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洋行記編6 日本現地時間8月10日木曜日AM06:00

 エレベーターを降りアクセスホールを抜けると同時に、眼前には左右だけで無く上にも広がっているチェックインカウンター群が待ち構えていた。


 盆暮れの楽しいイベント以外にも仕事等でもまあまあな頻度でお世話になっている東京ビッグサイトの東館レベルの高さ(注:東1~6ホールの天井高が17~31mだそうです)に負けず劣らずの天井はまるで大きな帆船の真っ白いキールみたいな造りになっていて、それが『何艘』も接岸されている様は、さながら私達が海底から船底を見上げる様な形で窓の向こうに広がる空を見渡す様な錯覚に陥る。

 中央部分の『船底』辺りはそこまで天井の高さがある訳では無いのだが、『船首』『船尾』の方に向かうにつれ指数関数的に空への開放度が高まって行き、このフロアに訪れる人達に対し感覚的な広さを感じさせる造りになっていた。


 昔、成田空港から海外旅行に行った事が何度かあったのだが、第1ターミナルも第2ターミナルもチェックインカウンター群にある天井の格子が特徴で個人的には『グレーの格子天井』と言う印象が強い空港だった。


 それと比較するとこの羽田空港第3ターミナルのチェックインカウンターの色は明らかに『白』を特徴としていて好みは分れるところではあるが、今回の旅行に関してだけで言えば「こっちの方が好ましい」雰囲気だと言える。


 8月の朝6時前にはもう夏の日の光が燦燦と窓を通して入って来ていて、その日差しの強さが直接、あるいは床や壁や果てはチェックインカウンターの天井部分に反射される形で『キール』の白さを一層際立たせていて、その眩い白い輝きが私の心の中に自然と昔アメリカに在住していた時に車でドライブ中、CDラジカセから私好みの歌ばかり集めたオレ様楽曲セレクションをカセットテープで流しながら、歌詞の全てを覚える程に何度も何度も聴いてそして口ずさんだ、あの時の夏の海の歌を、空の歌を響かせた。


 羽田空港第3ターミナルでのJALのチェックインカウンターは「F」カウンターとなっていて、アクセスホールを抜けチェックインカウンター群を見渡した時に左前方に看板が確認が出来る。

 一々端の方まで歩く手間が省けるのは誠に有難い話なのだが、どの道私の場合はチェックイン後に午前7時まで1時間近くどこかしらで時間を潰してWiFiの受け取りを行う必要があったから、余り恩恵を受けた、と言う認識にはなれなかった。

 いやぁ、もっと早くに気が付いていて自宅に郵送してりゃなぁ・・・

 「今回の失敗データの内容には満足してます。次は失敗しません。ご期待ください」

 と一人嘯く。

 とどのつまり、私って存在はこの年になっても本質的には痛い経験を積み重ねる事でしか学べない凡愚なのだ。


 一番最初にチェックイン受付が可能な時間は午前6時からとなっているのだが、父が保持しているグローバルクラブの受付カウンターには私達が到着した時には既に御同輩4~5人程が並んでいた。

 始発の私達が最前線では無いって事は、恐らく品川や蒲田始発で来た人達か、或いは自家用車やタクシーを利用した方達なのだろう。

 時計を見たら午前5時45分を過ぎたあたりなので、これから大体10~15分程待つ事になる。

 予定では午前6時にチェックインを開始して、スーツケースを預けた後にセキュリティーゲートを通過、そのまま出国審査のゲートを通過した後、ラウンジに移動、と言う流れになっている。

 ああ、その前に俺が7時以降のセキュリティーゲートになる事を親父殿に伝えておかないとな。


 「えーっと、これから6時にチェックインする段取りだけど、俺の場合はチェックインしてスーツケースを預けてから貴方達2人とは別行動で午前7時からこのフロアでWiFi機材の受け取る作業があるから、そっからセキュリティー、出国審査って流れになる。だから、両名で先にラウンジの方に行っててくれ。ラウンジ前に到着したら携帯で呼ぶから、そしたらラウンジ受付の所まで来て頂戴」

