表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/65

洋行記編8 日本現地時間8月10日木曜日AM06:20

 一番迫り出しているデッキの最深部は一段高くなっていて階段で2段ほど登った所にあった。

 そこには既に『先客』が数人いて各々私の手取り給料数か月分にもなるであろうドデカい一眼レフカメラや、同じく2~3か月分にはなるであろう望遠レンズを用いて目的の機体を撮影していた。


 時間帯的にもこの展望台の方向が北東方面に向いているから丁度太陽の位置が右斜め前方にあり日の光が逆光になっているので、撮影するにあたっては、ある意味彼等の「腕の見せ処」なのだろう。


 この辺り「も」正直不勉強で、スマホのカメラですら上手く使いこなせないメカ音痴な自分が恨めしい限りなのだが、今更F値だ、露出補正だ、ホワイトバランスだ言われても全く訳が判らないから、多分一生このまんまなのだろう。


 ドリフのくしゃみコントじゃ無いけど万が一にも不用意に近づいて「引っかけた」「すっ転んだ」で彼等の貴重な機材をぶっ壊しでもしたらマジで洒落にならんから、安全とリスク回避の為に少し距離を取り改めて展望台の先端から外の風景を観てみる。


 眼下のエプロンからボーディングブリッジ2基が迫り出していてこれから出発するであろう機体に接続されている。

 左右を見渡せば同じ様にターミナルからガラス張りのエプロンが迫り出していて、そこからボーディングブリッジがそれぞれ2基づつニョッキリと生えていてそれぞれ駐機している機体に接続されている。

 ボーディングブリッジの手前側ってのは大抵ファーストクラスやビジネスクラスの出入り口になっていて、奥側にあるのがプレミアムエコノミーやエコノミークラスって相場なんだが、ボーディングブリッジ自体にそこまでクラスによる装飾等の差別化がされている訳では無いから、単純にエプロンからの導線距離の問題だけだ、とも言える。

 機体の下では様々な空港関係車両がテキパキと働いている。

 そこまで詳しく無いので車種までは判らないのだが、機体のハッチが開いている所から恐らくスーツケース等の預け手荷物を機内に入れる作業を行っているのだろう。

 何せ航空機の機体が大きいから、車両の大きさがまるでミニカーのように映る。


 第3ターミナルは国際線全般なのだが、この時間帯のエプロンにはJALとANAの機体が目立っている様に思えた。

 共に白地のベースカラーにJALは垂直尾翼の『鶴丸』が、ANAは『トリトンブルーのライン』が真夏の強い日差しを受けて白地のキャンバスに反射され眩く輝いて見える。

 こう言うのを観るとやはり空港に来たのだな、と言う非日常の高揚感が自然と湧いて出てくる。


 奥の方に視線を移すと、真正面奥にある平たい建物が羽田空港第1、2ターミナルで、その建物の左側にニョッキリ建ってるトーテムポールみたいのが多分管制塔、でその更に左っ側にある建造物と管制塔の弟分の様なタワーはよく判らんなぁ(注:ネットで調べた限り、東京航空局、東京航空地方気象台、国土交通省東京航空整備事務所の建物のようです)

 で、今私がここにいる第3ターミナルと、正面にある第1、2ターミナルの中間に位置しているのが『A滑走路』って事になる。

 もっとも、滑走路自体には何も突起物等無いから展望デッキから見える視覚情報としては特に何かが確認出来る訳でも無く、単にそこに滑走路が存在するのだろう、と言う事前情報の推測しか出来ない。

 左手側第3ターミナルのエプロン群の向こう側にあるのが『B滑走路』、ここからは全く見る事が出来ないのが第1、2ターミナルの向こうっ側に『A滑走路』と並行関係にある『C滑走路』となる。

 右手に目を移すと、巨大な口を開けた大型倉庫の様な建物群があって、多分これが格納庫なのだろう。


 昔ニュース番組で格納庫のツアーが取り上げられていて、多くの親子が1階フロアからガイドの説明と共に旅客機を見上げ盛り上がっているシーンが報道されていたのを思い出した。

 恐らく子供達にとっては勿論、親達にとっても貴重な体験になった事だろう。

 ニュースで知った時に次回機会があれば申し込んでみようって話を妻としたことがあったのだが、知らない間に忘れてしまい、そのまんまで月日が経っちゃったって数多くあったケースの一つだったりする。


