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いつもの朝



 んん、とマリンスノーは起き上がる。

 分厚い黒のカーテンにより外の明かりがほぼ入ってきていないが、朝になってはいるらしい。外から聞こえる僅かな音からそう判断する。


「ルシアン、起きて」

「…………」


 部屋の主であるルシアンは揺さぶってもびくともしない。

 ベッドの上で起き上がった状態のマリンスノーは欠伸を零す。最近はもっぱらこの部屋で寝起きしてばっかりだ。まあ夜を共にしているし、行為後のルシアンは離れるのを嫌がるので自然とそうなる。


「えっと、服……」


 ルシアン同様、マリンスノーも全裸だった。きょろりとどこに服があるかと室内を見渡す。

 全裸で寝ても不快じゃない質の良いベッドなのでありがたい。


「はい、服」

「あら、ありがとカルーア」

「どーいたしまして」


 ルシアンを起こす為に部屋に入って来ていたカルーアが、室内に散らばっていたらしいマリンスノーの服を渡して寄越した。

 これもよくある事だし、カルーア相手に恥ずかしがるのも今更なのでマリンスノーに羞恥は無い。そもそもよく行くラダシフでは夜にストリップダンスが行われているので本当に今更だった。

 何より、カルーアは別にマリンスノーの事をそういう目では見ていない。

 幼馴染であるルシアンの伴侶としてマリンスノーの事を見ているので、ルシアン好みの下着を教えてくれたりはするものの、色事関係はそれくらい。

 裸を見たり見られたりしても今更過ぎる身内というのが一番近い表現だろう。


「相変わらず痣だらけだね。今日は首と肩のとこが特に酷いよ」

「あら、そう? 『しゃらん』」


 マリンスノーがそう言うと同時、首と肩についていた青痣が『しゃらん』と消えた。

 とはいえ体全体を見ればまだうっすらとした痣があちこちに出来ているが、それはマリンスノー的に嬉しいものなのでそのままにしておく。痣が出来るくらい力加減が馬鹿なところが好きなのだ。

 まあ派手過ぎる青痣は動く時や何かに触れた時に思ったより痛いし、恋人に痛い思いをさせたいわけじゃないルシアンなので、派手な痣を見るとやっちまったという顔で少し顔色を悪くするのが可哀想だから消している。


「さて、朝ごはん作らなきゃ、」


 その前に下着を身に着けようとそのままベッドから下りようとすれば、マリンスノーの動きが止まった。

 腰に回されたままになっていたルシアンの太い腕がぴくりともせず、マリンスノーの身柄を完全に確保している。


「あーもう、またかよルシアン! ほら起きろ! マリンスノーの作った朝飯じゃないと嫌とか言いながらマリンスノーを行かせる気が無いとかいう矛盾いい加減にしろよ!」

「…………うるせえ」

「毎朝こんな事叫ばされてるこっちだって嫌になってるよ、もう!」


 無理矢理動かそうとしても無駄だとわかっているからか、カルーアはうつ伏せたままのルシアンをべしべしと叩く。


「離すのもマリンスノーお手製の朝飯食べれないのも嫌なら起きて一緒に居れば良いだろって言ってるのに、この寝坊助! 起きろ!」

「……手前が手前の物を抱いて好きなだけ寝る事の何が悪いってんだ」

「同時進行が難しいワガママを言う事が悪いんだよ!」


 ルシアンもマリンスノーも全裸で寝ていた空間にカルーアが居る事に対し、ルシアンも特に指摘はしない。

 気付いたらこんな感じになっていたし、最初にカルーアが起こしに来た時もマリンスノーの中では違和感が発生しなかったから受け入れたのも大きな理由だろう。

 流石にマリンスノーが裸を見られるのを本気で拒否すれば採点がどうとか関係なくそれなりに適切な対応をしてくれた気がするが、不快感が無かったのだから仕方ない。飼い猫に全裸を見られてどうも思わないようなものだ。単純にそういう対象じゃない、というのが大きいのだろう。


「どうせ今日は何の予定もねぇだろ……」

「んなわけないだろ!」


 流石にキレた様子のカルーアがバッサァと盛大にルシアンの布団を剥ぎ取った。

 薄手の毛布を一応は掛けていたマリンスノーも隠す物が無くなってしまった状態になったが、ここまで含めていつもの事なので動じない。というか動じる理由が無い。マリンスノーはもう一度呑気に欠伸を零した。


「エタノールからの呼び出し、それもご丁寧にボスであるシュセイ直々の呼び出しが今日だっての忘れてない癖にとぼけんな!」

「……マリンスノーを連れて来いとあったろ」

「ソルティとジットをつけとくんでしょ。それにマリンスノーだって自衛出来る。お前の勝手なワガママで変な火種発生されちゃ堪んないよ。エルジンジャとの関係性もついこないだモスコミュールが私情と面子よりも今後の関係を優先してくれたお陰で丸く収まったばっかりなんだから、これ以上面倒事起こそうとすんな! しかもお前がやらかすとエタノールに全力で攻め入られるだけの動機が発生するじゃないか!」

「チッ……」


 ルシアンはマリンスノーの腰に回していた腕を引っ込め、不快そうに表情を歪めながら起き上がる。


「……ヤバそうなら隙見て逃げろよ、マリンスノー」


 目元に軽いバードキスを落とされ、ふふ、とマリンスノーが笑った。


「愛する人からの心配程嬉しいものは無いわね」

「何だ、愛する男からのキスは嬉しくねえってか?」

「違う場所ならもっと嬉しかったわね」

「欲しがりやがる」


 唇に落とされたしっかりとしたキス。


「ふふ、最高に嬉しいわ。愛する人からのキスを朝から貰えちゃうなんて」

「お前が望むなら幾らでもくれてやる」

「嬉しさで雲の上まで飛んで行っちゃいそう」

「お前は手前のモンだ。誰が天にやるもんか」

「はいはい、お二人さん?」


 パン、とカルーアが空気を切り替えるように手を叩く。


「いちゃつくのは全然良いけど、今日だけはちょっと控えてね」


 半目のカルーアに、ルシアンとマリンスノーは揃ってすいっと視線を逸らした。



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