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「端的に言って魔法が仕込まれてるんだ」


 スティンガーは瓶の中に何らかの薬品を入れてからそう言った。


「この瓶の中身は、要するに火薬。リシィが持ってきたのは起爆剤……つまりスイッチだ。起爆用のな」

「起爆スイッチを置くって、遠隔型?」

「ああ。犯人の手元にある魔道具を起動すると、連鎖してリシィが持ってきた起爆剤が作動、仕込まれている魔法が発動する。その魔法が放つ魔力だったか一定の波動だったか、まあとにかく先程の薬品に発火作用をもたらす魔法。薬品はそれにより発火し、周囲の空気に触れる事で爆発する」

「……ソルティの話からすると、複数あるって感じだったけど」

「だから言ったろ。火の海にする仕掛けだ、って」


 ソルティが言っていたのは風俗関係の場所で発見されたという話だったが、動きの不審さから発見されやすかったのがそこ、というだけの話だろう。

 つまりそこらの道端にも仕掛けられている可能性はあり、その分だけスラムを燃やす種がある。


「喧嘩を売るのが目的か、さてどうだろうな。何が目的かを明らかにする必要はありそうだ。スラムを潰すのが目的か、スラムを潰した()が目的か」

「潰した先?」

「単純に土地を広げたいだけ。またはスラムを潰した事で他のスラムに警戒させ、スラム自体の動きを大人しくさせる目的。スピリタスは序列二位のスラム。となれば、序列がスピリタス以下のスラムは全て警戒を強めるしかなくなる」

「何故そんな事をしたのか、という理由で一番わかりやすくあり得る可能性は、大教会の件かね」

「だろうな」


 オーキッドの言葉にスティンガーが頷いた。


「大教会の件って何だお?」

「大教会がスラムに喧嘩を売ろうとしたから落とし前を付けさせたはずだ。そうだな、マリンスノー」

「ええ。首が贈られてきたわ」

「嬉しくない贈り物だおー……」


 うへえ、とクリスタルラッシーが顔を顰める。


「その一件により、スラム側の影響力が強まった。不利になったのは大教会側だけで他の国に不利が発生するわけではない、が、先程言ったようにスピリタスが倒れればそれ以下の序列が警戒するのと同じ事が発生している」

「スラムに逆らわない方が良い、ってことね」

「大幅にハードルを上げた要求は跳ねのけて当然だ。だが、ほんの少し上げられたハードルが相手なら、抵抗するといちゃもんを付けられるかもしれない。ただでさえ相手は勢いづいている。下手に戦争の種を蒔きたくない。結果スラム側が優位となり、健常人側は不満を抱く」

「その立場不利を何とかしたくて、火の海にしようって?」

「あくまで一番わかりやすい可能性だよ。オーキッドが言ったようにな。他の理由も大いにあり得る。そこを明らかにして、尚且つ首謀者を見つけないといけない。このままスピリタスがナメられて終わりには出来ないだろう?」

「そうね」


 同意見、とマリンスノーは頷いた。

 別にスピリタス出身というわけでもスピリタス育ちというわけではないが、マリンスノーは既にスピリタスに居付く気でいるし、実際すっかり馴染んでいる。

 あちこちを旅していた時はここにずっと住みたいな、と思う事は滅多に無かったので、こうして居心地よく楽しい気持ちで住める場所はとても大事だ。かけがえの無い場所、と言っても良い。

 何より、愛する人が大事にしている場所だ。

 それを、愛する人が嫌う方法で潰そうという考え。その根性が気に入らない。首謀者を見つけたら手足といった末端から潰してやろうと思うくらいには気に入らない。即死などさせてやるものか。


「とすると、健常人をとっ捕まえて尋問するのが手っ取り早いかしら」

「積極的にそういった行動を取ろうとする辺り、お前も染まったな……」

「ええ、しっかりと。何せ旦那様がここのボスなんだもの」

「思ったより進みが早い。式には呼べよ」

「ルシアンからそういう話題は出てないし、やらないんじゃない?」

「ボスに言ってどうする。アイツにそういう機微は無い。カルーアに言えばお前好みでボスの好みからも外れないレベルの式を考えてくれるんじゃないのか」

「んー」


 マリンスノーは首を傾げる。


「そりゃ昔は結婚式を挙げたいって気持ちもあったけど、それはパパが娘の晴れ姿を見たいって言ってたからってのが大きいのよね。この世界にはパパも居ないし、それなら別にどっちでも良いっていうか」

「そこまで父親の意見を気にするか? 普通」

「私、ファザコンなの。だからルシアンに惚れたのよ」

「ボスに惚れる理由になる父親が居るのか……」


 スティンガーは顔を引き攣らせた。中々にパンチの利いた父親らしい、と小さく零す。

 しかしマリンスノーからすれば父は真面目な警官で、やきもち焼きで、力加減が馬鹿で怪力な、家族思いで妻子を溺愛する良い父だった。男の好みが父みたいに力加減が馬鹿な人、なんていうおかしな好みに設定されるくらいには良い父だったのだ。

 まあちょっと困った事があるとすれば、仕事が忙しくて予定がドタキャンになる事が多かったのと、鍵という概念を理解し切れていないのか建付けが悪いなと言って鍵掛けたドアを破壊する事くらいだろうか。困った点はそのくらいしかないくらい、良い父親だった。だからマリンスノーは父が好きだし、男の基準も父に寄った。

 母もそんな父にメロメロだったので、マリンスノーは母似の性格をしているという事だろう。


「色恋沙汰で盛り上がってるところに水を差すようで悪いんだが、お二人さん」


 見ればオーキッドがいつの間にか電話の受話器を持っている。

 右の翼が邪魔なのか前の方へと畳み、右手で受話器を持った体勢だ。


「カルーアからの伝令だがね、暇な者やチャンスが訪れた者は怪しい健常人を捕らえて真相を明らかにしろ、との事だ」

「……チャンスと言う辺り、職務中にまんまと転がり込んで来たら捕まえておけってのが透けてるよなあ」

「良いじゃない。私としては公的な許可が出た気分だわ」

「そりゃ最初からやる気だったお前はな。まあ良いや。気を付けろよ。怪我したお前の手当てを、変な圧放ってるルシアンの前でやるなんて苦行は勘弁だ」

「心配しないで。普段から力加減の出来ないルシアンに抱かれてあちこち痣だらけになってるけど、手当てが必要なくらいにシャレにならないようなのはオノマトペで消してるから」

「…………そっちの床事情も別に聞きたかなかったな」


 スティンガーはそれはもうしっぶい顔でそう言った。



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