ここから、これから
ん~。
嫁ちゃんの退職が正式に決まった。
それまで時折、ぼーっとした表情のない姿を見せていた彼女だったが、次第に吹っ切れるとスッキリした表情をするようになった。
旦那ちゃんは、ほっとする半面、不意に渡された大黒柱のバトンに、プレッシャーを感じやらねばなるまいと気持ちになっていた。
「ねぇ、旦那ちゃん」
「ん?」
「私が辞めたら、いろんなところに旅行に行こう」
「休み取れたらね」
「取ってよ」
「善処します」
「それから・・・本格的に妊活するね」
「え」
旦那ちゃんと嫁ちゃんは晩婚もあって子どもがいない。
そう、お互い残されたチャンスはわずか・・・わかっているけど、旦那ちゃんは、いざ意識すると重く感じた。
彼は渋い顔を見せる。
「・・・だって、辞める理由のひとつだもん」
「うん」
旦那ちゃんは頷いた。
が、子どもが欲しいと思ってくれているという嬉しい気持ち半面、辞める理由にこの件もあったのかと申し訳ない気持ちにもなった。
「さあ、やれなかったことやるぞ~」
嫁ちゃんは笑って見せる。
「嫁ちゃん」
「ん?」
「やっぱ、子ども欲しい?」
「そりゃあね」
「そっか、ありがとう」
ちらりと旦那ちゃんの顔を覗き込む嫁ちゃん。
「あ、辞めるのに、その件もあるのかと気になったでしょう?」
「まあ」
「安心して、会社は辞めたいから辞めるの・・・だったらでしょ」
「うん」
「なんとかなるって」
「うん」
「旦那ちゃん、頼りにしているわよ」
「おう」
旦那ちゃんは頷くも、一抹の不安はある。
これからどうなるのか・・・。
「どうにかなるわよ」
心の内を見透かしたかのようなに嫁ちゃんは言った。
それから、吹っ切れた嫁ちゃんは、残りの仕事を懸命にこなした。
そして、退職の日を迎えた。
20年以上勤めてきた会社を辞める・・・それは並大抵の決断ではないだろう。
旦那ちゃんはコンビニでスパークリングワインを買う。
「乾杯」
退職記念日に2人で乾杯をした。
ここから、これから。
なかなか書き進められない(笑)。




