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王の終わり



 エルジンジャにある王城。

 まだ異世界人を見つけられず帰ってきていない他の王子達と違い、第三王子であるシャーリーテンプルが帰還した。

 それも隣に異世界人を連れ、背後には手を魔法の腕輪で封じられ自由行動が不可能となっている奇形、序列二位のスラム、スピリタスのボスを引き連れた状態で、だ。


「父上、オ待たせしてしまって申し訳ございまセん」


 シャーリーテンプルが頭を下げる。

 どこか『カクカク』とした、『カタカタ』とした小刻みな動きが気になるものの、そんな些細な事よりも異世界人を確保した事の方が重要だ。

 しかも、その後ろには最近大教会の一件で力を増したスラムのボスまで居る。

 通常であれば対峙するのも危険な存在だが、その手首に装着された魔法の腕輪は自由な行動を封じるもの。抵抗も脱走も暴走も許されない道具。それを付けられているならば、心配する必要は無い。


「構わぬ。気にするな。よくぞ異世界人を連れ戻した。これで世は安定し、泰平の世が訪れる。貴様が次期国王に決定だ」

「アりがとうごザいます」


 シャーリーテンプルは『ゆらり』とした動きながらも恭しく礼をした。


「して、後ろの()()はどうした」

「異世界人でアる彼女の目撃情報がスピリタス付近にありマした。彼女を保護する為にスピリタスへ赴いタところ、向こうもこチらの動きに気付いたようデ。スラムからの逃亡を目論む彼女、異世界人の協力によリ、確保に成功シました」

「そうか、それは良い。今宵は宴だ。これでスピリタスの所有していた土地が我が国の物となった! 異世界人の帰還、次期国王の発表、そしてスピリタスの終わり! これ程までに愉快な事があろうとは!」


 フハハハハ、と国王が笑う。

 涙を浮かべる程に笑ってから再びシャーリーテンプルへと視線を戻し、


「む」


 抱いた違和に、眉根を寄せた。


「そういえば、お前が引き連れて行った部下達はどうした。サラトガクーラーも居ないようだが」

「サラトガクーラーはあちラに残り、暴動を押し留めてオります」

「ふん、そうか。成る程。まあトップが敗北し連れていかれたとなればそうなるものだ。サラトガクーラーが残っているのであれば、次期トップが姿を見せようとも負けはするまい」


 ククク、と国王は笑う。


「さて、シャーリーテンプル。お前はもう休め。異世界人には最上級の部屋を用意してやろう。後ろの()()は地下牢にでも放り込んでおけ」

「ソの前に、父上に、土産がゴざいます」

「何?」


 異世界人の身柄と、スラムのボスの命。それ以外にも土産があるとは。

 この二つより価値があるものはそう無いはずであり、それ以下の価値しかないのであれば後日に回すべきだろう。が、今ここで寄越すという事は、同等またはそれ以上の価値があると見做すべき。


「良かろう。見せるが良い」

「はイ」


 『ふらり』、とシャーリーテンプルが立ち上がる。

 そのままその場で上着を脱ぎ捨て、右手に何かの魔道具を握った。


「……? それが土産か?」

「ハい。私がスラムに仕掛けたクヤカ、一つ残らズ」

「なっ……!?」


 クヤカと言えば、魔法薬型の火薬である。

 それを設置し、魔力を放つ子機を周辺に置く。あとは親機を作動する事で子機から魔力が放たれ、放たれた特殊な魔力に反応したクヤカが一気に炸裂。要するに魔力を利用した爆弾。

 それを、シャーリーテンプルは全身に巻き付けていた。

 上着の下に装着していても気付かれないよう薄手の入れ物に薬品を入れているようだが、それが全身に巻き付けられている。衣服で見えない位置にも、当然ながら巻かれているのだろう。

 右手に握られている魔道具は、間違いなく親機。

 クヤカ同様に子機も服の中に仕込まれているならば、あのクヤカの量からして、この謁見室は確実に燃やし尽くされるだろう。


「帰還した際、土産と称して民ニも配りました。よく見える位置に置クと良いと言ッて、子機を底に潜ませタこれを」

「貴様シャーリーテンプルでは無いな!?」

「残念、本物よ。意識が無いお人形ではあるけれど」


 これまで顔を俯かせて黙り込んでいた異世界人が顔を上げ、そう言った。

 こちらを見下すような、くつりとした笑みを浮かべながら。


「アンタは知らなかったのかしら。私、聞き分けが良い女じゃないの。そっちの要望通りに何でもするってつもりも無いわ。こっちが気ままに楽しく生活してるのに、しつっこく追いかけ回されてもう最悪!」


 本当、と異世界人が笑う。


「そんな散々な目に遭わされた異世界人。そんな目に遭った異世界人が、心の底から敵に回るって事も想像しなかったのかしら」

「王族に見初められるのはこの世で並ぶ事も無い程に尊ばれ喜ばれるべきだとでも思ってんだろ」

「ヤダ、頭の中にウジでも湧いてるんじゃないかしらその考え方」

「まったくだ」


 くつくつと笑った背後の()()が、奇形が、化け物が、腕を少し動かしただけで魔法の拘束具を放り捨てた。


「な……」

「それっぽく見せかけただけのフェイクだよ。スラムにゃ多いぜ、こういうの。これなら大丈夫だと呑気してる奴らのアホ面見る為に使えるってんで大人気だ」


 化け物は異世界人の腰を抱く。


「おままごとはもう良いだろ、マリンスノー。アホ面は充分に見れた」

「そうね」


 顔を近づけてキスを交わし、異世界人が国王を見た。


「じゃ、大人しく見せしめになってもらえる?」


 瞬間、化け物が翼を広げて城の天井を破壊してその場から離脱し、虚ろに見開かれた目のシャーリーテンプルが親機を起動させ、





 その日、エルジンジャの王は死亡した。



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