前日談4 真ん中ポジションは苦労して恨まれて
父がコツコツマイルを稼いでいるのはJALの方だ。
仕事で中国に定期的な出張で行く時に専らJALを使っていたから、そちらの方でマイルを溜めている。
ただ、JALの場合東京からワシントンDCへの直通便は無かったはずだ。
ANAの場合は直通便があるけど、マイルを使って特典航空券を手に入れる、と言う事が前提条件だと、JALで東京>ニューヨーク行きの便を利用してJFK空港に行った後、乗り換える必要がある。
というかJFKって国際線がメインだけど国内便って多かったっけ?
トランスファーで待つのも時間のロスだし慣れない空港での待機はそれなりに大変だろうし、増してやニューアークかラガーディアに移動してとか最悪だぞ。
普通に考えれば、行きはANA等の他の航空会社の便を使って、帰りにボストンからJALを使う、と言う手段が一番タイパ的にも手間暇的にも良い手段だと思うけどなぁ・・・
「確かJALはワシントン直通便が無かったはずだから、ニューヨークに行って乗り換える必要がある。直通便で行く事の利便性を考えれば、行きはワシントンへANAを使って移動、で帰りがボストンからJALで帰国、と言う選択肢もあるけど」
「何で無いんだ?」
「俺に聞くなよ」
世の平均的なコテコテ昭和脳が為せる技なのか、それともこの人だけのパッシブスキルなのか知らんけど、こういう所がしばしば私を辟易とさせる。
「まあいい、その件は調べておくように。それと10時間以上乗るんだから、座席はビジネスが良いぞ。」
「貴方去年末、嬉々として『とっておきの逸品』でマイルをバンバン使いまくってましたよね?」
「お前だって牛肉も食ったし、酒も飲んだろ?」
「ええ、大変美味しゅう御座いました。・・・ってまあそうですね、最悪会長だけでもプレミアムエコノミーで予約出来るか、後で残マイルを確認しましょう」
まあ、確かに13時間前後狭いエコノミークラスで飛行機に乗るのは確かに苦痛ではあるだろうな。
長時間飛行の時私の場合は、搭乗前に適度に酒ひっかけておけば後は機内で寝るだけだから、あまり気にした事も無いんだけど。
「じゃあ、今言った事や思いついた事についてそれぞれ調べて後日報告してくれ。それとチケットの予約は大体1年前から予約出来るから、あんまり遅いと特典航空券の枠が無くなるかもしれない。くれぐれも遅くなるなよ」
「いやいやいやいや、何どさくさ紛れで上手くまとまったみたいな事言うんだよ。まだ何一つ決まってもいないのにチケットの手配とか出来る訳が無いでしょうに。それに一応息子にアメリカの行く可能性のある都市とそこにある有名な観光スポットとかの情報を伝えておいて、その上でどういう所が良いか、何をしたいのかとかリクエストを聞いておかなきゃならんし、チケットの手配云々の前に結構やる事あると思うよ」
「ああ、判った。その件は任せるから早めに結論を出せる様にしろよ」
こうしてようやく終わった旅行の草案を受けて、すっかり芯まで冷えてアイスバインになった体を会長室の外に運ぶ。
さぁて、どうすっかなぁ・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夜、息子に今日父と話した内容を伝え、後日こっちで調べるアメリカ旅行について通り一遍の情報を送る旨を伝えたのだが、第一声が
「フロリダのディズニーワールド!」
息子第1巡選択希望都市:オーランド
ですよねー。
まあ、齢14の全部のパラメーターが平均値チョイマイナスな残念クソガキの頭じゃ博物館だ、美術館だ、歴史的建造物だ高尚な所は興味無ぇだろうなぁとは思っていたけど、なんでよりにもよってそこだけで旅行の全日程終わっちゃうレベルな規模のデカい場所わざわざ選んじまうかねぇ。
しかもこっちがわざわざ、ボストン、ワシントンDC、ニューヨーク、その他諸々の都市、と事前に釘を刺して置いてこれである。