 「なんだ、一緒に行けないのか」

 「ああ、今回の旅行で必要な機材の受け取りが午前7時の開店直後からってなっているから、どっかで1時間ほど時間を潰すことになるな」

 「まあなんだ、その『わいふぁい』ってのも俺は全く良く判らんのだが、お前が必要って事は今回の旅行で絶対に欠かせないモノって事なんだろ?じゃあ仕方が無いな」


 うん、清々しい程にWiFiの存在も知らないし解る必要も感じていないってのが再確認出来て、息子としても頭抱える程とても嬉しいよ。 

 まあ、適材適所とも言えるんだろうけど、世の中には八十路近い人でも、ネット関係に詳しい人もいるのだから、向き不向きってのは結局一生ついて回るんだろうな。


 そうこうしている間にも、JALのチェックインカウンターの中ではスタッフ達がキビキビと準備に勤しんでいた。

 見ていると単にカウンターでパソコン立ち上げている訳でも無く、それぞれが色々と動いているのだがルーティンとして動いているのであろうか、バタバタした様子も無く次にこれをする、はいその次はこれ、と言った流れが出来ている様だった。


 そして午前6時、定刻通りにスタッフ達が一列横隊で並び一斉に『おはようございます』と元気に挨拶をしてくれる。

 この頃には私達の後ろにもまあまあな人数が並んでいたし、エコノミークラスのチェックインカウンターにはそれ以上の人数が並んでいて、何となくだが毎年盆暮れに行われる楽しいサブカルイベントの午前10時に開催する瞬間に立ち会っている様な印象を受けた。

 うん、今年の夏イベは明後日8月12日土曜日も翌日13日日曜日も丁度ニューヨークにいる頃なので、「今回は一回休み」状態だったりする。

 無論事前にスケジュールが判っていたから、「そっち系」の友人達には今回の旅行の件とイベント参加辞退の話は通して置いてある。

 友人達は揃いも揃って「そっち系」なもんだから年末イベントでの逢瀬の時には、もしニューヨークでイントレピッド航空宇宙博物館、ボストンでUSSコンスティテューション号博物館に行く機会があれば、色々と内部の写真を撮影して彼等に見せようと思う。

 少なくとも一時盛り上がる酒の肴位にはなるだろう。


 先に並んでいた人達のチェックインが終わり、いよいよ私達の番になる。

 予めプリントアウトしていた予約票とパスポートを提示し、搭乗券を受け取る。


 そう言えば昔、私が学生の頃位までは赤のカーボン紙で打刻された3~4枚複写の航空券をチェックインカウンターに渡して搭乗券を貰っていたっけ。


 航空券の綴りの表紙に『IATA』のロゴが印字されていたり、旅行の1週間位前までにはリコンファーム(予約再確認)が必要だったり、水に濡れてカーボン紙が引っ付いちゃうと1枚ずつ切り取りが出来なくなってしまうのでおっかなびっくりドライヤーで乾かしたり、団体旅行の場合だと添乗員さんが無くしたら大変だと全員の航空券を大事に抱えていたり、チケットの内容変更であまり時間が無い場合だと添乗員さんが航空会社にわざわざ出向き新たに内容を書き換えた航空券を受け取りに行った、なんてエピソードが色々とあったりで、今と比べて明らかに『現物の航空券』の重要性が高かった時代だった。


 そう言う意味では今のeチケットとかメチャクチャ利便性が良くなった訳なんだが、逆に言えば飛行機による移動それ自体がコモディティ化した、もう一寸強い言葉で言えば陳腐化した、と言う証左でもあるのだろう。

 まあ、こんな発想そのものが昭和メンタル由来な事は否定はしないけどね。


 各人のスーツケースをカウンター横の計測器に乗せる。

 無論様々なお土産を想定しているからスーツケースの中身は空間もスッカスカで空いているし、重量だって軽いものだから、何の問題も無くクリアしタグを付けて預かってくれる。


