洋行記編2 日本現地時間8月10日木曜日AM04:40
この時期ならではの酷暑を避ける為に早朝から走る何人もの市民ランナーに追い抜かれながら都営浅草線の浅草駅エレベーター入口であるA2bに到着し、降ボタンを押す。
家からここまで来るのにもう背中の方が少し汗ばんで来た。
この時期に怖いのが大量に汗をかいた後に冷房で体を冷やしてしまい風邪をひいたり、腹を下したり、体調悪化に直結する事だったりする。
特にアメリカの商業施設内にある店舗は大抵ギンギンに冷房を利かせているのがデフォなので、この辺りを気を付けておかないと意図しない所で外でかいた汗が一気に冷たくなり気化熱で想定以上に体温が低下する事による体調悪化、ってシナリオはこの時期の海外旅行で避けなければならないトラブルの一丁目一番地だったりする。
これを避けるには兎に角、かいた汗を小まめにタオル等で拭き取り体の表面が過冷却にならない様にする事と、室内ではウインドブレーカーやパーカー等で冷房の風を避ける様にする等が挙げられる。
地下の改札階に移動しゴロゴロとスーツケースを運び改札を通ろうとしたら後方から
「ちょっと、父さんパスモにチャージしてくれよ」
と息子の声が聞こえて来た。
「は?オメェ今回の旅行分での電車賃位入れてるんじゃねーの?」
「ねーよ。だから入れてくれよ」
「テメェで入れろし」
「だって俺米ドル入ってる財布にどーせ使わねーと思って今回日本円1円も入れずに置いて来てるもん」
・・・これである。
何と言うかワザとやってるんだとすればまあまあな小悪党だと思うし、意図して無いんだったらやっぱ想像力の足りないポンコツ野郎である。
でもってこれが私の息子である。
思わず嘆息し、我が家の教育の賜物であるバカ息子相手に財布から『野口英世』を2枚出して渡しながら
「チャージする時に領収書を寄越せよ」
とだけ言って渡す。
「うぃー」
とだけ言い券売機に向かう。
そうしている間にも定期的に改札に向かう人が数人いて、恐らくAM05:03発である快特の羽田空港行に乗車するかAM05:20発アクセス特急成田空港行のどちらかなのだが、まだ5時前と言う事を考えれば恐らく羽田空港行の乗客なのだろう。
ちなみに快速特急羽田空港行は京成高砂駅が始発で、アクセス特急成田空港行は品川駅が始発となっていて、両方共に京浜急行、京成線を利用して羽田空港、成田空港にアクセスする手段としては最も早い時間に到着する電車になる。
その為、羽田空港行の場合は始発であるにも関わらず結構な人数が乗車していて、恐らく品川駅でタイミング良く下車する乗客の座っていた席を確保することが出来なければ、大抵羽田空港まで『立ちっぱ』になる可能性が高い。
これは、コロナ前に中国に出張に行く時からずーっと同じ状況だったりする。
やがて券売機でチャージし終えた息子が領収書を持ってこっちに寄って来た。
「ん」
とだけ言い領収書を手渡す。
私の財布に仕舞い終えてからスーツケースを持って、
「ああ、そうだ、ここから羽田空港までトイレとか無いけど、今最後に行っておくか?」
とA2b入り口近くにあるトイレを指差して念の為確認しておいたが、
「いい。大丈夫」
とだけ答えたので問題無いと判断し、そのまま改札を通り奥にあるプラットホーム行きのエレベーターに向かう。
駒形橋口の改札から入り階段、またはエレベーターでプラットホームに降りると丁度8両編成の2号車付近になるから、そのまま乗車すれば羽田空港第三ターミナル駅で改札口の最寄りに都合良く停車するのでそのまま駅のプラットホーム内を移動する事無く、階段やエレベーターを降りたら目の前の車両に乗車すれば良いだけだから結構便利なんだよね。
エレベーターを降りるとホームには5時前と言う時間を考慮したらまあまあな人数が到着する電車を待っていた。
で当たり前だが2号車付近にその2割前後、1号車、3号車付近にその半分以下位の乗客が並んでいて、改めてこの始発列車のニーズの多さに驚いた次第であった。