 『B滑走路』と大体並行関係にある『D滑走路』はその向こう側にあるはずなんだが『近視』『遠視』『老眼』のジェットストリームアタックだぜ、な私のポンコツ肉眼で確認出来るはずも無く後は何か海がキラキラしてて綺麗だな位しか判らなかった。


 全ての滑走路を図面で見ると巨大な『口』の様な造りになっているのだが、この事によって北風、南風問わず離発着が可能になっているらしい。

 航空機は基本的に向かい風の方が効率良く離発着が出来る。

 離陸の時は向かい風のエネルギーによって揚力(ようりょく)が強まりより短距離での離陸が可能となり、着陸の時は向かい風のエネルギーが空気抵抗となって航空機の着陸距離をより短くする事が出来る、ってレベルの雑学なら大きなお友達がやたら詳しいから色々と教わったりして知った口だったりするから、やっぱり色んな人と関わって教わる事って重要なのだろう。


 陸上の基地よりも更に離発着の距離が物理的に短い空母の場合、艦載機を発艦&着艦させる時には風上に向かって全速で進み合成風力を生み出す必要がある、よって昔の空母は戦艦よりも馬力が必要って事も同じグルーピーの連中から聞いたお話。

 勿論現代のカタパルト標準装備な原子力空母の場合であれば、むりくりカタパルトで艦載機を射出する力業も可能っちゃ可能なんだが、折角の向かい風エネルギーが得られるのだったら、わざわざガン無視する必要も無いのだろう。

 

 左後ろを振り返れば切り文字看板で『Tokyo International Airport』と書かれている。

 逆に右側の方には何かドームの様な天井が1カ所あって、何かしらの施設なのだろうと思われた(注:PLANETARIUM Starry Cafeと言いプラネタリウムが楽しめるカフェとなっています)


 そんな風に展望台からの全景を楽しんで空港施設を何枚かスマホで撮影している間にも各滑走路から、或いは滑走路へ様々な旅客機が離発着していた。

 つかさっきからポコジャガ離発着しまくっていて、朝っぱらからほぼ1~2分に1機の割合で離発着ってオメェどんだけ過密スケジュールなんだよ。

 スゲェって言うかヤベェな羽田空港(語彙力)

 そして私の横の方ではお目当ての航空機をベストなタイミングで撮影するべく離発着毎にシャッター音を連射しまくって撮影している人達。

 一瞬釣られて私も携帯で離発着する機体を撮影してみようか、と携帯のカメラを離陸したばかりだと思われる機体に向けてカメラをズームにして拡大してみようと思ったのだが、これが如何にも上手くいかない。

 あれやこれやと操作に手間取る間に何処かに行ってしまった。

 ・・・うん、こりゃ駄目だな。人間向き不向きってのがあるんだよ、やっぱり。

 さっさと気持ちを切り替えて空港の全景をじっくりと眺める事にする。


 空港に行くって事自体が出張であったり、旅行であったり以外では今まで無かったし、殆どのケースで同乗する家族であったり社員であったりの存在があったから、考えてみればこんな感じで1人空港の屋上展望デッキで青空の下、飛行機の離発着を観る機会なんて無かったんだよなぁ。

 であるならば、WiFi機材を受け取る為に1時間のロスタイムが生じた事自体、実はそんなに悪い話では無かったのかも知れない。


 ・・・ああ、そっか。

 今ここを離れて、他のフロアに移動したら、確実に暫くは此処に来る機会が無いのか。

 羽田空港に来る機会は仕事であれプライベートであれ今後私の人生の中ではそれなりにあるのだろうけど、こんな形で『1人自由気ままに展望台を散策する機会』って事になると、実は私の残された時間の中でそんなにチャンス無くね?って事に今更気が付いた。


 これもまた一つの『一期一会』。


 今この場で飛行機の撮影に勤しんでいる人達も、地上で働く空港のインフラ関係者達も、引っ切り無しに離発着している旅客機の乗客や職員達も、そして今この場で突っ立っている私自身も、私にとってのそして誰かにとっての『一期一会』の縁なのかも知れない。


