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段取り編30 自分で考え、自分で行動して、自分の責任の下、失敗出来る幸せ

 翌日、会社に早い時間出社して、会長室のパソコンから航空券の手配を行った。


 アメリカ国内の航空会社ではアメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空が『御三家』と言われている存在で、大体この3社で米国内主要都市の移動は事足りる。


 ニューヨークからボストンへの移動に関しても、ニーズがあるからか、早朝から深夜に至るまで各社がシノギを削って仁義なきビジネスを展開している。


 よって、お目当てにしている11:00発の便も残席に余裕を持った状態で予約する事が出来た。

 恐らく日本人にとって東京>名古屋に新幹線で出張に行くような感覚なんだろうな。


 定期的に海外の人達から、日本の新幹線が複雑怪奇な芸術品クラスの運航ダイヤ等で運用されている、と言う話が驚愕の対象にされている、って話を聞いた事があるが、私からすれば全米中津々浦々に張り巡らされている空港ネットワークも含めここまで巨大な航空インフラを過密スケジュールでしかも日夜大量に運行し続けられる事自体、十分過ぎる程チートスキルだと思うぞ。


 8月14日月曜日AM11:00ニューヨーク ラガーディア国際空港発

 PM12:30ボストンローガン国際空港着

 デルタ航空 DL5844便 エコノミー

 使用機材:ボーイング717-200


 ビックリしたのが航空券自体は1人あたり16,000円程で販売されていたのだが、航空券取扱手数料が1人あたり税込みで11,000円掛かる事だった。

 恐らく移動距離とか関係無く単純に「1回の航空券発券コスト」がそれ位必要なのだ、と言う事なんだろう。

 これアクセスの悪い場所が目的地で複数回トランジットとかストップオーバーとかしたらチケットの手数料だけでドエライ事になるんだろうなぁ・・・


 「で今買ったチケットで大体の作業は終わったのか?」


 会長はボトルからガムを2~3粒ほど取り出し、口に入れる。

 私が左手を出すとボトルごと手渡したのでふたを開け4粒取り出し口の中に放り込み、会長の手にボトルを戻す。

 じんわりとミントの強い刺激が口腔内に伝わって来て唾液腺が大急ぎで仕事を開始してきた。

 全部を一度に噛みだすと辛味が強いし味が無くなるまでの時間が早く勿体無いので、ハムスターよろしく3粒を頬袋に仕舞い込んで1粒だけを表面の糖衣を嚙まずに舌で味わう。

 表面の味が無くなった時に初めてゆっくりと噛みだす。

 でそれを残りの3粒でも同じ様な事をすれば、結構長く味を楽しむ事が出来るんだよね。


 「いや、でも後早い段階で終わらせなければならない予約はヘリツアーとナイトクルーズ、そしてジャズクラブの3つだけになった。それ以外のメインイベントやサブイベントに関しては日時や時間の指定が無いイベントだからスケジュールの段取りだけ準備して置けば、後は現地でチケットの購入も出来るし、観光名所を複数個所回る事でお得になるパスもやっぱり現地に到着してからネットで購入する事も出来る。まあ、やっとこさっとこ目処が立ったかな」

 「おお、そうか。まあ、間に合って何よりだ。こっちも銀行に行ってお前の方で前に言われた様に米ドルの現金パックを買っておいたぞ。しかし本当に、1,000ドルパックじゃなくって300ドルパックと100ドルパックの組み合わせ、と言う買い方で良かったのか?」

 「ああ、それで良いよ。以前言ったけど1,000ドルパックだと100ドル札が多くなってしまうから、逆に不便なんだよ」

 「日本円の感覚だと10,000円札と変わらないんだがなぁ・・・」

 「向こうだと日常生活の中では逆に100ドル札を使うケースの方が少ないと思うよ。10ドル20ドル札が現金で使う頻度が一番高いんじゃないかな。それに1ドル札、5ドル札はチップでよく使うからねぇ。小口のパックを複数用意しておく方が便利なんだよ。以前ちろっと言ったけどアメリカだと高額支払いの場合は大抵カードかパーソナルチェック(注:個人小切手)での支払いになるから、現金至上主義の日本とは違うんだよね」

 「取り敢えず、金庫の中に入れて置いて旅行前になったらお前に渡す様にする。それと私の方で余分に米ドルを買って置いたから、その時が来たらお前の方でアイツに1,000ドル分を渡してやりなさい」


 へ?1,000ドル分を息子に?


