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出発



 いつも通り朝食を作り、いつもより不機嫌気味なルシアンだが文句は無く黙々と食べている。


「ルシアン、何か嫌な事でもあったの?」

「テメェが教会の本拠地に行くって事以外は何もねえよ」


 それはつまり、マリンスノーが大教会に行くのが不愉快、という事だ。

 権力的な問題とか立場的にも心情的にも敵対していると言っても過言じゃない場所と関わりを持つのが云々といった不愉快理由かもしれないが、そこを知らないマリンスノーからすれば嫉妬のようで嬉しくなってしまう。


「……マリンスノー、言っておくけど嫉妬で合ってるからね。昨日散々文句言われたもん、僕。攻城兵器五つ分くらいの動きは手前一人で出来るとかさー」


 はーあ、とため息を零しつつカルーアはポテトサラダを載せたパンを齧り、美味しっ、と一気に表情をころりと変えた。


「もったりしててボリューム感あって良いねこのポテトサラダ!」

「ありがと」


 ルシアンの方はひたすら不機嫌顔のままだったが、お代わりして大量に作ったはずのポテトサラダを食べ切っていたので味には満足してもらえたと思う。





 ついこの間直通ルートが解禁されたので手間取る事無く外に出て教会へとやって来た。

 まあここ最近は複雑ルートでも数分で移動出来るようになっていたので問題は無かったが、移動に問題が無くなったからこその直通ルート解禁だと思うと喜ばしい。


「来たわよサムー」

「ハレルヤ!」


 声を掛けながら扉を開けるも、相変わらずの出迎えだった。ウェルカム銃弾を扉の陰に隠れて回避しつつ、やれやれ、とマリンスノーは肩をすくめる。

 教会に来る度にこれなので回避の動きがすっかり上手くなってしまった。


「いやあ、色々と手間を掛けさせてしまってすまない、マリンスノー。ところでマリンスノーは戦争と非戦争どっちが好き?」

「その二択はどうでも良いわ。大事なのは私がルシアンの事を大好きで、ルシアンを利用する気は無く、ルシアンを待たせる気は無いってことだけ」

「そう、それは残念。現地の観光は無しだね。綺麗な建物とかもいっぱいあるけど、本当にいい?」

「ルシアンを待たせてまで見たいものじゃないし」

「うーん、本当に残念。上手く行けば大戦争かつ大教会側の敗北だったんだけど。治安が悪くなればその分武器も売れるし、教会が負ければ僕の自由度は上がる」

「今以上に?」


 スラムの中でもかなり自由を極めてるような男のタガがこれ以上外れるのか。

 マリンスノーは想像してうへぇという顔になった。


「仮に責任をどうこう言われても、不満を抑え込んでた僕が不在だったせいで暴走したみたいです、と嘯けばそれなりにどうにかなるかなって」

「無用な争いをスラム外にまで広める気は無いの」

「それなら仕方ないね。本人からの同意が無い事を無理矢理やらせる気は僕にも無い」


 うん、とサマーデライトは頷き、教会内の清掃をしていた中学生くらいのシスターに声を掛ける。


「ファジーネーブル、今日の内には帰ってくるつもりだけど、留守番は大丈夫かい?」

「……大丈夫、と、思う……?」


 一般的な横並び信号機の如く三つ目が並んでいるファジーネーブルが、声を引き攣らせながらそう返した。

 中学生くらいにしては発育が良い谷間を晒したシスター服だが、下手に露出を抑える方が寄ってくる輩も居るので仕方がない必要経費らしい。

 脇腹からも両腕が生えている彼女は手を動かしながら、忌まわし気に顔を顰める。


「ただでさえ客とも言えない客がひっきりなしに来るのに、自分一人だなんて……」

「嫌ならエタノールに行くかそこらで身売りすれば守ってもらえるさ。エタノールの規律も体を売るのも御免だったからここに来たんだろ? 一人で留守番くらいはやってもらう。武器の使い方は教えたんだから、上手くやりな」


 さあ行こう、とマリンスノーはサマーデライトに背を押されつつ教会を出る。

 扉が閉まる直前まで、ファジーネーブルからの恨めし気な視線を感じていた。


「……本当に大丈夫?」

「うん。感情がピーキーっていうかキレやすいっていうか。まともなとこでの生活が向いてないタイプっていうか。だから攻撃されたら暴走しながら仕留めてくれる。問題無いよ。寧ろ教会が無事な姿で居てくれるかどうかってとこかな」


 にこやかな笑顔で言うサマーデライトに、こういうタイプばっかりな辺り流石スラム、とマリンスノーは少し笑った。



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