 当たり前過ぎて、でもそれ故に日常の喧騒と疾風怒濤の忙しさの中で知らない間に忘却のタンスの隅に追いやられていた大事な小箱がポンと目の前に出て来た様な感覚。


 今回の旅行だって、私にとっても父にとっても息子にとっても行く先々で出会うであろう、体験するであろう様々な出会いが、どこかで交わりそしてそのまま通過してもう二度と出会う事が無い一度きりの縁になる可能性が高い。


 利用する鉄道や地下鉄やバスの乗務員達、ホテルのスタッフ達。

 1皿の料理、1杯の美酒、それに携わる人々。

 博物館や美術館の数々の傑作であったりそれ等の維持管理に関わる職員達。

 各種店舗の従業員や街ですれ違う様々な人種や価値観の人達。

  

 今ここにある、そしてこれから出会うであろう全てが、嬉しくって悲しくって、楽しくって寂しくなってきた。


 おもしれー。

 だったら、今ここにいる五十路のオッサンが使い古したポンコツ五感の全てを使って、それら全てを出来得る限り堪能して喰らい尽くしてやろうじゃねーか。


 「・・・故人(こじん)西のかた黄鶴楼(こうかくろう)を辞し、煙花(えんか)三月(さんがつ)揚州(ようしゅう)に下る。孤帆(こはん)遠影(えんえい)碧空(へきくう)に尽き、()だ見る長江(ちょうこう)天際(てんさい)に流るるを・・・」


 私の独り言も何事も無かった様に碧空(へきくう)に尽きていく。

 最後にもう一度抜ける様な夏の青空を見上げ、チリチリと感じる日差しの強さを堪能し、展望デッキから望む空港の全景を離着陸する旅客機の轟音をこの目に焼き付け耳に刻み付けた。

 そして一度大きく深呼吸をし、出入り口に向かって歩みを進める。

 もう二度と振り返る事は無かった。


>手取り給料数か月分にもなるであろうドデカい一眼レフカメラや、同じく2~3か月分にはなるであろう望遠レンズ

 

 私の知人がこれでして、「これは〇〇用、これは△△用」とカメラもレンズもそれぞれ用途が違っているそうです。

 で累計投資金額は軽く高級外車1台分以上だそうで、ただただビックリですね。


>今更F値だ、露出補正だ、ホワイトバランスだ言われても全く訳が判らない


 ここ15年で言えば新海誠監督の作品なんかで出てくる風景映像は明らかに「実際の私達の目で見た被写体をそのままリアルにアニメに取り込んだ」では無く「私達がこうであって欲しい、この方が絵的に美しい映像を補正してアニメに落とし込んだ」画像の見せ方になっている、ってお話があってへぇ成程と得心した覚えがあります。


 私達が肉眼で観た映像と、後日脳内で補正され記憶される映像とのギャップって実際にあるんだろうし、技術が時代に追いついて追い抜かしちゃった感じはしますね。


>ドリフのくしゃみコント


 加藤茶の傑作コントの十八番ですね。

 昭和の棺桶に片足突っ込んでる私ら世代からすればあのコントを見ると「実家に戻って来た」様な安心感がありますw


>朝っぱらからほぼ1~2分に1機の割合で離発着


 これ日本に戻ってからググってみたんですけど、ホントに朝っぱらから国内外の便が1~2分に1便位のタイムスケジュールで離発着してるんですよね。牛丼屋かよ。


 こんな過密スケジュールを『日常のタスク』にしている空港関係者、航空関係者の皆様の尽力には頭が下がる思いであるのと同時に、羽田&成田も今後更なる拡張を図るってのは限界に近いんだろうなぁって印象を受けました。


故人(こじん)西のかた黄鶴楼(こうかくろう)を辞し


 李白の黄鶴楼送孟浩然之広陵(黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る)ですね。

 七言絶句の傑作の一つでもあります。

 個人的に漢詩の中でも李白は結構好きな詩人で、若い頃はそれを肴に酒飲んだりもしてました。

 上手い漢詩を詠むと美味い酒が欲しくなり、美味い酒を飲むと上手い漢詩を諳んじたくなるのは人情ってもんですw

 李白だと他には月下独酌なんかも好きなんですが、あれは五言古詩で結構長いので高校生の頃は覚えていたんですけど、今は諳んじる事は出来ないですねぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