2019年頃までとは言えないだろうが、確実にコロナ禍の影響は低下しつつある事がこの事からも伺えた。
今日平日なんだけどねぇ・・・
「ええぇ、これマジかよ」
と息子は一寸引き気味だったりする。
「そらこの始発が羽田空港に行くのに一番便が良いからニーズがあるんだよ。じいじや父さんが中国に出張に行っていた時とか平日でもこれ以上の乗客数だったんだぞ」
「じゃあこれ座れないの?」
「まあ座れないと思って間違い無いだろうねぇ。運が良ければ品川駅で降車する乗客がそこそこいるだろうから、そのタイミングで席に座ることが出来るかも知れないけど、あんま期待すんな」
「って事は運が悪いとずーっと立ちっぱなしって事?」
「ああ、そうだね。でも言うて40分位だし(注:約38分位です)立ってても問題無いだろ?」
「はぁっ?最悪じゃねーか?」
イヤイヤ、最悪ってのは悪党共が電車を復讐の名を借りた強盗ごっこの出汁の為に爆破させちゃうレベルの事だろうよ。
あの映画の主人公の生え際が明らかに後退していたのも哀愁を誘う演出で落涙を禁じえなかったぜ。
「何でもかんでも『さいあくぅ~』とか言うのガキの証拠だからさっさと卒業した方が良いぞ」
「何でもかんでも『卒業した方が良いぞ』とか説教垂れるの老害の証拠だからさっさと止めた方が良いよ」
うんこの返答、紛れも無い我が息子だ。
面白いヤツだ。気に入った。ブン殴るのは最後にしてやる。
そうこう茶番を繰り広げている内に父がやって来た。
移動し易さを基準としたスポーティーなスラックスにポロシャツ、それとウインドブレーカー&帽子と言うラフな格好に大きなスーツケースとショルダーバッグと言う出で立ちだった。
「おはよう」
「おう」
「機内とかそれで寒くねーの?」
「問題無いだろ?俺が中国に行く時とか夏場は大抵こんな格好だし。まあ違いがあるとすればポロシャツがボタンダウンシャツ、ウインドブレーカーがジャケットになる位か?て言うかお前こそ普通のTシャツ1枚だけど、汗かいたら小まめに拭いとけよ」
昔も昔、大昔に私がまだ可愛げが残っていた子供の頃、外で遊んで汗でグショグショになった状態で家に戻って暑いしくたびれたしで着替えもせずに冷房に当たりっぱなしで昼寝なんかしたもんだから夏風邪拗らせてエライ目に遭った事をまだ覚えていやがる・・・親ってそう言う存在なんだろうけどさ。
「ああ、大丈夫だよ」
「うむ」
とだけ言い隣にいる息子に目線を移すと一転一気に破顔し『干し柿よりもクソ甘い、カモにしかならない役立たず爺さん』にクラスチェンジしてしまった。
いやいやアンタ切り替え早過ぎだろ。
「おうおうおう!オメェ元気かぁ!?」
と一気に孫である息子に近づいて両手で頬を撫で繰り回す。
当然息子はそう言うフィジカルコミュニケーションを嫌がるのだが『なんせ今回の旅行における大スポンサーだから』『久方ぶりに出会う祖父だから』イヤイヤ我慢しているのがはっきり判って個人的に『非常に微笑ましい』のだ。
うんうん良いぞ良いぞこういうの。
取り敢えず2~30分ほど、ひたすらジイジに撫で繰り回されとけや。
そうこうしている内に羽田空港行の電車がホームにやって来た。
うん、コロナ禍前程では無いにせよ、まあまあ乗車しているね。
こりゃ間違い無く座れないだろうな。
「おい、電車来たからマスクしとけよ」
「んんっ」
マスクを面倒くさそうに嫌々する息子に対し、更に耳んとこのヒモを引っ張って弄ろうとくだらねぇイタズラしているクソ親父殿。
オメェ落ち着け。
まるで初の合コンに舞い上がる陰キャ毒男彼女いない歴=年齢のムーヴそのものだから、ちったぁ落ち着け。
電車が到着して中の様子を見てみたらまあやっぱり空いている席は無い感じだ。
当たり前だが乗客の殆どがマスク装着済みだったりする。
電車に乗ってからロングシートの真ん中辺りに移動し、品川駅辺りで降車する人が出る可能性にワンチャン賭けようとする中、定刻通りに電車は出発した。