想像力が働かないとか空気が読めないとか言われるのはそういう所なんだぞ、と言うツッコミを胸の奥に丁寧に4つ折りにして仕舞いつつ、3~4日程度じゃ絶対に全部回る事すら出来ない大規模過ぎる選択肢の実現性についてどの様に検討するべきなのか思わず頭を抱えた。どうやって伝えっかなぁ・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「無理だね。そもそも俺がそういう所、好きじゃないの判ってるだろうに」
ですよねー(2回目)。
念の為、息子の意向を父に伝えたのだが一発却下は予想通り。
元々父の場合、色々な所に行って観て、触れて、聞いて直接経験する事で見分を深めたい派だから、息子の提示したディズニーワールド1か所と言うのは端から無理な選択肢だったのだ。
大体だな、一寸想像すれば70代のコテコテ昭和のジジイがジェットコースター系も含めて絶叫マシーン各種とか普通に無理な位判るはずなんだがねぇ・・・
や、父なら体力的にはワンチャンあるかもだけど、遊園地のアトラクションとかそもそも私が子供の頃だって一緒に乗った記憶が余り無い位なのに、今更70代のそっち系に無縁だったジジイがネズミのカチューシャ被ってニカニカ笑って着ぐるみとじゃれ合ってはいチーズとかやったり、インスタ映えする様なメニューの皿持ってデコ写真撮ったり、絶叫マシーンアトラクションデビューしました~イイねポチってねとか、どう考えても、あらゆる面でも、絵面的も全てにおいてハードル激高過ぎだろ。
それ位想像してくれよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えーっ!何でダメなの?俺の意向とかガン無視かよっ!」
ですよねー(3回目)。
うん、このやり取りまどろっこしくって両者の胸倉掴んで互いの頭付き合わせながら「テメェらで思う存分、決着付くまで好きに話し合えやっ!」とやりたくなってきちゃった。やらんけど。
「いや、だってそもそも1か所で旅行の全日程消費しても足りない位な所選ぶお前もどうかと思うぞ。それに、海外の様々な歴史的な史跡だったり、収集した美術品や遺物を私達3人で観たりするのは結構重要な共通体験になると思うんだよねぇ・・・」
「そんなモン観たって面白くもなんともないじゃん!」
「やぁ、それは単にお前が物事知らなさ過ぎなだけだと思うぞ。知らないからその魅力だったり重要さだったりに気が付かない。お前が好きなゲームにしたって、攻略の為には事前に色んな情報を収集して、他のプレイヤー達の意見なんかも聞いて、つべで動画なんかも観たりして、それ等を総合的にまとめて自分なりの分析をして、試行錯誤して、そっからが本番、って流れだろ?それと同じ様なモンだって」
「ゲームと旅行とかぜんぜんちげーし」
「いやいや、本質的には世の中の大抵の物事が同じ様な仕組みで出来ているモンなんだよ。キャンプにしたってお前、ボーイスカウトとかでも事前に行動計画書とかキチンと作ってリーダーに提出してただろ?つか、そもそもモットーが『備えよ、常に』な所に所属してるのにそんな行き当りばったりな人生だと、大人になってから苦労すると思うよぉ。知らんけど」
「あーーーもーーー判ったよっ!!じ・い・じ・の・お・す・き・な・と・こ・ろ・に・つ・い・て・い・き・ま・すっ!か・ん・ぜ・ん・に・ぼ・く・は・あ・な・た・た・ち・に・し・た・が・い・ま・すっ!はい、これで良いんでしょ!?だったら最初から行きたい所とか聞くなよ、バカみたいじゃんか!」
「ハイハイ逆ギレしない。スポンサーは向こうなんだからある程度は主催者の意向が強く働く事は憶えておこうね。でもってその上でお前の意向なんかも今後アジャストして入れていくから。だからあんまりブー垂れるなよ」
「・・・・・・」
ハイ、ガン無視頂きました。ウン、実に素晴らしい親子の語らいだね!・・・ってか何でこんな無意味で訳判らない苦労せにゃならんのだ?
こういう時、真ん中ポジションはマジでロクなもんじゃねーな。