嫁ちゃんの退職
嵐吹く。
晩婚のふたり。
かみ合わない凸凹コンビも、少しずつ呼吸を合わせて、無事、三年目を迎えた。
結婚してから、常々、嫁ちゃんは「会社を辞めようかな」と旦那ちゃんに伝えていた。
見るからに元気が無くなっていく彼女に、「せっかく、いい役職に就いているんだから頑張りなよ」なんて、簡単に返す旦那ちゃんであった。
しかし、ついにある日。
嫁ちゃんが、仕事から帰るとずっと泣いていた。
「私、もう辞める」
「まあ、落ち着いて・・・せっかく頑張って来たんだろ」
「私の気持ちも知らないくせに!」
「・・・・・・」
旦那ちゃんは返す言葉がなかった。
実は、彼も転職を考えていて、先を越された感があった。
嫁ちゃんは、学校を卒業してから就職し、ずっとこの会社でやってきた、今じゃ責任ある仕事にもついているし、収入も安定している。
出来れば続けて欲しい・・・。
それに嫁ちゃんは3ヶ月には一回、海外(主に台湾)への仕事があり、その間、旦那ちゃんは実家に戻っていい約束だった(これが結構当時ありがたかった)。
と、旦那ちゃん、まずはじめに自分の事ばかりが頭に浮かんだ。
旦那ちゃんにも勿論、彼女が辞めたい理由は分かっている、常々ぶちぶち言っている上司のパワハラに心が限界を迎えているのだ。
だけど、旦那ちゃんには自分のこともあるが、勝手な思いもあり、自分がフラフラと転職を繰り返しているので、嫁ちゃんにはそうなって欲しくないと考えていた。
だけど、心や身体を壊してまで続ける仕事なんて無いということも身に持って十分理解している。
しくしくと泣き続ける嫁ちゃんに、旦那ちゃんは無言のままそっと抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫」
「・・・大丈夫じゃないもん」
「・・・辞めたい?」
「うん」
嫁ちゃんは、はっきり言った。
前は辞めようかな・・・でも、もったいないしねと、何度も口を濁していた言葉。
生半可な気持ちじゃない。
そっか、そうなんだと。
「わかった。大事なのは結局自分、心を病んでまで仕事をする必要はないよ」
それは、旦那ちゃんが体験してきたことだ。
ならば、嫁ちゃんが進みたい道を決めるべきだ。
そして・・・。
嫁ちゃんは、ほどなくして長く勤めてきた会社に退職願い届けを提出した。
あっ、当方、冬休みに入ります。
次回投稿は1月下旬予定です。