座っている乗客も立っている乗客も、この車両の場合まあまあな割合でスーツケースを持っているので彼等彼女等は間違い無く羽田空港まで一緒だろう。
京急品川駅からJR品川駅に乗り換える人達はかなりの確率で停車場所が丁度改札前になる4、5、6号車に乗車するケースが多く、そうなると当然乗車率が高い為混雑を少しでも避けようとする乗客がその前後の2~3号車や7~8号車に乗車するケースもあったりするので、『スーツケースを所持していない座っている乗客の周辺』が品川駅で座る事が出来るチャンスゾーンだったりする。
まあ、普段ほとんどの人にとってまーったく使わないライフハックではあるのだがコロナ禍前は月に2回、下手すりゃ3回も中国行ってた会長にとっては知ってると一寸お得なレベルで便利な情報だったりする。
とは言え品川駅から羽田空港第3ターミナル駅までは10分ちょいだから(注:13分位です)無くても問題が起こる話では無いのだけどね。
「お前、昨日はちゃんと寝れたか?」
「まあまあ寝れた」
「そうか、今回飛行機で13時間も移動するから、機内で眠れなくてもキチンと目を閉じて休んでおかないと時差ボケとか出て来るから気を付けるんだぞ」
「判ってる」
「それとエコノミークラス症候群とか気を付けないといけないから、定期的にトイレに行ったり、水分取ったり、足踏みしたり踵の上げ下ろしとかするんだぞ」
「知ってる」
と孫に合えた喜び全開で色々話しかけずにいられない甘々ポンコツジジイと、元々大した容量が無い『愛想ゲージ』がとっくにゼロになってしまい、何時もの塩対応しか出来ないポンコツバカ息子による失笑間違い無し、寄席ならブーイング必至な掛け合い会話劇を横で聞かされながら電車は東日本橋の駅を出発した。
>『野口英世』を2枚
個人的にはこの前の夏目漱石の方が馴染みが深かったりするんですけど、最近の北里柴三郎に関しては色が歴代の1000円札の青系統の色だから、ああこれは1000円札なんだな、と認識出来るんですけど、それが無いとあの髭のオッサン5000円の風格があるもんでして、結構間違い易いんですよね。
多分、新渡戸稲造の影響が大きいのかも知れません。最近では樋口一葉>津田梅子と来ているので、『5000円札は女性』と言う刷り込みが今後時間の経過と共になされるのかも知れませんが。
>電車が復讐の名を借りた強盗ごっこの出汁の為に爆破されちゃう
『世界一、運の悪い奴』の3作目ですね。
悪党が陽動で多数の人達を巻き込む惨事を企てる演出は2作目もありましたよね。
そう言えば今作内で「3ガロンと5ガロンの容器を使って、4ガロンの水を量りとれ」って謎かけがありましたけど、最近同じ様な問題に遭遇して直ぐに思いつかなかった事があって、いやはやマジで老化怖ぇぇえってなった次第。
>生え際が明らかに後退
とは言えとは言え、ブルース・ウィリスやジェイソン・ステイサムはあの後退した生え際があるからこそカッコイイという稀有な存在だったりします。
個人的には『キングスマン』のマーク・ストロングや『セッション』J・K・シモンズ辺りも『ヤベェ』感じがして好きですね。
全員共通なのは体形がオークでは無い事でしょうか?・・・こっち見ないで
>面白いヤツだ。気に入った。ブン殴るのは最後にしてやる。
はい、元カリフォルニア州知事だったあの大物ハリウッド俳優の個人的傑作5選に入る作品中のセリフですね。
あの映画の名台詞が今でもポンポン出て来るのはマジで昭和リトマス試験紙だったりします。
>当たり前だが乗客の殆どがマスク装着済みだったりする。
この時はインバウンド来日の外国人がまだ少なかった時期ではあったんですが、今と比べて明らかにマスク装着率は高かったですね。
個人的には今でも電車やバス等の公共交通機関内ではマスク装着をしてたりしていますね。
コロナ禍以降のクセの様なモノで、別に積極的なモチベーションがあって装着している訳では無いんですけど、なんだかんだ習慣として使用しています。