 これで、チェックイン作業は完了だ。

 これで、普通は保安検査場に向かうのだが、私だけ別行動。

 先に保安検査場に向かう列に並ぶ2人に確認を取る。

 チェックイン開始午前6時からそれほど時間が経過していないので、保安検査場の列はまだそれほど形成していなかった。

 2人はそのまま列に向かい、私は彼等と並行する様にベルトパーテーションの外で歩きながら、


 「じゃあさっき話した様に7時過ぎて機材を受け取ってからセキュリティーを通るから、ラウンジに到着してから電話するよ」

 「お前ラウンジの場所わかるか?」

 「ああ、以前中国に行った時ファーストクラスラウンジに行った事あったし、サクララウンジも場所自体は同じだろ?」

 「いや、違うらしいぞ。出国審査を出て直ぐにエスカレーターを昇れば着くファーストクラスラウンジよりももっと奥の方にあるらしい」

 「ん、判った。まあ地図見りゃ判んだろ。んじゃ後程な」


 すると、さっきコケた時に少し強く指摘された事を根に持っていたのか、息子が


 「あばよぉーっ、俺達は先に行ってるから、一人で寂しく来るんだなぁ。もっとも父さん来た時ゃ俺達もう腹マンでラウンジ出てる頃だろうけどなぁっ」


 と喜色満面でドヤりながら、親指使って首切りジェスチャーまでカマシて来やがる。

 つかオメェ、今年19だろうがよ。

 脳味噌ランドセル背負った小学生かよ。

 でもって隣では親父殿が、豹変してちょーしこいてる息子殿の様子を「なんなんだ、コイツ」って顔して見てる。

 ええ、目の前のコイツが貴方のカワイイお孫さんですよ。

 今回の旅行で色々と「思い知って下さい」ね。


>CDラジカセから私好みの歌ばかり集めたオレ様楽曲セレクションをカセットテープで流しながら


 私がアメリカ在住していた時期は1991年から1995年の平成初期の5年間だったのですが、当時はMDもあった筈なんですけど、車のステレオとかもまだまだカセットテープ全盛でした。


 まあ、アメリカ市場は中古車の割合が結構多いってのも理由の一つなのかも知れません。


 ですんで、日本から大量に持ち込んだCDや現地で購入したCDを使って、ダブルカセットCDラジカセで空のカセットテープの残時間量を調べながら、好きな曲を演奏時間や曲間の待機時間等も計算しながら如何に効率良く好きな楽曲を出来るだけ多くねじ込むか、に時間と熱意を掛けていたものです。

 でもって、完成したオレ様楽曲セレクションテープを延々と演奏させながら車の中で思う存分一人ジャイアンリサイタルですよw


 なんせあの国は「ちょっとのお出かけ」で片道2時間とかザラなので、道中歌でも歌ってなきゃやってらんねぇって身も蓋も無い理由があったりするんですけどね。


>次は失敗しません。ご期待ください


 はい、プラネタスのロックスミス氏ですね。

 ネット上で、賛否両論、毀誉褒貶の激しいキャラで、逆に言えば当時の日本人オタに「ブッ刺さった」キャラだったりします。

 仮に何かしらのプロジェクトを国家であったり世界であったりがバックボーンとして進めなくてはならない時にいると、その並外れた能力を用いてあらゆる犠牲を排し着々と進めていくのだろう事は容易に想像出来るのだけど、個人的にはそのプロジェクトには断固として関わりたくないし、何なら半径10m以内に居たら絶対にアレルギー反応が出てしまうレベルで困った人である事も事実だったりするw


>毎年盆暮れに行われる楽しいサブカルイベントの午前10時に開催する瞬間

 

 そして、最終日午後4時のイベント終了の時もそうなんですけど、皆で拍手してイベントの開始と終わりを迎えることが出来るのって結構楽しいもんです。

 

 やっぱり『祭』って感じがするんですよね。

 年々、夏の暑さや冬の寒さが体に堪えて来ている事は、取り敢えず銀河系の彼方にぶっ飛ばして置くw


>赤のカーボン紙で打刻された3~4枚複写の航空券


 あの当時をリアルタイムで生きていた人達にしか判らん話だと思うけど、あの航空券って『独特の臭い』がしていませんでしたっけ?


 もう嗅ぐ事の無い匂いが果たしてどんな感じだったっけ?って今となってはもう思い出すことが出来なくなっているのですが、間違い無くあの当時『あの臭い』を嗅ぐと「ああ、これから海外旅行に行くんだ」ってパブロフの犬の様に認識出来ていました。


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