って感じで尚更許せなかったみたいで、恋人が出来たって言う度に凄い心配されたわ」
「そりゃするお」
髪の毛で目元が隠れている為わかりにくいが、クリスタルラッシーからも呆れに近い気配が向けられた。
マリンスノーからすれば至って良い両親で、父親がちょっと忙しいものの仲良し家族という認識だったが、一番冷静に判断出来るだろう父の友人の反応を思い出した。となれば同じような反応してる彼らの反応が一般的なのだろう。
ちなみに母親の方の友人は居ない。いや、外で会うと親しく話したりもしてるのだが、母親は個人情報は大事だよと言って連絡先の交換などをしない人だったので友人と言えるような人は居ないように見えた。
向こうは友人と認識していそうだが、母親に何か面倒事を持ちかけようとしたら即座に切り捨てられるだろうなという温度差をひしひしと感じたのは忘れられない。
「マリンスノーのそれ、パパさん由来の性癖ってのパパさんはご存じなわけ?」
「まさか。ママの体中に痣があるのに全然気付かなくて、ふとした時に気付いては誰にやられたんだ! って叫ぶくらいには鈍感な人だし」
「おめーだお!」
クリスタルラッシーの叫びにマリンスノーも頷いた。本当それ。ブーメランが酷かった。
仲睦まじい両親なので夜の時に気付かなかったのかと思ったが、母曰く部屋を暗くしたり服を着たり、どうしても誤魔化せそうにない時はコスプレ服で気を引いて着衣のままどうにかしてる、とサムズアップされた。高校生でそんなのを聞かされたマリンスノーは何とも言えない気持ちになった。聞いたのはこちらだが、あまり聞きたくなかった話だ。
「それ気付かれた時のママさんはどういう対応したんです?」
「目を泳がせながら、こけた、って」
「騙されるかなあ」
「無理だお」
「変なとこで嘘下手になんじゃんママさん」
「ヤンチャについては完璧な笑顔で誤魔化すんだけど、そういう時だけ嘘が下手糞なのよね。で、見てないところで危ない事があったんじゃないかって思ったパパが心配のあまり頑張って、頑張って、その結果近所の治安がしばらく尋常じゃなく良かったわ」
「良い事だお」
「そのせいか力加減が馬鹿そうな男も見つかりにくくなっちゃって」
「話がスタートに戻って来たな」
「丁度間が開いてた理由それかよ」
とはいえ結果的に最高に好みな男、それも本当に好み通りのタイプだった男と出会えたので問題無し。地球にああいう男は父親だけというオンリーワン状態だったのだろう、とマリンスノーは思っている。