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移動手段



 エタノールからやって来た二人の使い、ピンクの方はオールドパル、青い方はスプモーニと名乗った。

 ちなみに力を見せてもらう宣言については、


「異世界人様が本当に異世界人なのかは、その能力を直に見なければわからないだろう」

「えっと、それでエタノールまでの移動を異世界人様の能力でやって見せてもらおう、っていう考えでして」

「こちらで得た情報からするに、異世界人様の能力は広範囲かつ応用が利くものだそうではないか。私達というエタノールからの使い、異世界人様本人、そして付き添いであるその他を一気に移動させてもらい、その能力の真偽や程度を測らせてもらう」

「シュセイ様としてはそれをもって異世界人様に対する態度とか対応を決めたいとの事でして、その、いきなりで失礼とは思いますがやっていただけると助かります……」

「スプモーニ、貴様はいちいちそうへりくだるな」

「オールドパルみたいにふんぞり返るような態度もどうかと思うよ……」


 とりあえずこの双子はスプモーニの方が幸薄そうだし常識人らしい、とマリンスノーは判断した。端的な説明としてはオールドパルの方が話は早いが、会話をするならスプモーニに話しかける方が良さそうだ。

 序列的には下とはいえスラムのボスをその他の付き添い扱いで一緒くたにされた事に再び機嫌を損ねたルシアンの機嫌をどうにか落ち着かせる。

 それでもルシアンにギシリと、それはもう確実に痣になっているだろう力強さで抱きしめられたまま、マリンスノーは周囲を見た。


「私は別に問題無いけど、行くのはルシアンとカルーアと、ジットとソルティと……ピオは行かないわよね」

「行くわけねーだろ仕事中だ。夜のお楽しみ用衣装を用意しといてやるからお前らだけで行ってな」

「一言多いわ」

「あからさまに男女の性的な事に関する会話を口にするとは汚らわしい……」

「オールドパル、ここ私達のホームじゃないからね? ね?」


 唸る獣のように顔を顰めているオールドパルをスプモーニがどうどうと落ち着かせている。向こうは向こうで相方のブレーキ役で大変らしい。

 マリンスノーもいつ自分というブレーキを無視してルシアンが不機嫌大暴走状態になるかわからないので、スプモーニに同情心とシンパシーをちょっぴり抱いた。気持ちはわかる。普段なら確実なストッパーになってくれるカルーアが既に疲労困憊で投げやり状態に片足突っ込んでるので尚更マリンスノーの肩に掛かる責任が重い。


「……アズール、コモドール、リシィ。テメェらも来い」

「え?」


 少し何かを考えた様子のルシアンが放った言葉にアズールがきょとんとしながら反射的にそう零し、一瞬の間の後に叫ぶ。


「ええええええ!? 俺達が!? 俺達めちゃくちゃ雑魚ですよ!?」

「アズールの言う通りですよボス!」

「ぼくらマジで戦闘能力とかも何も無いお!」

「はなっからそんなモンに期待してねえ」

「そもそも私達の目の前で戦力を連れて行く話をされたならば敵対の意思有りと見做すぞ」

「あんな怖いねーちゃんの本拠地に行ってどうしろと!?」


 無理ですって、とアズールが手をあわあわしながらルシアンに説得する。


「そりゃ俺はサメ肌ですけどそれだけだし、ゲテモノって言われるのを食うのが好きってくらいしか特徴無いし! 別にエタノールで根性試しにゲテモノ出るとかでも無いなら俺が同行する必要性無くないです!?」

「オレだって手足固いし腕多いけど喧嘩は基本逃げる派ですよ! 金が要る時に掃除屋バイトするから掃除は出来るけどそれだけです!」

「ぼくとか男相手がメインだけど男女どっちも相手出来るってくらいしか得意な事無いですお! エロい事が基本的に厳禁扱いかつ両性だって拒否対象な女性至上主義のエタノールとは相性最悪にも程があると思いますお!」

「ジットとソルティをマリンスノーの護衛につけるつもりだが、二人だけじゃ手が足りねえって時に肉の盾くらいにはなれるだろ」

「俺ら三つの残機扱い!?」

「ヤダ使い回せるタオル類よりも酷い使い捨て扱い!」

「でも実際ぼくらの価値そのくらいだから反論出来ないお」

「あとはマリンスノーと会話なりして時間潰し役になってろ。マリンスノーをエタノールに連れて行ったという事実を作りたいだけであって、マリンスノーをシュセイと話し合わせる気はねえ」

「俺らただの暇潰し要員?」

「長期移動時の分厚い本みたいな扱いだなオレら」

「護衛とか言われるよりはマシだお。実際そんくらいならぼくらでもやれそうだお」

「「まあ確かに」」


 一先ず話は纏まり、三人も同行人に決まったらしい。

 マリンスノー自身も一応オノマトペという能力があるので自衛くらいは出来るのだが、まあそれでルシアンの気が済むなら良いと思う。マリンスノーとしても、普段から愉快な会話をしてくれる三人が一緒なら何となく心強い気もするし。

 勿論ソルティとジットという心強い護衛は居るが、警戒を強めに見せている護衛よりは気楽なテンションで漫才みたいな会話を繰り広げている友人が居た方が気が楽なのも事実だ。初めて行く場所である事、ルシアン達が警戒を強めに見せているエタノールである事を考えると気楽になれる存在が居るのはそれだけでありがたい。

 まあ、それで気が抜けてあっぱらぱーな警戒心になってはいけないなとも思うけれど。


「馬鹿にも程があるような話し合いは終わったか?」

「オールドパル、喧嘩売るような言い方はやめようよ」

「終わったならさっさと移動を開始しろ。異世界人というのが真実なのか、その能力は有用なのか、男という汚らわしい毒から迅速に引きはがすべき最優先事項であるかどうかの見極めはそれ次第だ」

「オールドパル、全然話聞いてくれない……」

「そもそもの話、引きはがす以前に私から押しかけたんだけど」


 一目惚れして異世界人である事を利用し売り込んだのはマリンスノーの方である。

 そう思ってぼやけば、マリンスノーの腰に回されている腕の力がより一層強まった。骨がミシミシ軋んでいる気がするが、嬉しい時やテンション上がった時にミシミシするくらい力を込めて抱きしめて来る辺りは父親を思い出すので嫌いじゃない。寧ろ愛されている感が伝わって来てテンションが上がる。


「じゃ、行きましょうか」


 密かにテンションが上がったまま『ヒュパッ』とマリンスノーが唱えれば、スコーピオンやその他の客を残し、エタノール行きの皆は一瞬にしてラダシフから『ヒュパッ』と消えた。



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