 「その理由は?別に買い物云々で言えば彼が買いたいものは私のカードで購入するし、彼に現金を渡す意味が知りたいんだが」


 そう言うと、会長は椅子にもたれながら溜息をつく。


 「理由があるとすれば、正に『そういうところ』だよ」

 

 いや判らんって。

 そんな私の頭ピヨピヨ状態を見て、


 「海外に行ってアイツが自分自身で他国の通貨を使用して彼自身が自分の考えで単独で買い物をしたり、サービスを受けると言う経験をお前等はさせた事が無いだろう」

 「そらぁ、そうでしょ?今まで海外旅行に行けていたのはコロナ禍前の話だし、その頃はアイツは15歳よか前だから、そもそも保護者の下で行動する事を求められている年代だよ(注:アメリカでも州毎に法律が違うようですが、日本の旅行会社主催のツアーの場合は「15歳未満の参加者は保護者の同行が必須」が一つの基準の様です。ただ、個別の事情も反映されるようなので、くれぐれも必要な場合は御自身で御確認下さいます様お願い致します)」

 「であってもだ。その家族旅行の中であっても一定の現金を彼に渡して、お店で自由に買い物とかする時間も機会も与えようと思えば出来たはずだぞ」


 そう言うと、椅子の背に背中を預けもたれ掛かった。

 ギッと短いスプリング動作音が部屋にこだましてして椅子が後ろにたわむ。

 おもむろに一息ゆっくりと吐く。


「多分お前等からすれば眉をひそめる様な下らない買い物をするだろう。だが、それこそ幼い時や小学生の時、中、高、大学生の時、それぞれの時期に『そういう経験』をさせてやる事が、失敗を数多く学ばせてやる事が、彼自身の物事を自分の目で見て、自分の今まで学んで来た事、積み上げて来た事をベースにして、自分自身で考えて、自分自身の責任で行動をし、その結果を背負う事が出来る様な訓練になる、と俺個人は思っているぞ。それは何も今回の様に小遣い云々の話しだけじゃない。色々な事について彼に『失敗させてやる様な経験』をお前達は余りにも彼に対してやらなさ過ぎた、と思うがね」


 まあ、実際に直接彼の育児&教育に関わっていない父からすれば、その様に思えるシーンが幾つもあったのかも知れない。

 ただ、当然我々夫婦からすれば納得出来るものでは無かったけど。


 「こっちはこっちで、一応は彼にその手の経験を積ませているつもりだけどね。旅行だってスカウト活動だって色々なお習い事や学校のお友達との交流だってその一環だ。それに、失敗にしても本人にとって良い経験値だったり注意しなければならない警告になる様なものもあれば、単純に危険なだけのリスクにしかならない事だってあるでしょ?そう言うのを事前に排除しておくのは親としては当然の事だとは思うけど。後、リスクコントロールの面でやらせない事に関しても、何故やらせないかについてその危険性やリスクについて説明はし続けているんだけどねぇ・・・」

 「ああ、そうだろう。そんなものは出来て当たり前の話だ。だが、第三者的な視点で見て他の色々な親族であったり知人であったりの子供達と比較した時に、俺はお前達の息子が過剰に『枠内の範囲でしか自由と責任と失敗する経験を与えていない』様に見えるんだがね。だから今回『その枠外』の経験の一環として『自由な金銭と裁量を与えその使い方を人に見られる』と言う経験を俺個人はアイツにさせてやりたいと思っている。そう言う事だ」


 ああ、そうかい。

 コッチからすれば十分余計なお世話ではあるし、コッチはコッチで色々考えて行動しているんだよ、知った様な口利くなバカヤロウ、と頭の中で10回位復唱しているのだが、まあ、実際に息子が現地でアホな買い物やって無駄に金を散財させたとしても、我が家に直接的な経済的リスクが掛かる訳でも無いし、散財用の無駄金くれるってんだから仕方無く貰ってやるってのも親孝行の一つなのだろう、と開き直る事にした。


 それと同時に『自由な金銭と裁量を与えその使い方を人に見られる』という人を見る為のカネの使い方もあるんだな、と言う事を改めて思い知った。

 人を見る手段としてはいささか「えげつない」やり方ではあるのだが、言われてみれば確かに如実に人となりが出てしまう効果的なやり方でもある。

 特に子供位の年代が相手だったら、非常に判り易い反応が返ってくるだろうし、それによってああなる程、この子はこういう時にこういうカネの使い方をする子供か、と推測する事が出来てしまう。

 その事で人物像等をある程度推し量る事も可能なのだろう。

 まあ、そう言う人を試す様な事を貴方の孫、そして私の息子相手に躊躇わずやるもんかねぇ、っていう引っかかりもあるにはあったのだが、


 「ああ、判ったよ。その件は私は無理に止めるものでは無いからねぇ」


 と一言だけオブジェクションを付け加える事でそれ以上の事を言わない様にした。


>アメリカン航空


 その御三家の一つである同社が2024年9月6日にS&P500銘柄から除外される、と言う発表と同月23日の取引開始前に除外が実施される、と言う報道は個人的に驚いたのと同時に、航空業界のレッドオーシャン化の凄まじさを感じた次第です。


>大抵カードかパーソナルチェック


 これは私が1990年代にアメリカに行っていた頃の情報なので、現状の情報が伝聞以外でアップデートされていません。


 現在ではBNPL(Buy Now Pay Later)の割合が急増しているようです。

 これは今までのクレジットカードによる後払いでは無く「分割手数料無料で分割払いが可能、そして、決済手数料は加盟店で負担する」と言うのが最大のポイントだったりします。


 このスキームによって、クレジットカードが不要で、手数料もほとんどの場合は不要、利用もし易い、高額な商品でも分割して支払える、と言うビジネスモデルが構築出来た為に、クレジットカードを所有していない、あるいは所有出来ない若年層を中心に支持される事になりました。


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